介護の現場では、認知症などによる意識低下や高次脳機能障害によって指示が通りにくい方はたくさんいらっしゃいます。
食事において、自力摂取が難しかったり、誤嚥が多いなどの摂食・嚥下障害がある場合、どうしますか?
状態が落ち着くのを待つ?
レベル低下と割り切って、食事形態をミキサー食などに変える?
どちらも、かえってレベル低下を促進するだけです。
積極的に意識レベルの改善を図って、適切な評価・訓練を行えるようにアプローチしていく必要があります。
この記事では、摂食・嚥下障害に対して、5期モデルプロセスに沿った基礎訓練について紹介していきます。
①先行期での訓練
先行期とは
先行期とは、目の前に食べ物があるのを見て、
- どれを
- どのように
- どれくらい
- どんな方法で
- どんなスピードで食べるか
という意志決定を行って、口に入れる(捕食する)ところまでの段階です。
食べ物を視覚・嗅覚などで認知することから、認知期とも言われます。
先行期で重要なアプローチ
先行期では、認知機能や摂食動作、姿勢が重要になります。
食べ物を認知して動作を行うことは、次に控える準備期から咽頭期にも大きく影響する問題です。
これを改善するには、離床の機会を確保して、姿勢が安定するポジショニングなどの離床訓練を行って、認知機能を高める必要があります。
ちなみに、本人の状態にあったイス・車イスを選定することをシーティングと言います。ポジショニングと合わせて行っていくものです。
先行期での訓練項目
- 離床・環境調整
覚醒レベルや食事に集中できる環境を改善するための働き掛け - 口腔周囲筋群のマッサージ
リラックス効果や唾液分泌 - ポジショニング・シーティング
リラックス効果や安全な姿勢確保 - 摂食動作訓練・そのアシスト
適切な摂食動作や介助方法を確認しながら、困難な動作をアシストする
覚醒レベルや姿勢の改善は、そのために行われるということを忘れないでください。
②準備期・口腔期での訓練
準備期・口腔期とは
準備期
準備期は、食べ物を口に取り込んで、咀嚼して、食塊を作る段階です。
食塊とは、よく噛むことで唾液と混ぜ込み、文字通り味を噛み締めつつ、嚥下しやすくされた形状のことです。
食べ物が準備期に入るとすぐ、脳が咀嚼が必要であるかを判断して、必要であれば舌で臼歯に送られて咀嚼運動が始まります。
口腔期
口腔期は、食塊を口腔から咽頭まで送り込む段階です。
飲み込みの一歩手前になります。
準備期・口腔期で起こる問題
準備期に障害があると、口から食べ物がこぼれ出ちゃったり、咀嚼が不十分で飲み込みに適した食塊にならないうちに咽頭に入り込んだりします。
口腔期の障害の場合、舌がうまく動かずに、食べ物が口の中に残ったりすることで、時間差で誤嚥しやすくなります。
準備期・口腔期での訓練項目
- 口腔周囲筋の筋力強化・可動域の拡大・筋緊張の緩和
円滑な咀嚼運動 - 構音訓練(パタカラ体操など)
構音器官の機能向上 - ブローイング訓練
水に入れたストローを吹いてゆっくりブクブクするなど
これらの訓練によって、食べ物が口からこぼれ出たり、咽頭に不意に入り込むことを防ぐ力(口内保持力)や咀嚼力を向上することができます。
③咽頭期での訓練
咽頭期とは
咽頭期とは、食塊が咽頭から食道に入っていく(嚥下)段階です。
嚥下運動は、咽頭に到達した時に起こる反射運動なので、自分の意思でコントロールできません。
咽頭期で起こる問題
- 咽頭残留しやすい
- 誤嚥性肺炎に直結しやすい
食道の入り口の周りには梨状窩(りじょうか)があり、嚥下力が弱いとそこに食べ物が残りやすいんです。
これを咽頭残留と言います。
咽頭期での訓練項目
- 冷圧刺激
スプーンを冷やして口内に当てることで嚥下反射を引き起こせる - シャキア訓練
仰向けに寝て、へそを見るように頭だけ起こす、首の筋トレ - Kポイント刺激法
奥歯のさらに奥に、Kポイントというツボがあり、Kスプーンで刺激して嚥下反射を引き起こせる - 咳嗽訓練
うがいする
指示が通るかどうかでできる訓練が決まりますね。
医療分野との連携が必須
5期モデルの最後である食道期は、嚥下した後に食べ物が食道を通る段階です。
ここまでくるとほぼコントロールは不可能です。
強いていうなら、離床して座位姿勢を取ることで、重力も活用してスムーズに食道をお通りいただくってところですね。
障害がある場合は、完全に医療分野になります。
というか、ここまでの話は医療分野に入る訓練を省いたものなので、体調・機能評価・アプローチ全般において、医療・介護のチームケアでアプローチすることが、適切な摂食・嚥下機能訓練なんです。