高齢者の低栄養・脱水と摂食・嚥下障害との深~い関係とは?

介護の仕事をしていく上で、摂食嚥下障害を抱える利用者さんとは、必ずどこかで関わると思います。

摂食嚥下障害を引き起こす原因は、主に次の4つの合併症です。

  1. 誤嚥性肺炎
  2. 低栄養
  3. 脱水
  4. 窒息

正確には、これらに対する対応を間違えると、摂食嚥下障害を引き起こす・悪化させることになるんです。

 

 

この記事では、低栄養・脱水の症状と、摂食嚥下障害との関係についてお話しします。

 

低栄養とは

低栄養とは、健康を保つために必要なエネルギーが足りず、体力の低下だけでなく身体の健康バランスまで崩してしまう状態のことです。

栄養失調や栄養不良ともいます。

単に普段食べる量が少ないとか、消化機能の問題で食べても吸収がよくない、などが主な理由です。

ですが、なんかの病気などで急性期にある方は、治療経過の中で食事・塩分・水分制限や、経管栄養を強いられることもあります。
制限や経管栄養が長期間続くと、ミネラル不足といった電解質異常、覚醒不良、認知機能低下、食欲不振、摂食嚥下機能低下を招き、どんどん経口摂取に移りにくくなるという悪循環にはまります。

 

ちょっと深掘りしてみますね。

 

電解質異常とは

電解質とは、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウムなどを含むミネラルのことです。
ミネラルウォーターの成分表に書いてありますね。

人間、十分な水と電解質を適切に摂取していかないと、生命にまで関わります。

重症になったり、慢性化して長期間その状態が続くと、脳・心臓・腎臓などの重大な影響を及ぼします。

この後お話しする、脱水にも共通しますね。

 

ミネラルとは違いますが、ビタミンが不足することでも脳疾患を引き起こします。(ビタミンB1欠乏症など)

 

覚醒不良

急性期はやはり、絶対安静をとって生活することが多いです。

この安静の長期化が仇となります。

寝たきりとも言えますが、日がな一日ベッドの上で横になってたら、常に「おはよう」と「おやすみ」が混在している状態です。
夢うつつみたいなもんです。

また、経口摂取しない期間が長いのも問題で、咀嚼運動は覚醒の維持にもつながります。
僕はよく、長距離運転中はガムやおしゃぶり昆布をひたすら噛んでます。

逆に言うと、覚醒が不十分になると咀嚼や嚥下もうまく働かないんです。

 

認知機能低下

栄養が足りないということは、全身にめぐるエネルギーが不足するということです。

脳も当然、というかかなりのエネルギーを消費しているので、栄養摂取は不可欠です。
栄養が足りなくなれば、身体と同様に脳も活性化しないということなので、認知機能低下につながります。

 

食欲不振

食思不振ともいいます。
経管栄養などにより食べることから長期間離れてしまうと、身体がそれに順応しちゃって、

食べなくても案外いけんじゃん

って脳が勘違いします。
「食べなくてもいい」と思ってるので、空腹を感じる働きをしなくなるんです。

あと、これには血糖値も関わってます。

流動食を胃に流すなどにより、食事を摂ったように血糖値が上昇します。
経管栄養の方は、この血糖値が高いまま維持されやすいんです。

普通は血糖値が下がっていくことで、「栄養減ってきたな。飯食わなきゃ!」と身体が信号を出して、脳の空腹中枢を刺激するわけですが、血糖値が高いままだと、栄養は足りてると勘違いして、空腹中枢への信号を送りません。

これも慢性化すると、経管栄養が終わっても、空腹感が乏しくなります。

 

摂食嚥下機能低下

ここまでお話しした、電解質異常、覚醒不足、食欲不振、認知機能低下はそれぞれ、摂食嚥下の機能低下に直結します。

むしろこれらが複合的に絡み合うことで、どんどん回復を困難にしていくんです。

 

治療するには

一度低栄養になると、栄養をとればすぐに回復・・・というわけにはいきません。

長く何も食べてない人に、いきなりがっつり食べさせると胃がビックリするって言いますよね?

