嚥下(えんげ)障害を持つお年寄りはたくさんいらっしゃいますが、嚥下障害の原因をご存知ですか?
ベテランの介護職員でも、嚥下障害=脳梗塞の後遺症と認識している人が多いと思います。
もちろん、それは間違いではありません。
脳梗塞によって、口腔内や舌、咽喉(いんとう)周囲の左右どちらかが麻痺するという後遺症が残ることで、食べ物を口に入れて飲み込むまでの動作が正常に行えなくなるんですね。
他にも、似たような症状を呈するとしてパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)なども原因になることがあります。
でも、麻痺がなかったとしても、嚥下障害に苦しむお年寄りはいます。
認知症を抱えている方々です。
この記事では、嚥下障害と認知症の関係、その予防や改善についてご紹介します!
嚥下障害と認知症の関係
独立行政法人 国立長寿医療研究センターの報告によると、介護老人保健施設や特別養護老人ホームでは、入居者の4~6割の人に嚥下障害(摂食障害含む)があるとのことです。
これらの施設には多くの認知症の方が入居しています。
嚥下障害によって認知機能が低下する、改善の邪魔をするという事実もあります。
何より、「食べる事」は人間が生きる上で重要な「幸せを感じる事」のひとつです。
嚥下障害と認知症の関係を知り、予防・改善することで、利用者さんの幸せを守ってほしいと思います。
嚥下障害と誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む時、その食べ物が食道ではなく、間違って気管に入ってしまうのが嚥下障害です。
その、食べものが気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)と言います。
介護の仕事をしていると、よく誤嚥性肺炎という病名を聞くことがありますよね?
または嚥下性肺炎と言ったりもします。
ちなみにこれ勘違いしがちなんですが、「食べ物を誤嚥することで誤嚥性肺炎になる」というのはちょっと間違いです。
食べ物に罪はありません。
正確には、口内や咽頭付近にもともと付着していたバイ菌などが、口に入れた食べ物に付着します。
それを正常に飲み込んでしまえば、ばい菌は排泄されるので概ね問題ありません。
しかし、誤嚥してしまった場合、バイ菌が肺に入り込み、肺にイタズラするってわけです。
でも実のところ、食べ物を口に入れなくても誤嚥性肺炎は起こります。
繰り返しますが、食べ物を食べて誤嚥性肺炎を起こす理由は、口内のバイ菌が食べ物と一緒に肺に入ってしまうためです。
つまり、食べ物でなくても、バイ菌をたんまり含んだ唾液が肺に入ることで、誤嚥性肺炎が起こるんです。
介護の仕事をしていると、口腔ケアはしっかりやるように口酸っぱく言われます。
それは、ただ虫歯などを予防するためだけでなく、口内のばバイ菌を少しでも排除することで、誤嚥性肺炎のリスクを軽減しようという目的もあるんです。
嚥下障害が認知症を悪化させる理由
嚥下障害がある方にとって、飲み込むこと自体が苦痛と言える場合があります。
誤嚥すれば苦しいわ痛いわ、肺炎起こせば発熱してもっと苦しくなります。
誤嚥しかかる際にむせ込むわけですが、咳が続くと食事を進めるのも嫌になります。
そうしていくうちに、食事の量や回数が減って栄養が不足して動けなくなるし、水分が減ることで脱水につながります。
動くのがしんどい、めんどくさいってなれば、体力も落ちる一方です。
身体を動かさないことが認知症につながるということはご存知かと思いますが、認知症になってしまうと、あとはもう悪循環です。
ということで、嚥下障害がある方は改善すべきですし、嚥下障害がなくても認知機能に不安がある方は、予防に努める必要があるんです。
↓の記事に、嚥下とは違うんですが、運動と認知症予防についてシリーズもので書いてますので、参考にどうぞ!
確かに、むせないに越したことはありません。
ですが、勘違いしないでほしいのは、むせこみとは誤嚥の前兆ではなくて、「誤嚥から気管を守るための反射運動」であるということです。
認知機能が低下している人がむせこみなく食事をしていた場合、実はその反射運動が起きてないだけで、気づかず気管に食べ物が忍び込んでいるかもしれません・・・。
このように、むせという反射運動なく誤嚥してしまうことを「不顕性(ふけんせい)誤嚥」と言います。
認知症の方の嚥下はどうなってる?
