何もわからない新人ケアマネに捧ぐケアマネの教科書【アセスメント】

新人ケアマネとして活躍するあなた。

覚えること、山ほどありませんか?

  • ケアマネ試験合格からの実務研修
  • ケアマネ事業所の上司・先輩の指導
  • ケアマネになってからの研修(専門研修・更新研修含む)

これだけでも情報量が多すぎてそうそう覚えられたものではありません。
しかし、ケアマネの大変なところは、十分な研修や指導を受ける前に独り立ちすることが多いということです。
さらに言えば、研修の内容だけでは対応しきれないことが、序盤からドバドバやってきます。
僕も新人の頃、それでさんざん悩まされました。

そんなあなたのお役に立てればと思い、僕の体験を交えつつ、ケアマネとしての基礎知識を徹底解説していきます。

この記事では、ケアプランの基礎となるアセスメントについてお話します。

 

アセスメントの流れ

アセスメントとは、直訳すれば評価などという意味になりますが、転じて介護においては課題分析を意味します。
個人的には、ケアマネ業務の中で、利用者一人につき一番時間のかかる業務だと思います。

なぜアセスメントが必要であるかについては、実務研修などで口酸っぱく言われてるかもしれませんね。

原則として、アセスメント結果を経てケアプランを作成していく流れになります。
アセスメント=課題分析の名の通り、本人・家族の話を始め、あなたが収集した利用者の情報から、解決すべき課題をあぶりだしてやろうというのが目的です。
この解決すべき課題を、ニーズと言います。

その項目は15あり、各項目に複数の確認事項があります。
国で定める標準項目をもとに、7つの様式があるそうです。
どれを使うかは、あなたの好みで結構です。
所属する事業所で多く使われているものを使う感じでいいと思います。

ちなみに僕は、更新研修などで提出課題の作成が楽なので、宮城県独自の「アセスメントのための情報収集シート128」を使ってます。
128とは、15の項目ごとに分類された確認事項がトータルで128問あるということです。
ケアマネ更新は5年に1回だし、宮城県版の128では〇✕のチェックと自由記述なので、作業効率は悪いかもしれません。
作業だけで見れば、もう少し楽な様式もあると思います。

栃木県のケアマネ研修でこの宮城県版が使われてると聞いたことがありますが、本当でしょうか?

 

では、各項目について簡単に解説しますね。

①健康状態

主傷病(=現病)や既往歴、症状、痛みなど、医療面の情報を把握する項目です。

例えば、脳梗塞の後遺症で片麻痺がある人の場合。
脳梗塞が既往、片麻痺は症状として捉えておけば良いでしょう。
これはこのように記入し、課題としてピックアップしておく必要がありますが。片麻痺によって課題が発生するとすれば、ADLの項目になります。
なので、ピックアップだけしたら「ADLの項目で検討する」とか課題検討用紙に記入しておきます。

または、糖尿病や骨折などのように、定期的に通院して治療を続けている場合、主傷病に分類されます。
利用者が糖尿病だったとして、食事制限を守れないとか、薬を適切に管理できない状況があるとすれば、それがまさに解決すべき課題(=ニーズ)です。

②ADL

ADLとは日常生活動作のことです。
主な確認事項は次の通り。

  • 寝返り
  • 起き上がり
  • 移乗
  • 歩行
  • 着衣
  • 入浴
  • 排泄
  • 食事など

例えば「寝返り」であれば、何にもつかまらずにできるのか、布団やベッド柵につかまればできるのか、自分ではできないかなど詳細に確認します。
現在寝ているところにつかまるところがなくて寝返りできないけど、ベッド柵があればつかまってできる可能性がある場合、手すりや介護ベッド・ベッド柵等福祉用具の貸与を検討することができます。
0か100かのできる・できないじゃなくて、詳細を特記事項として記入しておきましょう

③IADL

IADLとは手段的日常生活動作と言われています。
どんなものかと言うと、

  • 炊事や掃除・洗濯などの家事
  • 電話(電話を受けたり、自分からかけたり)
  • 交通手段(タクシーやバスなどを利用できるか)
  • 服薬管理(飲み忘れや重複等ないか)
  • 金銭管理(収支把握、クレジットカードやATMの扱いなど)

