認知症の症状のひとつに、うつ状態があります。
注意してもらいたいのは、うつ病とうつ状態は、似て非なるものということです。
その鑑別はかなり難しいと言われています。
しかし、「もう死にたい」という気持ちが強く表出している場合、うつ病の可能性を疑う必要があります。
これによって食事を摂らなくなっては、明確な自殺企図がなくとも、命に関わりますよね。
この記事では、高齢者うつ病が原因で食事を摂ってくれない方への対応についてお話します。
原因を見極める際のポイント
高齢者のうつ病
先述の通り、高齢者のうつ病は認知症と似た症状があり、仮性認知症とも言われるほど、その鑑別が難しいそうです。
高齢者のうつ病は、
- 自発性の低下
- 発語の減少
- 食欲低下
など、認知症によるうつ状態と間違われがちです。
ですが、「自分はもうだめだ」「もう死にたい」などの自責や自殺企図・希死念慮などが見られる場合は、高齢者うつ病である可能性があるんです。
また、高齢者うつ病は、「気分がふさぐ」などの精神的な症状ではなく、「体が痛い」「肩がこる」「疲れがとれない」などの身体的な症状を訴えることが多いと言われています。
このような状態を仮面うつ病と言います。
うつ病とは違うという意見もあれば、仮面うつ病はうつ病の初期症状であるという意見もあります。
難しい話はともかく、高齢者うつ病か否かを判定するには、身体症状も併せてみていきましょうってことです。
高齢者のうつ病と認知症の鑑別のポイント
うつ病 | 認知症によるうつ状態 | |
記憶の障害 | 自覚あり(訴えが強い) | 自覚なし |
精神的・心理的ストレス | 発症の原因となることが多い | 関係がない場合が多い |
絶望感・自責 | あり | 少ない |
治療への反応 | 回復の可能性あり | 回復しにくい |
高齢者うつ病への対応
高齢者のうつ病では、もの忘れや気分の変調に対して、実際の症状以上に本人から訴えが強いことが多いと言われています。
また、環境の変化や、精神的・心理的ストレスが発症の原因になっている場合が多いです。
「体調を崩してからボーっとすることが多くなった」
「引っ越しをしてから話をすることが減った」
これらのような、発症のきっかけになるような出来事がなかったかを確認しましょう。
また、絶望感や自責の念が見られる場合は、むやみに関わろうとせず、精神科医へ相談するか、GDSなどの質問しを用いて、うつ病の可能性を検討しましょう。
高齢者うつ病の罹患率は結構高いです。
60歳以上の高齢者の約15%はうつ状態にあり、約5%はうつ病と診断されるともいわれています。
- 身体的な痛みの持続
- 困った時に相談できる人がいない
- 病気で寝ているときに世話をしてくれる人がいない
こういったことがうつ病発症のリスクファクターになっているそうです。
また、脳卒中発症後は、うつ病発症のリスクはさらに高く、予後やその後の生存率などにも影響を与えると考えられています。
症例
認知症を疑われていたものの、実はうつ病だったという症例を紹介します。
その患者Aさんは、脳梗塞を発症し、右片麻痺の診断で入院しました
高血圧、仙骨部褥瘡を併発し、元の主治医には認知症との診断を受けています。
入院当初、表情も乏しく、意思疎通も困難でした。
「もうダメだ。死んだ方がいいの」などの言葉を話し、涙を流すこともありました。
食事はミキサー食で、毎食3~4割ほどしか食べません。
1日におよそ700kcal程度しか接種できていませんでした。
長谷川式スケールでは14点、MMSEが18点と、ともに20点未満のため、認知症と判断されていました。
しかし、希死念慮などが見られたことからうつ病の可能性が疑われ、GDSによる評価を行いました。
すると、
- 将来の漠然とした不安に駆られることが多い
- 自分が無力だと思うことが多い
- 物忘れが気になる
- 希望がない
- 周りの人が自分より幸せそうに見える
という多くの項目が該当し、ザ・うつ病な可能性があると判定されました。
そこで、抗うつ薬による治療を開始します。
抗うつ薬は即効性があるわけではありません。
1~2週間、効果を観察します。
するとAさんに、2週間後から表情の改善があり、希死念慮も消えたのです。
うつ症状の改善とともに食事を摂れるようになり、退院時には1日1,800kcalを摂取し、笑顔で病院スタッフに礼を言えるようになりました。
まとめ
スケールまで使って認知症だと考えられていても、食事摂取量が低い原因が高齢者うつ病であるという症例も多いそうです。
特に脳卒中後の症例では、高次脳機能障害などによって長谷川式スケールやMMSEの点数が低下することがあり、認知症の誤診される可能性があるんです。
この記事内にまとめた、うつ病を疑うポイントが利用者さんに認められるようであれば、認知症のスケールだけでなく、GDSなどを活用してみるのも有効かもしれませんよ。