ここまで、摂食嚥下のメカニズムについて、大分深掘りしてきました。
その中で、5期モデルって、嚥下の流れを示すものについても触れているんですけども、摂食嚥下障害を改善するにあたって、5期モデルを用いて適切に評価をすることは必要不可欠と言えます。
今回は、摂食嚥下のメカニズムを完全理解し、改善につなぎやすくするための考え方についてお話しします。
食欲や満足感の重要性とは
食べ物が口に入ってから、消化・吸収されて、排便として排泄されるまでには24~72時間かかると言われています。
それで言うと、摂食嚥下のプロセスっていうのは、1口につき、おおむね1分もかからないので、全然短時間で行われるものです。
その短時間のプロセスの中には、めちゃくちゃ多くの器官が一連の流れとしてフル動員されています。
その流れをスムーズにする要因のひとつが、食欲と、食べたことへの満足感です。
さらには、人が食事をするということは、社会的な側面もがっつり含んでいるんですね。
例えば家族の団らんとか、「新しく出来た店に行ってみない?」とか言って友達と食事したりね。
我が家ではよく「開拓するべ」って、ラーメン屋の検索に情熱を注いでます(*´∀`*)
コロナのせいでしばらく行けてないけど・・・
空腹と食欲の違い
空腹と食欲の違いってなんでしょう?
空腹感がなければ「食べたい」って欲求はわきません。
消費するエネルギーが少なすぎると、空腹にはなりません。
空腹や満腹中枢は視床下部にありますが、食欲や満足感の中枢は、前頭葉を中心に大脳皮質全体が関わっています。
例えば、
- パンを食べようと思ったらカビが生えていた
- 嫌いな食べ物ばっかり食卓に並んでいる
って状況だったら、めっちゃ空腹でも、食欲はわかないですよね。
ストレスが溜まっていたり、不安があったり疲れたりしている時も、なかなか食欲はわかないものです。
空腹は感じるので、義務的に食べるって人もいるんじゃないでしょうか。
食べる事の満足感
健全な社会生活を送る上で、食べる事で満足感を得るというのは欠かせないことです。
美味しいものはもちろんですが、質素だとしても、愛情を感じるような料理を食べたり、穏やかに食事介助を受けることで、安心や満足感を得られます。
満足感を得ることでドーパミンなどのホルモンが分泌されて、「食事に集中しよう」、「また食べたい」という意欲を駆り立てます。
人によって満足の指標は違います。
生活環境、美容や健康意識、地域ごとの食文化などいろんな要素が絡み合って成り立ってます。
なので、介護する人のバックグラウンドを知ることは、QOLの向上に大いに役立つというわけです。
5期モデルとは
摂食嚥下の流れは、
- 食べ物を認識する
- 手や、箸などの摂食用具を使って口に入れる
- 噛む(咀嚼)
- 飲み込む(嚥下)
- 胃に到達する
の5段階に分けられます。
その5段階を5期モデルと言って、それぞれが連動して、かついろんな気管をフル動員することで、摂食嚥下が行われるんです。
これを理解しておくのとしないのでは、ケアの質にどえらい違いが出ます。
ひとつずつ解説しますね。
先行期
先行期とは、目の前に食べ物があるのを見て、
- どれを
- どのように
- どれくらい
- どんな方法で
- どんなスピードで食べるか
という意志決定を一瞬で行って、口に入れる(捕食する)ところまでの段階です。
この時、視床下部の空腹中枢に加えて、大脳皮質で食べ物を認知するために視覚・嗅覚・記憶などの中枢神経や自律神経などが働いて、身体のいろんなところの感覚器・運動器・消化器が「よっしゃ食うぞ!」と準備を始めます。
それに、手や摂食用具を使って口の中へ食べ物を入れるという摂食動作と姿勢、摂食用具自体も、捕食機能として重要になります。
【先行期でのチェックポイント】
- 意識レベル(覚醒しているか)
- 簡単な指示が通る
- 言葉が出てくる(言語表出)
- 口へ運ぶ量やスピード
- 食べ物を目で確認している(視空間認知・無視)
- 集中している(注意障害)
- 失行(捕食動作が行えているか)
- 記憶障害
- 食べ物以外を食べる(異食)
- 隣の人の食べ物を食べる(盗食)
- 麻痺や可動域制限の影響
- 姿勢
- 動作や用具が適切か
5期モデルの中でも、その入り口であるだけに、チェックポイントは最多です。
認知機能の重要性については、あなたもよくご存知かと思いますが、侮るなかれですね。
準備期
準備期は、食べ物を捕食・咀嚼して、食塊を作る段階です。
食塊とは、よく噛むことで唾液と混ぜ込み、文字通り味を噛み締めつつ、嚥下しやすくされた形状のことです。
食べ物が口唇に捉えられると、瞬時に形・固さ・温度などを察知して、咀嚼運動や送り込みに連動します。
送り込みは、食べ物が口唇から舌・咽頭へ運ばれていくことです。
準備期に入るとすぐ、咀嚼が必要であるかを判断して、必要であれば舌で臼歯に送られて咀嚼運動が始まります。
液体とかヨーグルト状などの咀嚼が必要のないと判断されれば、これまた舌によってすぐに咽頭へ送られていくわけです。
食塊を作るためには、歯(義歯含む)・歯茎はもちろん、ちゃんと口を閉じて噛むこと、舌の自由自在な動き(上下・前後・左右・回旋)、頬や顎の感覚などが不可欠になります。
【準備期でのチェックポイント】
- 口を閉じる(口唇閉鎖)
- 舌運動
- 顎関節運動
- 咀嚼力
- 歯(義歯)や歯肉の状態
- 口内の乾燥・唾液の分泌
咀嚼する時に口が開いていると、空気と混ざって、食塊ができにくく誤嚥しやすい原因になります。
自分で口を閉じられない利用者さんもいらっしゃるので、その辺の介助も大事ですよ。
口腔期
口腔期は、食塊を口腔から咽頭まで送り込む段階です。
コンベアですね要は。
準備期で口唇閉鎖が大事だとお話ししましたが、ここでもやはり大事です。
口を閉じていることで、口腔内の圧力(口腔内圧)が上昇します。
ちょうど圧力鍋を思い浮かべてもらえるといいと思います。
圧力鍋を熱して圧力が上がり、調理を終えるところで蒸気を抜きますよね。
蒸気が抜けることで圧力が下がっていくわけです。
口腔内圧が上昇すると、その圧力(鍋で言うところの蒸気)は、どこに抜けていくでしょう?
