では、「認知症の症状の種類について説明してください」と聞かれたら、まず何が思い浮かぶでしょう?
なんだろ?中核症状と周辺症状とかかな?
ですが、介護士は今日から中核症状・周辺症状の知識を捨ててほしいと思います。
中核症状・周辺症状とは?
本題に入る前に、認知症の症状として常識の中核症状・周辺症状について確認しましょう。
中核症状は、認知症を発症した人にはどれかが必ず現れる症状であると言われています。
周辺症状(BPSD)とは、この画像のイメージの通り、
「中核症状によって二次的に現れる、生活に支障をきたす行動障害や精神症状」
という捉え方をしていただければ結構です。
陽性症状・陰性症状
あまり知られていませんが、周辺症状はさらに次の2種類に分類されます。
周辺症状は陽性症状と陰性症状に分類されます。
陽性症状は徘徊・暴力・不眠・介護抵抗など、言うなればアグレッシブな症状群です。
対して陰性症状は、無気力・無関心、寝てばかりいる、無言・独語、うつ状態など、ディフェンシブな症状群です。
認知症治療の考え方
認知症治療に焦点を置くと、「陽性症状をいかに陰性に寄せるか」、「陰性症状をいかに陽性に寄せるか」という対症療法的な考えのもとに、治療方針が決まります。
簡単に言うと、
「プラス(陽性)とマイナス(陰性)のバランスをとりましょう」
というのが現在の認知症治療です。
その結果が、投薬治療です。
知識をリセットしてください!
介護士として日々勉強されているあなたには、これを機に、中核症状・周辺症状の知識をリセットしてもらいたいと思います。
リセットというかもう、まるっと捨ててください。
知識をリセットするべき理由①
理由のひとつは、中核症状等の知識は介護の現場ではさして役に立たないためです。
言い方は悪いですが、中核症状等については、治療方針の決定や、認知症の知識がない地域住民の方などに対し、症状について大雑把に説明するためになら大いに役立ちます。
しかし、全国的には認知症診断も誤診が多いと言われてますので、介護施設においてあまり大雑把に症状を認識していると、個々に合わせた認知症ケアはできません。
それに一部では、「どれかは必ず出現する」はずの中核症状が見られないのに、周辺症状は見られるケースがあるという説もあります。
知識をリセットするべき理由②
もう1つの理由は、現在の認知症の治療方針が、主に投薬であるということです。
現在の投薬は、
- 症状の進行を遅らせる
- 特定の症状を抑え込む
という程度の対症療法でしかなく、根本治療にはほど遠いものです。
しかも、副作用の発生率も高く、最悪の場合は症状の悪化を加速させることもあります。
そのため、ヨーロッパなどでは認知症薬が医療保険の対象から外されるようになりました。
もちろん、薬に頼らざるを得ない状況は確かにあります。
しかし、効果が薄い割に副作用が強い薬を飲ませておきながら、「個々の尊厳を守った認知症ケアをしましょう」というのは、いささか矛盾を感じますね。
資格試験でも役に立たない?
これは令和元年度の介護福祉士試験問題のひとつです。
レビー小体型認知症の症状について出題されています。(答えは後程!)
