介護や医療の現場にいると、いろんな専門用語が飛び交ってますね。
専門用語ってだけで意味が分からないことが多いんですが、加えて、微妙なニュアンスの違いで、どう区別していいかわかりません。
例えば、廃用症候群・サルコペニア・フレイル。
みんな似たようなイメージ、ありません?
この記事では、介護でも医療でも頻出する、廃用症候群・サルコペニア・フレイルについてそれぞれ解説します。
廃用症候群とは
病気やケガなどで長期間安静を余儀なくされると、身体を動かす機会が減ります。
筋肉や関節などは動かす機会や時間が少ないと、その分弱ったり、固くなっていきます。
そこまではイメージできると思いますが、身体を動かさないことで弱っていくのは筋肉や関節だけではないんです。
内臓への影響
内臓は、筋膜によって体中の筋肉とつながっています。
その筋肉が弱ったり固くなったりすると、筋膜に引っ張られて内臓が正常な位置から下がり、内臓が機能不全を起こすんです。
内臓の状態が悪ければ、慢性的な不快感、消化不全、肝臓や腎臓による体の解毒機能低下、心不全などにつながります。
その中でも腸は「第2の脳」と言われてまして、腸の機能低下によって認知症につながるという考えもあるんです。
心への影響
体と心はつながっています。
心が脳にあるのか、胸にあるのかはわかりませんが、身体を動かさないことで脳への血流が低下し、脳機能が低下します。
脳機能が低下すると、思考・理解・判断がうまくできなくなります。
思考を奪われるということは、心に秘めた熱い思いみたいなのを言葉にすることもできなくなりますね。
何か夢があっても、夢を実現するための行動ができない状況にあれば、徐々にその思いはしぼんでしまいます。
身体を動かさないことによって、心も弱っていくんです。
「寝たきりになると認知症になる」って言いません?
それは、心の廃用症候群のせいですよ。
正確には、物事を考えるのは頭ではなく腹であると信じられていたんです。
「腹を割って話す」という言葉を聞いたことあるかと思いますが、これは「本音・本心で話すには腹を割って、腹の中を見せなきゃいけないねー」というのが語源だそうで、腹を割って話す=本音で話すという意味になったんです。
悪循環
筋肉、内臓と心への影響についてお話ししましたが、詳細な弊害はまだまだあります。
- 食欲が低下し、誤嚥や逆流性食道炎の可能性が高くなる
- 便秘になりやすくなる
- 血管に血栓ができやすくなる
- 褥瘡(じょくそう=床ずれ)ができやすくなる
- 睡眠障害
これらが併発すれば、余計に起きて動くことがしにくくなりますので、それによってさらに廃用症候群がすすむことになります。
以上のように、身体を動かさないことで、身体だけでなく心まで弱っていき、生活に支障が出る状態を廃用症候群といいます。
サルコペニアとは
サルコペニアとは、加齢などによって起こる、進行性(徐々に進行する)で全身に現れる筋肉量と筋肉の減少による症候群で、身体機能障害はもちろん、場合によっては死のリスクを伴うものです。
語源
ギリシア語でサルコが「筋肉」、ペニアが「喪失」を意味します。
併せてサルコペニア=「筋肉の喪失」という造語で、筋肉・筋力の低下を指します。
なかなかうまくできた造語ですね。
原因
サルコペニアが起こる流れにも種類があります。
さくっと説明しますね。
一次性(原発性)サルコペニア
加齢性サルコペニアとも言います。
加齢の他に原因がない場合です。
二次性サルコペニア
- 身体活動性サルコペニア
ベッド上での長期安静や、運動をしない生活などが原因 - 疾患性サルコペニア
重度臓器障害(内臓や脳)、悪性腫瘍や炎症・内分泌疾患などが原因 - 栄養性サルコペニア
消化管疾患、吸収不良、食欲不振をきたす薬剤、エネルギー・タンパク質不足などが原因
もちろん、一次性と二次性が併発して起こる場合もあります。
人が生活上の動作を行う時、全身のあらゆる筋肉が活動します。