嚥下障害は嚥下力(飲み込む力)と、咀嚼(そしゃく)力(噛む力)が弱くなることで起きやすくなります。
加齢なんかも要因になりますね。
ですが、認知症の方で嚥下障害が見られる場合、意外にも嚥下力や咀嚼力には問題がないってケースが多いんです。
嚥下・咀嚼する力に問題がないのに、なぜ嚥下障害が起こるのでしょうか?
その理由は、
- 食べ物の大きさがバラバラ
- 一口で食べるには大きすぎる
が挙げられます。
本人の能力だけでなく、提供する側の問題である場合がありますね。
1.食べ物の大きさがバラバラ
食べ物を飲み込む時って、基本的には口に入れた物の中で、一番大きい物に合わせて、嚥下の強さやタイミングを調整しています。
食べ物の大きさが全部同じくらいなら、口に入れたもの全部に均一に力がかかるので、スムーズに飲み込みができるんです。
でも、大きさがバラバラだった場合、一番大きい物にタイミングなどを合わせてしまうため、それより小さい物は、意図せぬタイミングで咽頭の方に運ばれます。
タイミングが良ければ、食べ物が咽頭を過ぎる時点で喉頭蓋が気管の入り口を塞ぎ、無事食道に入り込んでいくわけです。
でもタイミングが合わないと、気管を塞ぐタイミングまで逃してしまうので、食べ物が気管に入り込みやすくなってしまいます。
2.一口で食べるには大きすぎる
当然ですが、食べ物が大きすぎると飲み込み自体が難しくて、誤嚥しやすくなります。
窒息まであり得ますね。
うちの子どもたちもよく、口に食べ物を詰め込み過ぎて「ゥエ”ッ!」ってなります( ̄▽ ̄;)
ちなみに、誤嚥とは先にお話しした通り、気管に食べ物などが入り込むことですが、窒息は、食べ物が喉に詰まって気管を塞ぎ、息ができなくなる状態です。
認知症の方に特有の嚥下障害の原因
①舌が不器用になる
認知機能低下≒脳の機能低下と言えますが、脳の機能低下と運動不足による影響を受けるのは、首から下だけではありません。
舌の動きも悪くなるんです。
脳梗塞などの麻痺と共通するものがありますが、この場合は麻痺とは限りません。
麻痺じゃないということは、ひとつは筋力低下ですかね。
舌も筋肉で動きます。
筋力が低下すれば、力加減がうまくできなくなるので、つまりは舌が不器用になるってことです。
もうひとつは、脳の機能低下により、脳からの指示が舌までうまく届かなくなるといったとことです。
舌が器用に動かなくなると、食べ物を口の中でスムーズに動かせないので、咀嚼すらうまくできなくなります。
②集中力の低下
認知症状のひとつに集中力の低下が挙げられますね。
食べる動作に集中できないと、咀嚼の行程をすっ飛ばしてしまう場合があります。
施設とかで噛まないで食べる人、見たことありません?
もちろん若くてもそんな食べ方する人はいますけど、その方に認知機能の障害があるとすれば、集中力が原因である可能性があります。
咀嚼が不十分ということは、食べ物の大きさがバラバラのままになります。
また、食べ物を口に入れてから飲み込むまでの動作は、工場のライン作業みたいに、一連の流れになっています。
そのひとつである咀嚼をすっ飛ばしてしまうということは、一連の流れを断ち切ってしまうということなので、嚥下のタイミングを逃しやすくなります。
若い健康な人が、咀嚼が不十分でもむせにくいのは、舌や喉の筋力でその分をカバーしてるからです。
認知症でなくても、大食い早食いの人はそういうことがよくあります。
ドラゴンボールの孫悟空とか、ワンピースのルフィみたいな大食いキャラがすごい勢いでご飯を食べてたら、詰まりかけて胸をどんどん叩くシーンを見たことあります?
それも同じことで、食べる動作が早すぎて、嚥下のタイミングが追い付かないことで起こるんですよ。
③食欲不振
食欲不振になれば当然、食べる事をしなくなります。
人間食べなくなると、口の中の感覚が鈍くなっていきます。
これは、咀嚼や嚥下といった行為が顔や喉の筋肉を動かしたり、唾液を発生させて口内をきれいにすることで、感覚を保っているからです。
感覚が鈍くなると、食べ物を口に入れても、大きさや硬さなどが分かりにくくなっちゃうので、誤嚥しやすくなるんです。
改善・予防しましょ!
