食事の時間になっても目を開けてくれない認知症の方への対応方法

介護の現場で最も大変なことのひとつに、食事があります。

認知症の方の場合、なかなか食事が進まないことってありませんか?

この記事では、食事の時間になっても目を開けてくれない認知症の方に食べてもらえるように、原因別の対応方法を紹介していきます。

 

原因を見極める際のポイント

食事は「目で楽しむ」のも、おいしく食べる秘訣のひとつです。

僕たちは普段、食べ物を目で見て、「あ、食べ物だ、おいしそう」と認知しながら食事をしています。
この「食べ物を認知する段階」は、摂食・嚥下5期モデルの先行期にあたります。
先行期とは、食事摂取のスタート地点と言える段階です。

目を開けてくれないということは、食べ物の認知が困難ということで、すなわり誤嚥や窒息のリスクにつながります。

一方、目が開いているなら、目の前の食べ物がなんなのか、どうやって食べるのかを判断し、摂食動作や安全な嚥下につながります。

僕たちは何も、意識して「食べ物をみよう」、「どうやって食べるか考えよう」としているわけではありませんが、それを無意識に行うことで食事の動作等につなげています。
つまり、目を開けてた安部物を見ながら食事をすることは、摂食・嚥下ケアにおいてはとても大切なことなんです。

目を開けてくれない原因はいくつかあります。
おおむね、次の通りです。

  • 意識レベル低下
  • 覚醒不良
  • 目を開けていられない(開眼維持困難)

その原因を見極めるには、病状や生活状況、服薬、人とのかかわりなど、いろんな情報を集めなければなりません。

 

「意識レベル低下」を見極めるポイント

ここで一番大事なのは、意識レベル低下と覚醒不良の違いを見極めることです。
目を開けない場合、まずは病状の進行や一般状態の変化を確認する必要があります。

脳卒中の急性期においては、脳浮腫によって意識レベルに変動が見られます。
バイタルサイン、食事前の様子、瞳孔不同の有無、呼吸変化を観察しましょう。

「覚醒不良」を見極めるポイント

意識レベル低下ではないことを確認したら、覚醒不良を疑います。

覚醒不良にもいろんな原因がありますが、代表例を挙げれば、次の3つです。

  1. 昼夜逆転
  2. 睡眠薬の影響
  3. 刺激不足

これらへの対応が覚醒状態に改善につながります。

「開眼維持困難」を見極めるポイント

覚醒はしているのに目を開けていられない状態を開眼維持困難と言います。
認知症や脳損傷による前頭葉症状のひとつと思われます。
顔面の緊張によって目を強く閉じてしまったり、食事介助を始めるとだんだん開眼を維持できなくなったりします。

原因に応じた対応

意識レベル低下への対応

意識障害による意識レベルの低下は、病状の進行による可能性が高いです。
であれば、食事はいったん中止せざるを得ません。

まずはバイタルサインの測定と一般状態の観察を行います。
その際の注意点ですが、1人で全てを判断しないことです。

普段と「ちょっと違うな」って感じたら、いったん食事を中止して周りの職員に声をかけて一緒に対応しましょう。

バイタルサイン等に異常があれば、すぐ医師につないでください。

覚醒不良への対応

意識レベル低下の原因が意識障害ではなかった場合は、次に覚醒不良を疑います。

覚醒不良の状況にもよりますが、まずは刺激が少ないことによる覚醒不良かどうかを確認します。
特に寝たきりの方は、刺激が少ないために覚醒不良になりやすいと言えます。

覚醒を促す適度な刺激を与えることができれば、昼夜逆転の改善が期待できます。
睡眠薬を常用している場合は、副作用が強く出ている可能性もあるので、医師の助言を仰ぎましょう。

では、適度な刺激を与える具体的な方法もお話します。

離床による刺激

座位や立位は、その姿勢の保持に筋力を使用します。
筋力によって重力に抵抗しているわけです。

僕たちも、横になってれば自然と眠くなってきますよね。
それは、「重力に抗する」という刺激がなくなったためです。
ということは逆に、その刺激があれば覚醒不良を改善できる可能性が高いということです。

本人の全身状態に問題がなければ、なるべく離床を勧めましょう。

ただ離床するだけでなく、ベッドから起きる時にいったんベッドアップしてから移乗する、またはいったん端座位になってから移乗するというひと手間によって意図的に覚醒を促すことができます。
それこそ僕らだって、起きるときは「体を起こし上げてから」ですよね。
日中にこれを行うことで、昼夜逆転を改善することもできます。