これより前の試験では、認知症の原因疾患のひとつである正常圧水頭症の症状に関する問題が出題されています。
中核症状うんぬんという出題は、以前の試験問題と比べれば、あまり見られないようです。
というわけで、年々更新される認知症の知識と介護職としての専門性を高めるため、今回は「大きく分けて」ではなく、「主だった認知症ごとの症状」について覚えてもらいたいと思います。
小幅で足を引きずるように歩く。 転びやすい。 足が重く感じられる。
・尿失禁(排尿のコントロールの障害)
頻繁に、または急に排尿したくなる。 排尿を我慢することができない。
・軽い認知症(認識機能障害)
健忘症。 短期記憶喪失。
4大認知症
認知症には4大認知症と呼ばれているものがあります。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管性認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
「4大」と呼ばれる理由は、主にその患者数の多さです。
①アルツハイマー型に至っては認知症患者全体の6割以上(調査団体によって差異あり)と言われています。
①~③で「3大認知症」とも言いますが、介護職をしていると④前頭側頭型を患う方と関わることも少なくないので、ここでは4大で解説していきます。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー病により発症する認知症です。
- 直前~昔のことが思い出せなくなる
- 以前は簡単だったことができなくなる。
- 問題を解決することが難しくなる。
- 気性や人格の変化。友人や家族との関わりをやめてしまう。
- 書面または会話でのコミュニケーションに問題が生じる。
- 場所、人、出来事に対する混乱が起こる。
- 視覚の変化により、画像を理解することに問題が起こる など
これらはあくまで代表的な症状群であって、全てではありません。
これら以外の症状が見られることもあるし、これらの症状がすべて一律に見られるわけでもありません。
症状名・障害名に当てはめると、
- ⇒記憶障害(即時記憶~近時記憶~遠隔記憶)
- ⇒失行・失認
- ⇒実行機能障害
- ⇒社会的認知
- ⇒失語
- ⇒見当識障害
- ⇒失認・複雑性注意
といったところかと思います(僕の見立てです)。
これらの症状が、基本的には緩やかに進行していきます。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳卒中が原因で発症する認知症です。
- 手足が動かしにくくなる ⇒ 運動麻痺
- しびれや痛み ⇒ 感覚麻痺
- ふらつくなど、歩行が困難 ⇒ 歩行障害
- 言葉の理解ができない・うまく喋れない ⇒ 失語・構音障害
- 誤嚥しやすくなる ⇒ 嚥下障害
- 思うように排尿できない ⇒ 排尿障害
- 夜中に幻覚・妄想・見当識障害 ⇒ 夜間せん妄 など
他の認知症でも見られる症状とだいたい同じです。
ただし、アルツハイマー型認知症であれば認知機能が全体的に低下していくイメージですが、脳血管性認知症は障害された脳部位の機能だけが低下していく、「まだら認知症」という状態が有名です。
例えば、左脳で脳梗塞が起きた場合、麻痺が出るとすれば、体の右半分です。
右片麻痺の人に失語症が多いのは、言語を司っている脳部位が左脳であり、そこが障害されているためです。
さらに失語には種類があり、ブローカ野・ウェルニッケ野どちらが障害されているかでも症状の現れ方が違います。
ブローカ失語
運動性失語とも言われます。
人の話を聞いて理解することはできますが、どもったり、「とけい」⇒「とでい」など他の音に置き換わったりと、ぎこちない話し方になります。
ウェルニッケ失語
感覚性失語とも言われます。
滑らかに話はできますが、言い間違いが多く、人の話を聞いて理解することも困難です。
失語は、ブローカ・ウェルニッケ含め7種類あります。
気になる方は「失語 種類」で検索!
脳血管性認知症で見られる記憶障害
脳血管性認知症でも記憶障害が見られる場合があります。
記憶障害と言うと、アルツハイマー型認知症の症状の1つとして一番に挙がるイメージがあるかもしれません。
アルツハイマー型では海馬の萎縮が見られ、記憶障害が発症すると言われています。
しかし、海馬と前頭葉(特に前頭前野)は繋がりがあると言われており、前頭前野の障害により記憶障害が発症するケースもあるため、前頭葉で脳梗塞などが起きて記憶障害が発症する場合があるのです。(他の認知症でも同様です)
当然、ちゃんと脳の検査をしないと発生部位は特定できませんが、脳梗塞等が発生した後に見られる認知症状によって、どの部位で発生したかの見当がつくということです。