1.舌を起用に!
パタカラ体操ってご存知ですか?
あれは効果的です。
舌だけでなく、顔や喉の筋肉にも効くので、食事の前にぜひ、継続してやってください。
ここで紹介するのは、別の方法です。
左右の手の指をそれぞれ合わせて、互い違いにクルクル回すと頭が良くなるって聞いたことありません?
それ、あながち間違いではないんです。
脳もそうですが、舌と手の指は意外と密接な関係にあります。
どっちも人体の中では特に細かい動きをしますしね。
なので、舌の細かい動きを取り戻すには、手指の細かい動きを練習するのがいいんです。
パタカラ体操は効果バツグンではありますが、認知症の方には指示が通りにくい場合があります。
手指の動きであれば、指示が通りにくくても、職員がやってみせたり、道具を見せればできることが多いです。
具体的には、
- 指折り(指を1本、2本・・・と立てて動かす)
- つまむ(ティッシュでもおはじきでも、指と指でつまむ)
- ひも結び
- 紙を細かくちぎる
- ペン回し などなど
ペン回しとか難易度高そうに見えますが、「できなきゃダメ」ってわけではありません。
とにかく指先を動かし続けて、いずれ出来れば御の字。
2.集中力アップ!
集中力を司っているのは脳の前頭前野です。
認知症高齢者はほぼほぼ、前頭前野の機能が低下しています。
前頭前野全体を活性させる方法として最もやりやすいのが計算問題です。
- 4+7=
- 8⁻2=
- 3×5=
など簡単なものでいいので、40~50問を毎日やります。
計算ドリルなんか買ってきて、コピーして使うのもいいですね。
↓で、前頭前野含む脳にフォーカスを当てた認知症改善についてお話ししてます。
3.食欲不振には水分をとろう!
食欲不振の人は腸の動きが悪くなっています。
そんな人にいきなり食べろ食べろと言うのはストレスになりますし、食べすぎるとお腹がびっくりしますので、余計に腸の機能が低下します。
そんな方には、「こまめな水分摂取」!
こまめというのは、少量ずつ数回に分けて、1日の必要量を摂るということです。
水を一気にたくさん飲むと、やっぱりお腹がびっくりして、お腹痛くなったり下痢を起こす可能性があります。
要は、少量ずつ摂取することで腸に準備運動をさせて、ウォームアップしましょうってことですね。
飲んだらすぐに改善するってわけではありませんが、1ヶ月くらいを見ておけば、徐々に食欲が出てくるのを実感できると思います。
すると次第に口内の感覚も敏感になってきて、食べ物の形や硬さを認識しやすくなるので、嚥下障害が改善するというわけです。
最後に
嚥下障害がどういうものか、改善するためにはどうすべきかについてお話ししました。
認知症の方の嚥下障害を改善する方法をまとめると、
- 舌を器用に動かせるよう訓練する
- 集中力アップのために、前頭前野にアプローチする
- こまめに水分を摂取する
お年寄りの方って、水分摂りたがらない方が多いので、勧めるにはちょっと苦労するかもしれません。
そんな場合に、ちょっと荒技かもですが、ひとつ紹介します。
「後ろから声をかける」です。
認知症の方に対しての声掛けって、「本人の視界に入ってから」って言われたことありません?
介護職員にとって、後ろからとか視界の外から声をかけるのってご法度なイメージがありますよね。
- 急な声掛けに驚いて混乱したり怒り出すことを避けるため
- 歩行中に後ろから声をかけて、振り向きざまに転ばないように
って理由でそう教わるんだと思います。
もちろんそういうケースもあるので注意が必要ですが、拒否する人に水を飲んでもらうための方法として、その「混乱」を利用します。
人って、軽いパニック状態の時に頼まれごとなどされると、思考が追い付かなくてつい了承しちゃうもんなんです。
流れとしては、
- 後ろから声をかける
- 振り向きざまに、多すぎない量の水をコップで手渡し、そのまま勢いで飲んでもらう
先に言った通り、怒ったり転倒したりってこともあり得るので、相手に合ったタイミングや声のトーンなどを計らって実行しましょう!
この方法に否定的な方もいらっしゃるかもしれませんが、荒技ながらも、食欲不振で弱っていくのを見続けるより、僕はいいと思っています。