認知症や寝たきりなどの方は、口腔内が乾燥していたり、痰などの汚れがこびりついていることが多くあります。
それによって、不快感がある、味覚が低下する、口腔機能・嚥下機能が低下するなどの問題が現れ、食思不振、誤嚥の原因になる可能性が高いです。
この記事では、口腔内が乾燥していて、痰が付着している方への対応についてお話しします。
原因を見極める際のポイント
口が乾燥している(ドライマウス)原因は、複数が絡み合っている可能性があるため、先入観を持たずに対応することが重要です。
本人からドライマウスに関する訴えがなくても、適切な評価によってドライマウスが確認される場合があります。
解決のためには、歯科を含めて多職種による連携が不可欠です。
まずはドライマウスを疑うポイントについてお話しします。
ドライマウスを疑うポイント1:痰の付着
ドライマウスを疑う第一のポイントは、口蓋(上あご)や咽頭などに喀痰が付着している場合です。
このような場合はドライマウスに加え、口腔機能も低下している場合が多くあります。
義歯を使用している方であれば、その汚れ具合も確認しましょう。
口腔機能が低下しているかどうかは、頬を膨らませる運動や舌の出し入れなどをしてもらうことで評価できますが、認知機能の低下から指示が通りにくい場合は、義歯の頬側の汚れぐらいからある程度推定することができます。
単純に義歯の不具合から汚れが溜まっている場合もあるので、歯科への診断を依頼するのが無難です。
ドライマウスを疑うポイント2:義歯が合わない?
もうひとつのポイントとしては、「義歯が原因で歯茎が痛い」、「上の義歯が落ちてくる」などの訴えがある時です。
こういう訴えがあると最初に疑うのは「義歯が合ってない」です。
確かにそれもあります。
しかし、義歯と顎の粘膜を密着させているのは、唾液です。
上の義歯が落ちやすくなっているということは、唾液が足りなくてくっつかなくなった可能性があります。
この時、顎の粘膜に傷がつきやすくなります。
傷がついてしまうと余計に口腔機能が低下するので、早期の対策が必要です。
唾液分泌の減少イコール・・・?
口腔内の乾燥は、介護現場では軽視されがちです。
ですが、唾液分泌の減少は低栄養のリスク要因であるとも言われているので、必ず観察してほしいです。
口腔内に保湿剤を塗るだけでは解決しない場合もあるので、歯科への相談も大事です。
原因に応じた対応
生活習慣の確認
口腔内乾燥の原因のひとつとして、脱水があります。
カフェインやアルコール、ニコチンは高い利尿作用があるため、脱水状態をきたし、唾液分泌の低下を招くことがあります。
これに加えて唾液分泌低下の副作用がある薬剤を使用している場合、もうダブルパンチで口内カッサカサですよね。
生活の中での嗜好などからひょっこり原因がわかることがあるので、確認してみてください。
保湿を意識した口腔ケア
口腔ケアの目的は、口腔内の清潔だけではありません。
保湿対策もしっかりしていきましょう。
アルコールが入った洗口液やイソジンガーグルなどを使うと、ドライマウスが悪化する可能性があるので注意しましょう。
保湿剤を使う場合は、利用者さんの口腔内の状態に応じて、塗布の回数を調整することも必要です。
また、前に塗った保湿剤が残った状態で新たに保湿剤を重ね塗りしてしまうと、保湿剤が口腔内で固まり、喀痰が付着したのと同じ状態になります。
保湿剤を塗る時は、
- 口腔内をきれいにする
- なるべく薄く塗る
チューブから出す量は、口腔内全体に付き1回1~2cmくらい
を意識しましょう。
唾液腺マッサージ
唾液腺を刺激することで、唾液の分泌を促します。
唾液腺は、大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)と、口腔周囲に多数ある小唾液腺からなります。
唾液腺のあるところを意識してマッサージを行ってみてください。
