介護保険の支給について確認しよう
介護保険を利用できるのは、要介護認定を受けた方だけです。
住宅改修は、要支援1から要介護5まで、とにかく認定を受けていれば支給対象となります。
在宅に限り、です。
ただし、入院・入所中でも退院・退所日が確定していて、それに間に合わせるように住宅改修を行う場合は対象になります。
支給を受けるには、把握しておく必要がある事項がいくつかあるので、解説していきますね。
支給額について
負担割合
介護保険で住宅改修を行う際に助成される住宅改修費は、かかった費用の9割となっています。
ただし、上限は20万円分までです。
つまり、諸経費含めて工事に20万円かかった場合、9割の18万円が支給となり、実質1割負担で済むということです。
もし22万円かかった場合でも、支給額は18万円までなので、支払額は4万円になります。
※負担割合が2or3割の方は、それが支給額に反映されます。
2割負担の方で20万円かかったら、支給額は16万円。
3割負担なら14万円までです。
また、介護保険とは別に、地域によっては独自の住宅改修補助制度を設けているところもあります。
介護保険の支給額以外の料金を補助してもらえるので、確認しておいた方が良いですね。
お支払い方法
住宅改修費の支払いは、償還払いと受領委任払いを選べます。
- 償還払い
最初にかかった費用の全額を利用者が支払い、後日保険者である市町村から指定の口座に支給額が払い戻しされる仕組み。 - 受領委任払い
「受領委任払い取り扱い事業者」に登録している事業者が工事を行った場合、償還払い以外にもこちらの支払い方法を選ぶことができる。
最初から、1割負担なら1割分を事業者に支払うことができるので、住宅改修は必要なのにまとまったお金がない方にとっては渡りに船と言える。
支給額20万円分の上手な使い方
先述の通り、住宅改修費支給の上限額は20万円分です。
その利用は原則一人1回とされていますが、その上限額内であれば、分割利用が可能です。
最初の1回で5万円分利用したら、残り15万円分を後から利用することができます。
また、この上限20万円というのは、特定福祉用具販売のように「1年ごとにリセット」ではなく、「生涯で20万円こっきり」ということです。
ですが、これがリセットされる例外があります。
要介護度が3段階以上上がった場合と、転居した場合です。
- 要介護度が3段階以上上がった場合
例えば要介護1だった人が、更新か区分変更かで一気に要介護4or5になったら、その1回に限り20万円がリセットされます。
要介護1⇒2⇒4のように段階的に上がった場合はリセットになりません。 - 転居した場合
すでに1回住宅改修していたとしても、転居した場合、転居先の家に関してはリセットになります。
転居後に前の家を改修したり、転居先の家を新築で建てることは対象外です。
対象になる住宅改修の種類
住宅改修=「自宅の工事」と連想する方は多いと思います。
それはその通りなのですが、こと住宅改修費支給の対象に関しては、自宅の工事全てがそうであるとは言えません。
簡単に言うと、「自宅内での身体上の問題を解決するため」であることを前提に、本人が使用する居室や廊下などに設置するもので、工事を要するもの、と考えてもらえれば良いと思います。
貸与や販売でもそうですが、「便利そうだから」という理由では住宅改修費の対象にはなりません。
もちろん、全額自分で負担するのであれば特に制限はありませんけどね。
では、その前提で介護保険の支給対象となる住宅改修の種類を確認していきましょう。
手すりの取り付け
スムーズな移動や転倒防止のために、壁などに手すりを取り付けます。
廊下、玄関、階段、トイレ、浴室や脱衣所に付けることがほとんどです。
段差の解消
リビングや廊下の間仕切りにある段差、トイレ・浴室などの段差や傾斜を解消するための工事です。
敷居を低くしたり、床をかさ上げしたり、スロープの取り付け工事をしたりですね。
玄関の外側(ポーチ)の2~3段の階段を無くしてスロープにしたりもできます。
また、段差とは少々違うかもしれませんが、古い据え置き式の浴槽などで、深さがあるため転倒のリスクが高くなる場合、浅い浴槽と交換工事もできます。
滑り止め及び移動しやすくなるための床工事
リビングや浴室などの床材を、滑りにくいものに変更することができます。
車いすが使いやすいように、畳からフローリングに換えることなどがそうですね。
あくまで「歩行・移動時の転倒防止」といったリスク回避が目的であって、「ベッドを置くため」というのは対象になりません。
引き戸等への扉の取り換え
転倒しやすい方や自宅でも車いすに乗るような方の場合、開き戸を開けるのは結構リスキーなので、引き戸に取り換え工事することができます。
画像の引き戸は戸が2枚あるタイプですが、もちろん1枚タイプも可です。
