介護の現場で最も大変なことのひとつに、食事があります。
認知症の方の場合、なかなか食事が進まないことってありませんか?
この記事では、口にため込んでなかなか飲み込んでくれない認知症の方に食べてもらえるように、原因別の対応方法を紹介していきます。
考えられる原因
食べ物を口に入れてもなかなか飲み込んでくれない場合において、考えられる原因をお話します。
先行期での原因
先行期とは、5期モデルの中で食べ物を目で見る、においを嗅ぐなどして「食べ物がある!これを食べよう」と認識する段階です。
その先行期の段階に原因がある場合があります。
つまり、食べ物を食べ物として認識していない、もしくは食べることの行為そのものを忘れているということです。
認知症が進行すると、視覚・味覚・嗅覚などの全般的な脳機能が低下していきます。
そのために、食べ物を食べ物として認識できなくて、口に入ったものを「得体のしれない異物」と判断してしまう可能性があるんです。
嚥下ゼリーやお茶ゼリー、トロミ水などは、たいていの人は食べ慣れないものです。
なので、口に入れても吐き出したり、飲み込んでくれないことがよくあります。
味が薄くて原型がわからないゼリーやペーストなんかは特によくないですね。
また、食べる・飲み込む動作がうまくできない場合もあります。
食べ物の問題だけではなく、介助が必要な場合はその介助方法も工夫が必要です。
また、味が薄くて、色合いもないようなペーストなどは、文字通り味気ありません。
そんなものでは食欲もわきませんね。
一番良くないのは、食べないからといってその都度、経管栄養を利用しようとすることです。
経管栄養によって血糖値が高いままになります。
空腹は血糖値の低下によって起こるので、経管栄養を続けていると空腹感を感じず、食欲がわかなくなるんです。
先行期・準備期での原因
準備期とは、口に入った食べ物を咀嚼して、飲み込みやすいように塊にして(食塊)、嚥下するための準備段階です。
認知症による前頭葉症状により、口唇周囲に過度な緊張が入ってしまい、嚥下に繋がらない場合があります。
その結果、口腔内に食べ物を溜め込み、飲み込めなくなるんです。
準備期・口腔期・咽頭期での原因
口腔期とは、準備期でできた食塊を咽頭へ送り込む段階です。
咽頭期は、咽頭からさらに食道へ送る段階です。
嚥下動作はこれら2段階の内に行われます。
運動麻痺・廃用症候群による筋力低下
脳卒中による顔面神経麻痺や舌下神経麻痺によって、口唇を閉じての咀嚼、送り込み運動が困難になり、嚥下ができない状態になります。
また、口腔周囲の全般的な機能低下があると送り込みが困難になり、口腔内圧を高めることができないため、嚥下反射が起こりにくくなるんです。
ちょうど圧力鍋をイメージしてもらうと良いですね。
蓋をがっちり閉じて熱することで、鍋の中の圧力が急上昇します。
圧が高まった状態で蒸気を「プシュー」って抜くと、鍋の圧が下がります。
圧の出入り口を閉じると圧が高まりやすく、出入り口が開いていると圧が高まらないということです。
口唇が開いたまま飲み込もうとすると、出入り口が開いている状態なので圧が低く、僕らでも飲み込みにくいんです。
口唇が閉じていると、出入り口が閉じている状態なので、圧が高まっていきます。
口唇が閉じていれば圧はそちらには抜けないので、舌でしか塞ぎようのない咽頭の方へ抜けていくことになります。
つまり、口唇を閉じたままで口腔内圧を高めることが、嚥下反射の重要なカギになるということなんです。
口・顔面失行や嚥下失行
失行とは、運動機能や知覚に問題がないにもかかわらず、その行為が行えない状態のことです。
これは、主に頭頂葉(特に左)から前頭葉の障害による高次脳機能障害によって起こります。
口・顔面失行や嚥下失行があると、口唇閉鎖がうまくできず、舌が筋緊張を起こして口腔内で丸まってしまうなどの症状が起こります。
すると、咀嚼・嚥下動作がスムーズに行えず、飲み込めないままになってしまうわけです。
ジスキネジア
認知症状のひとつにジスキネジアがあります。
ジスキネジアが起こると、舌が不随意運動によって前方に押し出されたり、スプーンを口腔内に入れようとすると押し返してしまう動きが見られます。