しかし、水分制限のある方は唾液量が低下しているので、マッサージによって唾液を絞り出してしまうと、普段の唾液量がさらに減ってしまいます。
そういう方へは唾液腺を避けた方が良いかもしれません。
サルコペニアを防ぐ
サルコペニアとは、あらゆる原因による筋肉量と筋力の低下のことを言います。
サルコペニアによって唾液減少にもつながると言われています。
ということは、筋力を鍛えて筋肉量の減少を防げば、口腔機能は維持され、唾液量の減少を食い止めることができるということです。
また、筋力が低下した舌が、重力に負けて気道を閉塞すると口呼吸が増えるので、ドライマウスにつながるとされています。
筋力向上は年を取っても必要なことなんですね。
ただし、サルコペニアの予防・改善には、栄養評価を行った上での機能訓練が必要で、うまくやらないと逆効果になることもあります。
歯科治療
義歯が合っていないことで、咀嚼や嚥下の機能が低下します。
その結果、本来咀嚼などの刺激によって出る唾液量まで低下するわけです。
加齢によってそもそもの唾液腺機能が低下しているものなので、咀嚼が十分に行えるようにするのは重要です。
また、虫歯(う歯)で歯の痛みがあったり、歯周病で歯がぐらついている場合でも同様です。
前歯がない場合、口唇が内側に入り込んでしまって、口唇閉鎖ができずに口腔内の水分蒸発につながります。
総義歯を外した時の口唇をイメージしてもらうと分かっていただけるかと思います。
逆に、義歯があれば解決できる問題です。
こういう理由もあるので、通常、義歯は洗浄時以外24時間装着が基本と言われているんです。
サージカルマスクの装着
どうしても口が閉じられずに口呼吸になってしまう場合は、サージカルマスクが役に立つ場合があります。
基本ドライマウスの対策は「保湿」+「水分蒸発の防止」になります。
保湿剤を塗った上でマスクをすると、効果てきめんです。
ただ、マスクをしてかえって息苦しくなってしまう場合もあります。
認知症の方などは装着してもすぐ外しがちですので、ケースバイケースでいくしかないですね。
薬剤の軽減
服用している薬剤が原因と思われる場合、薬剤の減量、もしくはドライマウスの症状が出にくい薬への変更が可能かを医師に相談します。
まあ必要な薬であることが多いので変更は難しいかもしれませんが、薬剤の把握は多方面で重要なことですので、チェックする必要はあります。
水分摂取量を増やす
高齢者はよく、「トイレ近くなるからいらない」と言って水分をとりたがらない傾向があります。
(それ、気のせいらしいですけど)
また、嚥下障害があることで、そもそも水分摂取が困難である場合があります。
まずは、1日の水分摂取量、尿量などを確認しましょう。
その上で、過剰に摂取しないことを前提に、また水分制限がある方は注意しながら水分摂取量を増やす工夫をします。
声掛け、好きな飲み物、ゼリーの提供などやり方はいろいろあると思いますが、コーヒーや緑茶など利尿作用のある飲み物は逆効果になる恐れがあるので、注意です。
まとめ
口腔内の乾燥と痰の付着を改善することは、食事をすることはもちろん、口の爽快感につながり、QOLを向上させます。
今でもあるかもしれませんが、昔は経管栄養の方に対して「ご飯食べないんだから歯磨きは必要ない」という考えが、在宅はおろか介護施設にもありました。
これは間違い、逆です。
ご飯を食べないってことは、咀嚼しない=口を動かす機会が減るということです。
すると、先述の通り唾液の分泌量が減ってしまうので、ドライマウスを招きます。
ドライマウスになると、不快感、味覚の低下、粘膜が傷つきやすい、ばい菌が繁殖しやすいといった二次的な症状が発生するため、経口摂取している人よりも誤嚥性肺炎等のリスクが高くなります。
食事のためだけでなく、本人の全般的なケアとして、乾燥と痰の付着には気を付けてくださいね。