食事量を増やしたいのに「お腹がいっぱい」と言って食べてくれない認知症の方に食べてもらう方法

3食自分で食べられる方であれば、介助者側のニーズとして「食事量を増やしたい」、「食欲不振を改善したい」という思いが出てくることもあります。

食事量が低下した場合、嚥下機能が低下しているのか、嗜好が合わないのかと判断に困ることもありますが、この記事では、食欲がなくて「お腹いっぱいだ」と拒否する方の対応についてお話しします。

 

原因を見極める際のポイント

各種認知症には、それぞれに違った食欲低下を招く特徴があります。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症の方のおよそ97%にアパシー(無気力)が見られます。
無気力に伴う食欲不振の可能性が考えられます。

見当識障害や実行機能障害による食欲低下もあり得るので、本人の状態をよく観察してください。

運動機能や感覚機能は比較的保たれています。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症では、注意力や覚醒の変動を伴った、認知機能の変動(良くなったり悪くなったり)、抗精神病薬の効果が現れている時間、生活リズムの乱れによって、食べれる時とそうでない時があります。

あるいは、幻視によって強い食事拒否が生じる可能性もあります。

 

 

 

脳血管性認知症

脳卒中が起こった部位や広さによって程度が違いますが、運動機能障害・遂行機能障害、嚥下機能障害が起こる可能性があります。

あるいは、抑うつ症状によって食欲が低下することもあります。

口腔ケアや全身状態の観察を行っていきましょう。

 

 

原因に応じた対応方法

生活リズムの乱れ

高齢者では、認知症と老年症候群のどちらか、あるいは両方が見られる場合があります。

便秘症や運動不足、睡眠不足など生活リズムの乱れがあると、活気がなくなり、食欲低下につながるわけです。

一日中オムツをつけ、ベッドに寝たきりのままだと、スッキリ感が得られず、腹部膨満感が続きます。
さらに、自尊心を傷つけかねないので、そのストレスによって昼夜逆転という悪循環におちいるんです。

老年症候群とは、加齢に伴って見られる症状群のことです。
疾患や外傷がなくても、自然な生理的老化に伴う症状(難聴や夜間頻尿、視力低下など)と、疾患や外傷によって起こる病的老化が伴う症状があります。
対応としては、質の良い睡眠を得るために基本的なことをこなしていくことです。
  1. 毎日決まった時間に起きる
  2. 午睡は30分程度
  3. 朝日を浴びて朝食は必ず食べる
  4. 日中は適度な運動を行う
  5. 夜は入浴してリラックス
  6. 寝室の明るさに注意するなど
介護者の都合で、不要な人にまでおむつをつけることは、廃用症候群を助長することになるので控えてください。
体調や疾患等でやむを得ずつけることはあるかもしれませんが、看護師らと話し合って、どこかに線引きしておいた方がいいかもしれませんね。
質の良い睡眠を得るには、規則正しい就寝時間と、快適に眠れる環境設定が大事です。
昔、特養で家族がトゥルースリーパーのマットレスを差し入れたケースがありましたが、効果があったのかはよくわかりません。
老年症候群による生理的老化に対しては、次のような対応を行ってみてください。
  • テーブルクロスやお盆の柄に気を取られていたら、無地の物に代える
  • 加齢とともに暖色系の色に目が留まりやすくなるので、食卓や食品のコントラストに暖色系を取り入れる
  • 皿の数が多いと情報処理が追い付かないため、ワンプレートや弁当箱、丼系、コース料理のように一皿ずつ提供する
  • 食事であることを意識付けできたら、自分から食べるのを待つ
  • 本人の好物、香りや色どりで魅了する

嗜好の変化

アルツハイマー型認知症などの初期には偏食があり、嗜好が甘味などに偏りがちです。

食べがいいからと言って甘いものばかり食べていると、当然健康障害を招きます。
食欲がない時であれば好きな甘いものを勧めて良いと思いますが、食事が比較的スムーズにできている場合は、できるだけバランスの良い食事を提供しましょう。

食べ始めて間もなく「お腹いっぱい」と言って食べなくなったら、香辛料や酢などはっきりした味の物、冷ややっこなど冷たいもので味覚を刺激してやると、食欲が回復することがあります。

抑うつ症状からくる食欲不振

介護現場ではやってしまいがちですが、認知症の方は周りが自分の訴えを聞いてくれず、否定されたりすることが続くと、精神的に閉じこもりがちになってしまうことがあります。

これが続くことで興味・過信が薄れて活動量が減り、抑うつ状態になっていきます。

抑うつが続くと、食の楽しみまで奪われてしまうんです。

そのような状態でも、ふとした時に嗜好などが窺える瞬間があります。
孫とあったり、家族の差し入れをもらったり、顔見知りとお茶をするなどの時にそれが見られれば、そこをついて食欲を引っ張り出してあげましょう。

アパシーによる食欲不振

アパシー(無気力)は、注意力や情報処理速度の低下と関連します。
食べ物を目の前に置いても、食べ物であると認識できないことがあるんです。

その方の好物を活用することで改善する可能性があります。
好物は認識だけでなく、嚥下機能にも好影響を与えるので、ぜひ活用してください。

幻視による食欲不振

幻視で食べられない場合は、時間を置いて再度提供したり、コントラストがはっきりした器に盛りなおす、一緒に確認するなど、安心できる環境を調整します。

薬剤の検討も大事です。

幻視を否定することはしないでくださいね。
本人にはそれが事実なので、否定されても不信感が募って、余計に食べなくなります。

嚥下障害

脳血管性認知症では、麻痺による準備期の障害(飲み込みにくいなど)によって、不顕性誤嚥を起こすこともあります。
食事に時間がかかって活気がなくなり、食事を拒否するようになる場合もあります。

また、アルツハイマー型認知症の初期では準備期以降の嚥下機能が障害されることはほぼないと言われていますが、認知症の進行に伴って障害されてきます。

食事の時の姿勢は嚥下機能に大きな影響を与えます。
座位でも臥位でも、頸部前屈位であること、テーブルとイスの適切な高さ(肘を置いて90度くらいにできる程度)、口腔から咽頭への送り込みが難しい場合はリクライニング45度前後で調整しましょう。

そういう、良い姿勢の確保のことをポジショニングと言います。
いすや車いす上での座位に関しては、シーティングと言うこともあります。

シーティング(車いすの場合)では、以下のことに注意してください。

  • スタンダードな車いすの座面はたわんでいるので、クッションなどで平らに近づくよう調整
  • 座面の中央で骨盤を安定させる(骨盤中間位)
  • 背筋が伸びる(猫背にならない)
    円背の方はそのまま顔を上げると頸部が後屈するので、座り方を調整
  • 足が宙ぶらりんにならないように、足台などを使って足底全面が接地する

 

見当識障害や認知機能変化による人間関係

見当識障害がある場合は、記憶障害も見られるケースが多く、顔馴染みが誰かも答えられない方もいます。

介助者らのことを「自分の世話をする人」という認識ができず、そんな人に食事を勧められても食べる気になれないと感じた結果、「お腹がいっぱいだから食べたくない」という作話的な拒否の表現をしている可能性があるんです。

現在の馴染みの場がつくれるように、食事の準備段階から、調理の音やにおい、会話による楽しい空間を作り、五感を刺激します。
可能なら、一緒に調理したり、畑でできた野菜などを収穫するのも大変有効です。

まとめ

日常的な認知症ケアの一環として回想法などがありますが、本人の生活歴などを聞いたりすることで、リラックスした生活環境を構築することにつながります。
それが安心して食事をすることにもつながるので、試してみてください。