などのような、ADLの延長線上にある生活力みたいなのを現す基準です。
生活において、ADLが基本の動作なら、IADLはその応用動作って感じですね。

「お味噌汁程度なら作れる」とか、「火を消し忘れて鍋を焦がしたことがある」とかをピックアップします。

④認知

宮城県版では、令和2年度辺りから洋式が変わり、少し細分化されました。
それまで短期記憶にばっかり着目されてたんですけどね。
宮城県版で簡単に解説します。

  • 複雑性注意
    集中できない、ボーっとしてる、動作がゆっくり、半側空間無視(※1)がある、においや音に気付かない or 過敏、疲れやすいなど
  • 実行機能
    料理などの手順が分からなくなる、失敗しても気づかない、買い物に行ってもどうして良いかわからなくなるなど
  • 学習と記憶(即時記憶、近時記憶、遠隔記憶)(※2)
    物の置き忘れやしまい忘れ、同じことを何度も言う、新しいことを覚えられないなど
  • 言語(失語)
    他人の考えを理解したり、自分の考えを表現したりするのが困難、言葉が出てこず「あれ」「それ」などの代名詞を使うことが多くなる、言葉の意味がわからない、何度も聞きなおす、話のつじつまが合わないなど
  • 知覚ー運動(失認、失行)
    着替えができない、髪をとかすことができない、入浴時に身体を洗えない、家電の使い方がわからない、手づかみで食べる(箸やスプーンが使えない)、トイレの使い方がわからない、知人の顔がわからない、色がわからない、左右がわからない、段差や奥行きがわからない、道に迷う、パトカーなどのサイレンを聞いても意味がわからないなど
  • 社会的認知
    他者の性格や心の動きを推察できない(空気を読めない)、他社が自分と違う考えを持っていることが理解できないなど
  • 見当識
    年月日や季節・時間・曜日がわからない、自分のいる場所がどこかわからない、相手が誰かわからない、自分の状態がわからないなど

例がないとなかなか意味がわかりませんね。
でもこれは、近年の認知症患者増加率の影響が大きいのかなと思います。

これらの認知機能の低下や悪化が過去3か月の間に見られているかどうかを記入します。
加えてせん妄の項目があります。
せん妄は、正確には認知症状ではなく意識障害に分類されます。
簡単に言うと「夢と現実の区別がついてない」かのような思い込み・混乱って感じです。

※1
半側空間無視とは、左右どちらかの空間を認識できないことで、視界の半分がすっぽり見えなくなるような状態です。

※2
即時記憶、近時記憶、遠隔記憶のうち、短期記憶に分類されるのは即時記憶で、1分以内の記憶。
近似記憶(1分~数日)と遠隔記憶(数日から数年以上)は長期記憶です。

⑤コミュニケーション能力

聴覚や視覚に問題はないか、相手の話を理解できるか、自分で話して相手に理解させられるかを確認します。
補聴器、眼鏡、ルーペなどを使っているかも判断の基準になります。
「補聴器を使えば聞こえる」場合、聴覚に問題があるための補聴器であると思いますが、使用して聞こえているのであれば生活に支障はないということです。

⑥社会との関わり

社会活動(他者との交流など)への参加意欲、社会との関わりの変化(独居になった、外出しなくなったなど)に問題があるかを確認します。
子と同居していても、子が働いていればその時間は一人になるので、そこに何かの支援が必要になる場合があります。
また、生活する上での本人の不安や心配、家族やペットなどを失くしたなどの喪失感も確認事項となります。
うつ病ないし認知症としてのうつ症状などがあり得ますので、それを把握することであなた自身の関わり方の参考にもなりますよ。

⑦排尿・排便

排泄の頻度や失禁の有無、ポータブルトイレ、おむつを使用について確認します。
尿管カテーテルを留置している場合も、介護サービスに影響すると思うので確認しておきましょう。

⑧褥瘡・皮膚の問題

褥瘡が現在あるか、これまでに褥瘡が発生したことがあるか、その他に湿疹などの皮膚疾患があるか。

現在褥瘡がなくても、過去に発生したという既往歴があれば、今後も発生する可能性が高いことを意味します。
今後の対策につながるので、確認しておきましょう。

⑨口腔衛生

咀嚼や嚥下状態はどうか、歯磨きや義歯の手入れに問題はないか、口腔内の乾燥や汚れ・口臭はないか。

義歯が合っているかどうかも重要です。
また、口腔衛生の問題は食事だけではなく、コミュニケーションにも影響します。
口臭い人とお話してくないですもんね。
それに、口腔内の異常は発声の障害をもたらすこともあります。

⑩食事摂取

極端な体重減少(1か月に5%、3か月に10%の減少)または体重増加・肥満(生活に支障がある・呼吸障害のある肥満)はないか、栄養不良はないか、食事量や回数・水分に不足はないか、経管栄養を行っていいるか、嚥下機能に問題はないか。