あるいは、折戸やアコーディオンカーテンにするのもありですね。
戸全体じゃなく、握力が弱くても開けやすいようにドアノブを変更したりするのも住宅改修費の対象になります。
洋式便器等への取り換え
和式トイレを洋式トイレに換える工事が対象です。
立ち座りの負担軽減や転倒防止目的になります。
すでに洋式を使っている場合でも、より転倒しにくくするためであれば対象になります。
特定福祉用具販売で補高便座がありますが、それは置くだけのタイプなので、住宅改修にはなりません。
同様に、和式にかぶせるタイプや、「水洗機能や便座の暖房機能を付けるため」というのは対象外です。
和式から洋式にする際に、水洗・暖房機能付きの便器にすることは可能ですけどね。
その他必要な工事
上記の工事に伴って必要になる部分の改修も対象に含まれます。
例えば、手すりを固定するための壁の最低限の下地補強などですね。
対象になるものとならないものが混在しがちなので注意が必要です。
ケアマネが行う住宅改修費申請の流れ
実際のケアマネが住宅改修費を申請し、受理されるまでの流れを解説します。
申請の流れ
アセスメントの結果、住宅改修が必要と判断し、本人・家族の了承が得られたら、以下の通りに行動してください。
工事を行う事業者の決定・下見
まずは工事を行う事業者を決めます。
本人・家族ごひいきの事業者があって、そこを希望された場合は、その事業者に連絡をとってみましょう。
そうでなければ、基本的には自分が頼みやすい、あるいは対応が良い事業者を選んでいいと思います。
受領委任払いを取り扱っているかどうかも選定のポイントです。
お願いする事業者に、どういう改修をご所望か伝えた上で、自宅の下見に来てもらいます。
この時、後述する必要書類の中にはその事業者にやってもらわないといけないものも多くあります。
本人・家族ごひいきの事業者だと、介護保険での住宅改修に馴染みのないところもあり、必要なことやってくれないこともあるので、事前に確認してくださいね。
事前申請
第一の関門、事前申請です。
工事が決まったら、住宅改修費支給申請書類(一部)を市町村に提出します。
必要書類は後述しますが、これが住宅改修費の支給に該当するかの1次審査になります。
着工・完成
事前申請を終え、1次審査通過について市町村から連絡を受けたら、その旨を工事する事業所に報告し、着工してもらいましょう。
それから完成までの間は、基本的にノータッチです。
まれにある注意点ですが、たまに着工後に本人・家族の思い付きで工事内容を増やす・減らす場合があります。
まあ減らす分には良いかもしれませんが、事前申請内容を無視して内容を増やした場合、その部分は住宅改修費の対象になりません。
最初の時点で本人・家族には説明しておきましょう。
実費でやってもらう分には問題なしです。
事後申請
第2の関門、事後申請です。
2次審査ですね。
工事が完了したら、後述する必要書類を引っ提げて、いざ市町村へ向かいます。
これによって申請は終了となり、審査結果を待つ形となります。
事前申請とよっぽどの変更がない限りは、すんなり通ると思いますけどね。
2次審査通過が決定したら、償還払いの場合はおよそ1ヶ月前後で助成分が払い戻されます。
受領委任払いの場合は、通過の時点でケアマネがすることは終了です。
住宅改修費申請に必要な書類
先述の通り、住宅改修費申請は事前・事後の2回行う必要があり、それぞれ書類も違います。
書類の様式は市町村によって違いますので、自分の市町村名と「住宅改修費支給申請書」等で検索すればダウンロードできると思います。
事前申請に必要な書類
- 介護保険居宅介護(介護予防)住宅改修費申請書
- 住宅改修が必要な理由書・ケアプランの写し
(ケアプランの位置づけについては後述します) - 介護保険福祉用具等受領委任払い承諾書
(受領委任払いにする場合) - 工事費見積書
工事する事業者が作成する - 住宅改修前の状態が確認できる写真
市町村によって、撮影年月日の記載が必要な場合もある - 改修の完成予定がわかる図面
工事する事業者が作成する - 取り付け予定の本体や部品等のカタログ
- 住宅所有者の承諾書
アパートや借家など、利用者と建物の所有者が違う場合のみ提出する
事後申請に必要な書類
- 住宅改修に要した費用の領収書
- 工事費用内訳書
- 完成後の状態がわかる写真
(撮影年月日の記載が必要な場合あり)
必要書類自体や、事前に提出か事後に提出かも市町村によって変わるので、確認してください。
ケアプランへの位置付けの是非
住宅改修費申請はケアマネじゃなくても、本人・利用者でもできます。
(ケアマネ以外認めてない市町村もありますが)
ですがケアマネが行う場合、住宅改修を位置付けたケアプランの写しの提出を求める市町村もあります。