無理はせずとも、できるだけ日中の離床時間を増やすよう心掛けてください。

口腔ケアなどの刺激

口の中の感覚は非常に敏感で、刺激することで脳の覚醒を促します。

口腔ケア、口腔内を冷やす(冷圧刺激)、味覚の刺激によって効果が期待できますよ。

開眼を介助する

離床や口腔ケアなどの刺激を与えてもなかなか目を開けてくれない場合があります。
その場合は、介助によって開眼を手伝い、視覚的な情報を刺激として与える方法が有効です。

食事介助のためにスプーンなどを持つ手と反対の手を使います。
ちょうど、親指と人差し指でピストルの形を作るようにして、左右の目のまぶたを優しく持ち上げてあげます。
無理やりこじあけることのないように加減してくださいね。

そうしながら「ぶどうのゼリーですよー」とか声掛けしてあげると、視覚・聴覚が連動して、意識が食事に向きやすくなります。
においなどを嗅いでもらったり、スプーンや食器を手にもってもらうのも良い手ですね。

開眼維持自体が困難な場合への対応

覚醒していても目を開けていられない場合があります。
認知症や脳損傷による前頭葉症状のひとつです。

具体的には、顔や口の周りに触れられた時に筋緊張が強くなり、目を強く閉じてしまう・・・って感じです。
また、目を開けたと思って食事介助を始めると、だんだん開眼を維持できなくなるパターンもあります。
開口と開眼を同時に行うといった複合的な動作ができないことも特徴です。

このケースでは、筋緊張や複合的な動作ができないといった問題が混在しているため、「これさえあれば問題なし!」という特効薬的な対応はありません。
まぶたを押し上げるアシストが有効な場合もありますが、逆に筋緊張を強めてしまう場合もあるからです。

前頭葉症状により開眼が難しくなっている場合の対応方法は、次の3つです。

リラクゼーション

顔の筋緊張が強い場合は、いきなりまぶたに行くのではなく、まずはリラクゼーションを実施します。

手のひらを使って、

  1. 二の腕
  2. 頸部

の順番で優しく、軽いマッサージを行うように触れていきます。
慣れてきたら手なども優しく触れていきましょう。

最初に「二の腕」である理由を説明しておきますね。

例えば僕らが初対面の挨拶をする際、相手に触れるとすれば「手」、握手です。
そういう先入観は多くの人が持っていると思うので、リラクゼーションも手からじゃないの?と思う方もいるかもしれません。

確かに、脳から遠い場所から触れていくのが良いという説もありました。
しかし、手というのは人体の中で、口腔や口腔周囲の次いで過敏な部位です。
認知症などによって「何のために触られているか」が理解できていない場合、そんな過敏なところにいきなり触れるのは、かえって筋緊張を強める可能性があります。

対して二の腕は比較的鈍めなので、最初に触れる部位としては意外といいんです。
だからって無言でいきなり触れないようにしてくださいね。
あと、脇に近すぎるのも良くないね。

動作を誘導する声掛け

開口と開眼のような複合的な動作を行えない場合は、一つ一つの動作を声掛けによって誘導します。

例えば、

  • 「目を開けて」
  • 「これを見て」
  • 「口を開けて」
  • 「口を閉じて」
  • 「飲み込んで」

というふうに、分かりやすい単純な言葉で、発する声にも抑揚をつけて声掛けしてください。

この声掛けに相手が応じて動作できるようになったら、次は

「目を開けて、これを見ながら口も開けて」

というふうな、複数の動作を指示しながら少しでも開眼を維持できるように関わっていきましょう。

口唇への刺激

開眼が困難な場合、声掛けをしながら下唇にスプーン(食べ物)を付ける(接地)ことで開眼を促します。

開眼ができるのであれば、食べ物を「見せる」ことで視覚に刺激を与えることができます。
が、出来ない場合はそれ以外の感覚で開口を促す必要があります。

その方法のひとつが、下唇への接地です。
下唇に接地したところでスプーンを、次は舌の中央に接地します。
そこで咀嚼への反応が誘導され、上唇が閉じます
それを確認したら、上唇に沿ってスプーンを引き抜きます(手首のスナップをきかせる感じで)。

食事介助をする時に、たまに口唇をスプーンでつっついて開口させようとする人がいます。
これは、筋緊張が高い人にはかえって逆効果になりますので、やめてくださいね。

まとめ

食事介助の時になかなか口を開けてくれない方へは、感覚刺激を上手に用いた介助が重要になります。

慣れないうちは相手の反応を見ながら、触れる際の力加減を覚えていくようにしてください。