食事動作の問題による食事量減少などであれば、ADLの項目と併せて検討する必要があります。
あるいは、義歯が合っていない・口腔内の乾燥や汚れがひどいために嚥下に問題があるのであれば、口腔衛生の問題として取り扱います。
それ以外の問題があれば、この項目で検討することとなりますね。
それ以外の問題とは、上記の通り食事量や摂取量などに起因する栄養障害の可能性などを指しています。

⑪問題行動

行動障害とも言い換えられます。
自宅のトイレの場所がわからないことがあるか、散歩して道に迷うことがあるか、怒って大声を出すことがあるか、怒って暴力行為や物にあたるなど行動に表すことがあるか、介護拒否、自傷行為、同じ行動を繰り返す、ゴミ箱をあさるなどしてものを集めることがあるかなど。
さらに、こういった行動によって、精神科から薬を処方されていることがあります。
向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、睡眠薬を服用しているかどうかも確認しましょう。

認知症状との線引きに迷うかもしれませんが、そこまでしっかり線引きする必要がありません。
認知症の項目に当てはまるものがあればそちらで検討すればいいし、両方に当てはまるものがあれば、両方併せて検討すればいいだけです。
それが認知症と診断されるか、高次脳機能障害等と診断されるかはお医者さん次第ですし、僕らが決めることではありませんので。

アセスメントの便宜上、「問題」という言葉を多用していますが、あくまで解決すべき課題を抽出するためです。
「利用者自身に問題がある」という捉え方は、なかなかモラルに反するので、課題分析からケアプランに起こす際は表現に気を付けましょうね。

⑫介護力

介護サービス以外の、いわゆるインフォーマルサービスによる支援の状況を把握する項目です。
家族、親戚、友人、近所の人などで介護とか、手伝ってくれていることがあればそれを記入します。

主介護者・副介護者について、その介護者と同居しているかについて、介護者ができる支援の分野(ADL、IADL、精神的支援など)について、介護者が今後介護を継続できるか・介護量を増やせるか、介護者のストレスや負担などについて。

インフォーマルサービスがあることで、何かと制限の多い介護(フォーマル)サービスを補完することができます。
現在どんな介護ができていて、これからどうできるかを把握することで、適切な介護サービスを選定することにつながります。

⑬居住環境

現在の本人の身体状況からみて、住んでいる家に支障がないかを確認します。
具体的には、照明、お風呂、トイレ、台所、床、玄関、段差(数㎝の部屋の仕切りから階段など)で転倒の危険性はないかなど。

⑭特別な状況

家族と同居しているなどの利用者が虐待を受けてないかを把握します。

本人と話してみて怯えるなどの様子はないか、異常な衛生状態がないか、不可解なケガなどがないか、必要な介護が行われているか、身体抑制が行われていないかを確認します。

虐待についても確認しておきましょう。

 

 

⑮その他

上記以外で気になったことなどの特記事項を記入します。
まあ、そんなに書く機会はないです。

本人と家族の意向

15の項目について情報収集した上で、項目ごとにもう一つ聞いておかなけれなならないことがあります。

本人と家族の意向です。

例えば健康問題の中で、脳梗塞の既往があるとします。
それに対して本人や家族が、「また脳梗塞にならないようにしたい」という気持ちがあるとしたら、それが意向です。
ADLなら、「転ばないようにしたい」などですね。

今ある問題に対して改善したいという気持ちを汲み取って、それをケアプランにつなげることが狙いですので、「どうしたい・どう改善したいと思いますか?」など直接聞いてもいいですし、会話する中でぽろっと出た言葉が案外本音だったりするので、そこからピックアップするのもいいです。

まとめ

介護のアセスメントには国が定めた標準項目があり、それに沿って複数の様式があります。
どれを使うかは自由で、やりやすいと思ったらそれが一番あなたに合っている様式ということです。

原則として、アセスメント⇒ケアプラン作成という流れで行いますが、それを守っているとサービス担当者会議などに間に合わないことがどうしても出てきます。
とは言え、アセスメントを後回しにすると市職員に突っ込まれます。
適切なケアプランに仕上がってないって感じでね。

でも、多忙な業務の中でどうしても回らないことはあると思います。
急を要する状況であれば、アセスメントを後回しにしてまでケアプランを仕上げるより、アセスメントを確実に行って、簡易的な書類を作って「どういう支援を行っていくかとその理由」だけでも明確にしていた方が良いかもしれません。
ケアプランだけ作ってても、サービス担当者会議の内容によっては変更点が出る可能性があるのでね。