一見、意図して押し出しているような動きをするため、食べ物はこぼれ落ちるし、見てる介助者は「あ、食べたくないんだな」と判断してしまいがちになります。
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症でよく見られます。
一口量が少ない
高齢の方や、認知機能が低下している方は、口腔内や咽頭の感覚・味覚が低下するので、口に入れた一口の量が少ないと、認識できなくて嚥下反射が起きにくくなります。
あるいは、口腔全体の機能低下や咽頭の障害がある場合、逆に一口量が多すぎて、口腔内の食べ物を処理できずに残っているということもあります。
原因を見極める際のポイント
- なかなか飲み込まない・飲み込めない(嚥下反射の惹起遅延)
- 食べ物が食道に送られず、咽頭に残る(咽頭残留)
- 咽込み
これらは先行期・準備期・口腔期の問題が混在して引き起こされやすいということを理解しておく必要があります。
どこに原因があるのか、この人は何を求めているのかなどを、先行期から複合的にアセスメントして、本人の日常に近い環境設定を心がけながら、不足部分を補うように工夫します。
原因に応じた対応方法
- 先行期では、手に持ってもらう、箸などを使った動作のアシスト、テレビなど不要な情報の遮断、食欲をそそる食事の工夫など、視覚・嗅覚情報を提供します。
- 嗜好品などを提供することで、食べる楽しみや満足を得られるようにします。
- 寝たきりでもできるだけ座位をとってもらい、アシストしながら自力摂取を促します。
- 姿勢調整、口腔内圧を高める口唇閉鎖のアシスト、舌への圧力刺激によって咀嚼・嚥下動作を促します。
このような工夫を行うことを前提に、原因別に対応方法を確認していきましょう。
先行期に原因がある場合の対応
「これぞ食事」という環境を整え、目で見て、においを嗅いで、手にもって食べてもらうことが重要です。
例えば、みかんを手に持たせて、皮をむいて見せてにおいを嗅いでもらったり、果汁を少し口に含ませてから、みかん味のゼリーを食べてもらうことで、食べることを楽しんでもらうことにつながります。
介助者もおいしそうに食べる姿を見せることも、効果的なケアのひとつです。
ベッド上で食べるなら、ベッドアップの角度は60度以上。
可能なら車いすに離床して、座位で食事をとるなどの姿勢を調整します。
筋力を低下している方なら、肘の位置を安定させたまま両手を動かせる高さのテーブルを活用することで、食事への集中や、目・手・口の協調運動(連動した動き)がスムーズになります。
先行期・準備期に原因がある場合の対応
先行期も含みますので、まずは嗜好に応じたもの、美味しそうな食べ物を提供しましょう。
家族から差し入れとかある場合、本人の好きなものである場合が多いので、活用しない手はありません。
摂食・嚥下障害のためにお粥提供せざるを得ない方は多いと思いますが、そもそもお粥を好まない人も案外多いです。
お粥に焼き肉のタレのような濃いめの味をつけてあげると、スムーズな嚥下につながりやすいです。
タレを付けた焼き肉をご飯に1バウンドさせた後にそのご飯食べるとめちゃくちゃ美味しいですよね。
水分もお茶ではなく、コーラなどの炭酸水やコーヒーなどを添える工夫も重要です。
オロナミンC好きの利用者さんって1割くらいいますよね。
また、手でつまむ・持つ、箸を使用するなどして自力摂取を促しましょう。
中にはもともとの生活習慣などの要因で、中には1日3食では多い方もいます。
そんな方はいっそ2食にしてしまって、間食にアイスクリームやプリンなど、高カロリーなおやつを提供した方が、栄養量を確保出来る場合があります。
運動麻痺・廃用症候群の場合の対応
準備期での対応はここでお行います。
口腔周囲筋を刺激するため、せんべいやキャラメルコーンなどを、前歯で噛める(捕食できる)ように口唇の中央から入れて、咀嚼と嚥下を誘導します。
この場合に限ったことではありませんが、誤嚥対策はしっかりしておきましょう。
開口を促せるように、下顎を下に下げるようなアシストをします。
「顎クイ」の逆再生をイメージしてもらえばいいかな?