概念としては、福祉用具と同様ケアプランには「それが必要な理由」を添えておくものですので、理由書=ケアプランと捉えて、「理由書があるのでケアプランは不要」、あるいは「ケアプランに詳細な理由の記載があれば理由書は不要」というところもあります。
根拠は不明ですが、「両方ないとダメ」っていうところもあります。
そこはあなたの住む市町村のルールに則って作成しましょう。
見づらくならなければコピペでも大丈夫ですよ。
そもそもケアプランへの位置付けが意見の分かれ目ですね。
住宅改修して、その活用が定着していれば、次回のケアプラン作成時には住宅改修に関する部分は削除することが多いです。
アセスメントの結果であればケアプランへ位置付けといた方が無難かもしれません。
でも個人的には、住宅改修の結果問題が解決しなかった場合、その後のケアプランがなんか不安なので、できるなら位置付けたくはないですね。
まあ、市町村がやれというなら従うしかありませんが・・・。
これは居宅介護支援費にも関わることかもしれないので、後述するとします。
まとめ:福祉用具と住宅改修を天秤にかけて
住宅改修の流れについてはご理解いただけたかと思います。
最後に、住宅改修を行う上でケアマネとしての留意点についてお話ししておきます。
料金の天秤
冒頭にあった通り、最近は福祉用具もかなり充実してて、以前は住宅改修しかなかったことも、貸与・販売で解決できるようになりました。
居室の間仕切り用のスロープなんかは、かなり安価で貸与できます。
では、例えば玄関用手すりについて考えてみましょう。
特に玄関外用の手すり貸与は、高いものでは1割負担でも、ひと月で1,000円前後します。
毎月1,000円かかったとして、1年間で12,000円ですね。
住宅改修で玄関に手すりをつけた場合、そんなに大規模なものでなければ、諸経費込みでも10万円かかりません。
もし、今後何年も手すりを利用し続けるとしたら、結果的にどちらが安く済むか・・・という話です。
もちろん、利用者さんが今後何年生きられるかはわかりません。
でもそこは、その都度本人・家族に意向を確認するべきところです。
ケアマネとしては、自分の考えを押し付けず、料金の概算を提示して、どちらか選んでもらうようにしましょう。
メリット・デメリットの天秤
もし、アセスメントの時点で利用者さん側から住宅改修の希望が聞かれた場合にも、説明しておくべき留意点があります。
住宅改修のメリットは先述の通り、長期間使う上では結果的に安く済むという点です。
ですがデメリットとして、一度やったら変更がきかないという問題があります。
たいていは、「ここに手すりがあれば問題が解決できそうだ」等推測して住宅改修を実施しますよね。
でも残念ながら、こればっかりはやってみないとわからないんです。
工事して取り付けてみたものの、「思ってたんと違う」可能性はどうしてもあります。
工事したものを取り外すのは、当然別途料金がかかります。
上限に達してなければ住宅改修費の一部として認められるかもしれませんが、無駄な費用がかかったことには変わりありません。
なので、個人的な意見ですが、「住宅改修しかない!」って環境でなければ、最初っから住宅改修は勧められません。
もし福祉用具貸与で代替えできるものがあるなら、それを試してイメージをつかんでもらってください。
貸与のままで良いとなればそのままでいいし、「イメージと違うからこういうタイプにしよう」という意向が引き出せるかもしれません。
もちろん、提案した上で「いや、住宅改修一択で」と言われれば、それは利用者さん側の意向なので、従って結構ですよ。
居宅介護(介護予防)支援費の天秤
これは完全にケアマネ側の都合なので大きい声では言えませんが、他の介護サービスを利用しない場合、ケアマネの継続的な収入にはつながらない可能性があります。
福祉用具貸与であれば、月の実績として残り、要介護度に応じた介護報酬がケアマネに入ります。
住宅改修はその場限りなので、その後の収入にはなりません。
一応、住宅改修の支援費として、1回だけ2,000円の介護報酬をもらえはしますけどね。
繰り返しますが、これはケアマネ側の都合なので、そんな理由で利用者さんらに福祉用具貸与ゴリ推すのはアウトです。
前向きに考えれば、住宅改修を通じて自分を覚えててもらって、他のサービスが必要になった時にご指名をいただける可能性はあり、結果的には継続的な収入につながるかもしれません。
まあ、そこまで意識して業務するケアマネもいないと思いますけどね。
一番良いのは、各サービスのメリット・デメリットを説明した上で選択肢を提示し、本人らに選んでもらうことです。
ケアマネジメントの基本はそこなので、忘れないようにしましょうね。
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