開いている方ですよね。
鍋で言えば、蓋についてる穴です。
つまり、口腔内圧が上昇することで、開いている方、つまり咽頭の方への移動がしやすくなるということです。
逆に、口唇が開いた状態でいると、口から圧力が逃げていくので、口腔内圧は上昇しないんです。
そうなると、麻痺があったり認知機能が低下しているような人は、舌をうまく動かせない場合が多いので、いつまで経っても送り込みができないんですね。
一口をいつまでも噛んでる人や、飲み込んだはずなのに口に食べ物が残っている(食物残渣)方っていますよね。
そんな方は、送り込みに難がある可能性があるので、口唇閉鎖がされているかをチェックする必要があるということです。
【口唇期でのチェックポイント】
- 口唇閉鎖
- 舌でうまく送り込みができているか
- 食物残渣がないか
人間関係においても、無言の圧力がかかった時は、圧の弱い方に逃げ込みたくなりますよねえ。
咽頭期
咽頭期とは、食塊が咽頭から食道に入っていく段階です。
要は嚥下をする段階。
嚥下運動は、咽頭に到達した時に起こる反射運動なので、自分の意思でコントロールできません。
口に食べ物などを入れないで、唾液だけ何回か飲み込んでみてください。
意識して連続で嚥下するのって結構きついんです。
口と鼻がつながっているのはご存知と思います。
嚥下を行う際、舌が素早い動きで鼻につながるところを塞ぎ、食塊を咽頭の奥に押し込みます。
この時、舌骨に引っ張られて喉頭(のど仏)が上に動くので、触りながら嚥下してみてください。
食塊が咽頭の下に押し込まれると、喉頭蓋が反転して声門を塞ぎ、呼吸が一時的に止まります。
これを嚥下性無呼吸と言います。
そうやって気管への侵入を防ぎつつ、喉頭蓋の働きによって内圧が上がり、食道へ押し込まれていくわけですね。
何度もお伝えしてますが、咽頭期のこの流れも、先行期からの一連の流れによって円滑に行われていることを忘れないでください。
【咽頭期でのチェックポイント】
- 嚥下反射に要する時間
- むせ(液体によるものか、食べ物によるものか)
- 咳込み
- 痰がらみ・痰がらみによる声がれ(湿性嗄声)
- 鼻水
- 咽頭の残留物
嚥下に要する筋肉の種類は多いです。
関連する筋肉をうまく動かすために、首・肩・胸・腹部・腰部がしっかり支持されていることも重要ですよ。
食道期
食道期は、食塊が食道から胃まで送り込まれる段階です。
嚥下の際にかけられた圧力や食塊自身の重みに加え、食道筋による蠕動運動(ぜんどううんどう)がかち合って、胃へ送られていきます。
蠕動運動は腸でも行われてますね。
食塊が食道を通り抜ける時間は、何を食べたかにもよりますが。5~10秒くらいです。
1秒に4cmくらい進んでいます。
ちなみに水分の場合は3秒くらいです。
【食道期でのチェックポイント】
- 嚥下の後に咳がないか
- 胸につかえている感じはないか
- 嘔気・嘔吐
- 胃食道・咽頭への逆流
嚥下後に咳が出ている場合、誤嚥しかかっている可能性があります。
咽頭に残留物があった場合、時間を置いてから残留物がひゅっと入り込んで咳込むことがあります。
プロセスモデルとは
摂食嚥下には5期モデルの他にプロセスモデルというものもあります。
まあ、内容は似通ってるんですけど、ちょっと視点が違うので、解説しますね。
プロセスモデルとは、食べ物が口に入って嚥下が起きるまで、どのような仕組みをとっているかを詳細にしたものです。
諸説ありますが、5期モデルが提唱された当初は、5つの段階をそれぞれ独立して考えていました。
例えば極端な話、咀嚼をする際、咀嚼以外の運動は行われていない・・・みたいな。
「どうもそれでは説明がつかんぞ」ってことで、プロセスモデルが提唱されて、この5段階は連動して動いているんだと解釈されるようになったんです。
咀嚼しながらでも咽頭への送り込みは行われているし、嚥下した後に口内にまだ食べ物が残っていれば、また咀嚼を始めるという流れも、プロセスモデルで説明されます。
5期が連動している事実が判明したことで、摂食嚥下障害改善へのアプローチ方法が広がっていきます。
むしろ、例えば咀嚼がうまくできないから準備期だけに改善を試みても、うまくいかないことが多いんです。
肩こりの原因が心臓とか腎臓だったってのと似たようなもんです。
- この5期のどこで摂食嚥下が停滞しているかをまず確認
- 停滞している段階で、さらに詳細な原因を探る(評価する)
- 評価に基づいたケアを行う
これが適切な摂食嚥下障害改善への道のりです。
この道のりをたどるには、医療・福祉などのチームケアは大変重要になります。
医療処置を含む工程もあるのでね。
次の記事からは、摂食嚥下障害の原因などを詳細にお話ししたいと思います。