どこの施設にも、人数や程度の差こそあれ、認知症を抱える利用者さんがいらっしゃると思います。
認知症状にもいろいろありますが、代表的なところだと、
- 短期記憶障害
- 理解力・判断力低下
があり、自宅で、特に一人では生活できないという問題に至り、やむを得ず施設へ入所されたというケースがも多いでしょう。
認知症の種類や合併症の進行具合によっては、喋らない・反応が少ないとか、寝たきりになる場合もありますね。
悪しき認知症ケアの実際
昨今では、認知症ケアの知識・技術が豊富に聞かれるようになりました。
認知症ケア専門士という資格もあれば、ユマニチュードという手法が取り入れられたり。
※この記事の最後に補足説明あります
認知症患者の増加は世界的にも社会問題となっていますが、今後も増加していくことを前提に対処していく必要があります。
なので、介護に従事する僕らには適切なケアを提供することが求められます。
その適切なケアの指標に、認知症ケア専門士とか、ユマニチュードなどが含まれるということですね。
しかし、介護保険制度創設以前から、認知症の方のケアがひどく雑な介護職員がたくさんいました。
当時よりは少ないかもしれませんが、今でもいるんです。
そういう職員は口をそろえてこう言います。
「どうせわかんないんだから」
「すぐ忘れるから」
そうかもしれません。
理解力も低下した上に、1分前の事も覚えていないような方がいるので、確かにわかってないし、忘れてるかもしれません。
「アメあげる」と渡されて、数分後に僕からそのアメをあげたら「あら、いいの?」と笑顔で受け取られるとかなんか尊いですよね。
アメはともかく、「どうせ〇〇だから」と言って雑なケアが行われてる現状を打破すべく、権利擁護とか、「認知症とは」など正しい知識を学習してもらいながら、職員の良心に訴える啓発的な研修がよく行われます。
もちろん、認知症の基礎知識を固めるのは大事なことですし、権利擁護は介護において最低限かつ絶対のマナーと言えるでしょうね。
それですべての介護職員がケアを正してくれればいいのですが、実際はどうですか?
数はわかりませんが、まだまだそんな職員は大勢いますよね。
では権利擁護や認知症の研修会の内容が悪いのかというと、それとこれとは多分別問題だと思います。
その理由についてお話ししますね。
その人らしさを守る考え方とは
PCC(パーソン・センタード・ケア)という考え方があります。
認知症だろうがなんだろうが、その人の人間性を大事にしてケアしましょうっていう考え方です。
つまり、その人らしさを尊重するってことですね。
具体的には、ユニットの利用者全員一律の関わり方をするんじゃなくて、一人一人の性格やバックグラウンドを把握して、個別のケアを行います。
認知症の発症要因はご存知ですか?
実は、脳だけが原因ではないんです。
正確には、様々な要因が脳機能に悪影響を与えた結果、認知症状として現れるといこと。
その要因のひとつに、心があります。
ひどく落ち込むような出来事をきっかけに認知症を発症することってありますよね。
詳しくは、その出来事による激しいストレスが脳に悪影響を与えたってことになりますが、PCCによって実際に認知症状が改善したケースがあるそうです。
「どうせわからないから」と言う介護職員に足りないもの
「認知症の人に何したって、どうせわからないから」とのたまう介護職員に足りないものって、なんでしょうね。
認知症の知識や病的理解?
ケアの知識や技術?
どちらもあり得ますが、中には知識がしっかりある人もいます。
その介護職員に足りないものは、想像力です。
訴えが少ない、できないなどの利用者さんに対してケアを行う際、どうやってその利用者さんの気持ちを理解しましょう?
想像するしかありません。
生活歴や嗜好などのバックグラウンドがあれば、それは手がかりになりますね。
昔から花が好きだったみたいだから、部屋に花を飾ってあげたら喜ぶだろうなとか、そんな感じ。
想像力が足りてない人は、「理解力がない=何をされたかわかってない」という短絡的な結論を持ってしまうんです。
花を飾っても意味がないと考えたり、少しくらい荒く介助したってわかりゃしないと決めつけたり。
まとめ
知識や技術ってのはあくまで形式的に身につけ、活用するものです。
言い換えれば、全員が共通にインプット・アウトプットするもの。
単純に真似するだけなら、練習などすれば誰にでもできることです。
介護の知識・技術を活用する上で大事なのは、
- 相手がどんな状態か・その状態でどんな気持ちか
- この相手にはなぜこの知識や技術が必要か
- 知識・技術を活用した結果、相手はどんな良い状態に変われるか
- 良い状態になったら、相手はどんな気持ちになるか
基本的に、相手の気持ち・感情を確認しながらケアを行います。
気持ち・感情を確認するために必要なのが、想像力です。
これは僕らのプライベートでも一緒ですね。
「どうせわからない」
「すぐ忘れる」
こういう考え方に「No!」と訴える話は多いです。
「わからないんじゃない、訴えられないだけ」
確かにそうかもしれません。
そういう医学的見解もあるかもしれません。
ただ、残念ながら証明はできない。
「実はわかってる」かどうかということは、本人にしかわからないんです。
それを補うのが、僕たちの想像力です。
利用者さんの「その人らしさ」を守るのは、僕たちの「僕たちらしさ」が問われる想像力です。
介護は人を相手にするんだから、僕たちも人として、相手の気持ちを想像していきましょう。
それが思いやりです。
それが本人の本当の気持ちと違ってたとしても、僕たちは相手を思いやるしかないんじゃないかな。
※補足
認知症介護に従事している職員を対象に、認知症の方への支援について学習しましょうというもの。
更新制です。認知症ケア上級専門士・準専門士と、ランクがあります。
フランス語で「人間らしさ」を意味します。
これによって寝たきりの人が立てるようになったという事例もあるそうですよ。