一気に栄養を摂ってしまうと、栄養によって増えた血液の量に心臓が適応できなかったり、電解質異常の悪化などを招きます(リフィーディング症候群)。

栄養量を調整しながら、お粥などのような消化に良いものから始めていく必要があります。

脱水とは

脱水とは、体中の水分だけでなく、電解質も足りなくなった状態です。

脱水には3つの種類があります。

  1. 高張性脱水
  2. 等張性脱水
  3. 低張脱水

簡単に説明しますね。

高張性脱水とは

びっしょり汗をかくなどして喉が渇いている時に見られる脱水です。

電解質よりも水分の方が少なく、体液が濃くなっている状態ですね。

 

等張性脱水とは

下痢や嘔吐によって、身体の水分等が一気に失われたことによる脱水。

水分・電解質とも同じくらい失われた状態です。

 

低張性脱水とは

めっちゃ汗をかいたのに、電解質を補給せず、水とかお茶だけ飲んでいる場合の脱水。

つまり、電解質の方が水分より少なくなった状態です。

熱中症対策に、ただの水じゃなくて、経口補水液をすすめる理由はこれですね。

経口補水液を飲んだことありますか?
所ジョージさんが以前熱中症で倒れたこともあって、近年では当たり前になってきました。経口補水液って、塩分や糖分が多めに入ってて、健康な人が飲むと少ししょっぱく感じるんですが、脱水気味の人が飲むと、ポカリくらい甘く感じます。
脱水状態の身体が塩分など電解質を欲してて、ごくごく飲んでもらえるように味覚を調整しているんでしょうね。
真夏のお風呂介助をした後にOS-1を飲んでみたらよくわかると思いますよ。

 

脱水の症状

脱水の症状は、重症度によって変わります。

重症度の指標は、水分が足りなくなった分の体重減少率に準じます。
体重50kgであれば、0.5㎏~1㎏減少で軽度、5kg減少で重度って感じ。

重症度別の症状についてはご自分でググってもらいたいんですが、摂食嚥下障害に関わる部分での症状については、低栄養の内容と同じと思ってもらっていいと思います。

  • 電解質異常
  • 覚醒不良
  • 認知機能低下
  • 食欲不振
  • 摂食嚥下機能低下

 

脱水の治療

脱水の治療については、まあご想像の通りだと思いますが、水分と電解質補給ですね。
点滴をされることもあります。

ただ、低栄養以上に怖いのは、真夏で気温が高いなどの条件が揃えば、下手すると命に関わる可能性があるところですね。

なので、治療以上に重要視されるのが予防です。

汗をかいたり、下痢や嘔吐をしたなどで水分が失われた場合は、経口補水液などでしっかり水分補給しましょう。

普段の生活でも、起床時、食前食後、就寝前などはコップ1杯程度の水を飲むと良いですよ。
ただし、食事などがうまく摂れていないお年寄りなどの場合、電解質のバランスが悪いことがあるので、摂った食事内容を確認しながら、水か経口補水液かを分けるといいでしょう

 

よく、1日1500cc飲みましょうとかありますが、個々に合った理想の水分補給量には簡単な計算式があります。

水分補給は認知症とも関連が深いので、ぜひ↓の記事を見てみてください。

 

 

低栄養と脱水と摂食嚥下機能の関係

低栄養のお年寄りは、意識障害を合併することで、食欲不振が続き、塩分制限だったり、長期的な経管栄養などの対応により、電解質異常、覚醒不良、認知機能低下、食欲不振、摂食嚥下機能低下を悪化させる悪循環におちいりやすいんです。

なので、可能な限り早期に経口摂取を再開させる必要があります。

ただ、状態が悪ければ重度の低栄養や脱水である可能性があるので、例えば覚醒不良に対して声掛けなどをいくら工夫してもなかなか改善しません。

そういう症状が改善しないうちは、経管栄養などとの合わせ技で徐々に経口摂取を行っていくのがいいようです。