スプーンを下唇につけ、ゆっくりでも本人が口を開けてくれるのを待つのも良い方法です。
二口目からはスムーズにいく場合が多いですが、一応時間の余裕を持ってやってくださいね。
どうしても開口ができない場合は、シリンジにドロドロ過ぎない程度にトロミのついた水分やゼリーなどを入れて、左右の口腔前庭から1~2mlずつ流し込み、嚥下を誘導します。
舌の上に直接流すと、ふいに咽頭に入り込んで誤嚥する可能性があります。
あくまで自身の送り込み動作からの嚥下を誘発できるような支援が望ましいです。
口・顔面失行や嚥下失行の場合の対応
自分で動作を上手く行えないのが失行です。
なので、重力を利用し、口腔から咽頭への送り込みが自然に起こるようにする方法があります。
「起きて食べる」ことです。
当たり前だとお思いでしょうが、普段の食事介助を思い出してください。
座ってても前傾になっていたり、ベッドで横になったまま食べてはいませんか?
それらは全て誤嚥のリスクファクターです。
適切な姿勢を確保できれば、誤嚥のリスクをかなり抑えることができます。
加えて、スプーンによる舌への圧刺激(強すぎるとおえっとしちゃうよ)、口唇閉鎖や下顎挙上のアシストに加えて、下顎を動かして咀嚼運動をアシストするのも有効です。
ベッド上で、ベッドアップしているのにむせが多い場合は、角度が不適切か、ベッド角は良くても枕が低いなどの要因があります。
枕の高さ=顎の角度は、下顎と鎖骨の間に指4本入る程度が適切です。
顎の角度は椅子上でも重要なので、うまく食べれない時は確認してみてください。
ジスキネジアの場合の対応
ジスキネジアの場合、不随意運動は無理に止められないので、重力を利用した姿勢保持を試みます。
角度は30~45度まで下げて、顎の角度は4本指維持の姿勢をとってください。
食事介助する際は、スプーンを舌の奥側の上に置くように介助します。
おえっとなっては困るので、目視できる範囲で舌の中央か数㎜奥です。
置けたら、口唇閉鎖をアシストしてください。
一口量が少ない場合の対応
一口量が少ない場合は、単純に量を増やします。
とは言え、増やし過ぎると逆効果ですので、目安として一口4~5gにしてみます。
お粥当たりで測って、だいたいどれくらいの量か覚えてくださいね。
別の方法として、追加嚥下という技があります。
一口量が少なくて咀嚼が始まらない場合、飲み込んでなくても、同じ量の一口を追加で口に入れます。
1~2回やっても咀嚼が始まらない場合はちょっと難しいので、別の手を考えます。
空のスプーンで圧刺激、咀嚼アシスト、口腔周囲のマッサージなどです。
嚥下反射を確認したらすぐ次を口に入れられるよう構えておきましょう。
逆にカレースプーンのようなヘッドの大きいスプーンを使っていると、どうしても一口量が多くなりがちなので、ティースプーン程度のヘッドのスプーンに変更した方が良いです。
Kスプーンっていうのがおすすめなので、Amazonとかで検索してみてください。
まとめ
口のため込んでなかなか飲み込んでくれない方は、認知症だと結構多いです。
食事介助は時間がかかる程、介助者にとってストレスになるものですが、イラついて声を荒げたところで食べてくれるわけがありません。
かえって自分の体力の無駄なので、ここで紹介したようなスキルを活用して、安全に、気分良く食事を摂ってもらえるようアプローチしてみてください。