「立つ」「歩く」はもちろん、「噛む」「飲み込む」、「歯磨きをする」、「呼吸する」等々の動作全てに、筋肉が関わっているんです。
それがうまくできなくなる原因が、サルコペニアです。
諸説ありますが、寝たきりと嚥下障害の原因として、第1位は脳卒中、第2位はサルコペニアであるといいます。
フレイルとは
お元気な高齢者が要介護状態になるまでの中間に、フレイルという、中間層的な段階がある説が主流になってきました。
「虚弱状態」を意味しており、筋力やバランスなどの身体的な問題、認知機能、精神状態、栄養状態などなど、幅広い意味で弱っている方を指します。
語源
海外の老年医学分野で使われるFrailty(フレイルティ)が語源で、「虚弱・老衰」を意味します。
原因
フレイル状態になる原因は加齢によるものももちろんあるんですが、加齢による衰えのような回復しにくいものではなくて、適切なケアを行えば回復する可能性が高いと定義されています。
なので、「運動しなくなった」「ご近所さんと接する機会が減った」などが原因であることが多いです。
関係ありませんが、フレイル(モーニングスター)って古代の武器があります。
日本で言うと鎖がまみたいなもんで、鎖でつながった鉄球などの重りを遠心力で回して攻撃するものですが、「振れば遠心力で戻ってくる」感じなので、ここでいうフレイルとつながりますね。(強引)
まとめると、心身の機能が低下して、要介護状態の手前(生活に支障が出るかもしれない)くらいに弱った状態をフレイルといいます。
最近フレイル予防という言葉がよく聞かれるようになりましたが、その予防の内容は、
- 運動
- 栄養
- 社会参加
とされています。
ICFみたいな感じですね。
ざっくり言うと、障害を改善するんじゃなくて、障害を抱えていても地域でエンジョイライフしていくには、どのような支援をすればいいかを導き出すための指標って感じです。
正直言って幅広過ぎて僕もよく意味がわかりませんが、介護福祉士試験には出るので、名前だけでも憶えて帰ってね!
廃用症候群・サルコペニア・フレイルの違い
廃用症候群というと、一般には寝たきりなどによる筋肉の衰弱と捉えられがちなんですが、実際には多くの高齢者が一次性サルコペニアを合併しているという感じです。
強いて区別するなら、サルコペニアは筋肉のことのみを言うので、廃用症候群のひとつにサルコペニアが含まれると言うべきでしょうか。
また、廃用症候群の9割以上の患者に低栄養が認められたという報告があります。
廃用症候群・フレイルともに心身の状態低下を指しているので、そういう意味では、廃用症候群 ≒ フレイルと考えるとしっくりきますね。
ただちょっとややこしいのが、サルコペニアとフレイルの診断基準です。
【サルコペニアの診断基準】
- 筋肉量の低下
- 筋力の低下
- 身体能力の低下
【フレイルの診断基準】
- 体重減少
- 歩行速度の低下
- 握力低下
- 疲れやすい
- 身体の活動レベル低下
※このうち3つが当てはまればフレイル©「日本老年医学会 大内尉義総監修:サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A」より引用
これだけ見ると、筋肉って言うか言わないかの違いにしか思えませんね(^^;
これはそれぞれの定義を熟知した上で見れば察しが付くんですが、
- サルコペニアは筋肉と筋力そのものについて
- フレイルは、筋肉を含む身体機能低下きっかけで生活全般に影響することについて
みたいな違いがあります。
それを踏まえてみると、
〔廃用症候群 ≧ サルコペニア〕 ≒ フレイル
って感じですかね。
微妙なニュアンスの違いなので釈然としないかもしれませんが、納得していただけたら幸いです。
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