レビー小体型認知症
レビー小体病により発症する認知症です。
- 歩行や動作の障害 ⇒ パーキンソン症状
- あるはずのない物・いるはずのない人が見える ⇒ 幻視
- 睡眠時、大声の寝言や暴れるなど ⇒ レム睡眠行動障害
- 起立性低血圧や頻尿など ⇒ 自律神経症状
- 夕方などに症状悪化 ⇒ 認知機能などの日内変動
- 抗精神病薬が効きすぎる・副作用が出やすい ⇒ 抗精神病薬薬剤の過敏症
①~④が初期に現れやすい症状です。
中期に⑤・⑥が現れ、後期はそれぞれが悪化していきます。
先ほどの介護福祉士試験問題ですが、パーキンソン症状から姿勢の傾きや嚥下機能低下が見られることから、選択肢5の「誤嚥性肺炎の合併が多い」が正解です。
近年知名度が上がってきている認知症でありながら、中核症状の分類では説明しにくい症状が出てきました。
中核・周辺症状のくくりではなく、各認知症ごとの症状を知る必要性がうかがえます。
ちなみに上記の通り、レビー小体型認知症ではパーキンソン症状が見られますが、パーキンソン病にも大いに関係があります。
ていうか、ほぼ同じものだと思っていただいて良いかと思います。
これは、両者の発症原因が、
- どちらも同じα – シヌクレインという異常なたんぱく質であるということ
- パーキンソン病にも認知症を伴うものがあること
が理由になります。
簡単に言ってしまえば、パーキンソン症状から始まったらパーキンソン病、認知症から始まったらレビー小体型認知症という診断を受ける・・・というのが現状です。
ただ、レビー小体型はアルツハイマー型と誤診されることがしばしばあるそうです。
レビー小体型認知症 | アルツハイマー型認知症 | |
生活障害 | 主に注意障害・ 視覚認知障害 | 主に記憶障害 |
幻視 | 多い | 少ない |
妄想 | 嫉妬妄想など 幻視に基づく妄想 | 物盗られ妄想など 記憶障害に基づく妄想 |
徘徊 | 少ない | 多い |
睡眠障害 | レム睡眠行動障害に 伴う睡眠障害 | 単純な睡眠障害 |
認知機能の変動 | あり | なし |
パーキンソン症状 | 多い | まれ |
こんな風に明確な違いがありながらも誤診が多いのは、レビー小体病の原因であるレビー小体の発見が困難であることや、アルツハイマー型でも幻視やパーキンソン症状がないわけではないので、その知識を持っている医師は誤診しがち、ということが原因かもしれません。
逆に、本当はアルツハイマー型でも「パーキンソン症状があるからレビー小体型だな」等という診断をしてしまうケースもあるようです。
前頭側頭型認知症
前頭側頭葉変性症により発症する認知症です。
- 自分本意な行動や万引き、盗食などの反社会的な行動をとるようになる
⇒ 脱抑制・反社会的行動 - 同じ行動や言葉を繰り返す ⇒ 常同行動
- 無関心・自発性の低下
- 共感や感情移入ができなくなる
- 食事や嗜好の変化
- 目標を立て、それを達成するために計画を立てて行動することができない
⇒ 実行機能障害 - 言葉が出にくくなる ⇒ 失語
「前頭側頭型認知症=ピック病」と認識している方も少なくないそうですが、厳密には少し違います。
ピック病とは、脳にピック球と言われる成分が神経細胞内に見られる場合に診断されるもので、前頭側頭葉変性症の一種です。
ただ、前頭側頭型認知症患者全体の約8割がピック病と言われているため、これらがイコールと捉えられがちなのかなと思います。
ただ、ややこしい話ですが、「ピック球のないピック病」というのもあるそうです。
また、前頭側頭型認知症は50代前後の若い人にも発症しやすいことから、若年性認知症と言われています。
…という認識の人も多いと思いますが、実はアルツハイマー型・脳血管性認知症も若年性認知症に分類されるケースがあり、調査内容によっては前頭側頭型認知症よりも人数比は多いらしいです。
まとめ
認知症患者は年々爆発的に増加しています。
現在は昔と比べて診断の精度も上がっていると思われますが、誤診されたままの人はまだまだ多いようです。
2種類以上の認知症を合併する「混合型認知症」もあります。
一度ひとつの認知症診断を受けていて、後から実はもうひとつを発症したけど、すでにひとつの診断を受けているから気付かなかったという場合もあるでしょう。
そう考えると、先述の「アルツハイマー型なのにレビー小体型と誤診されたケース」は、実は混合型だった可能性もありますね。
「診断名」だけにとらわれず、「どんな症状が出ているか」に気付き、適切な評価を行うことで、ケアの方法や症状の改善にも影響を及ぼせる可能性があります。
認知症患者にとって一番身近な我々が、適切に症状を把握していることは大いに意義があるはずです。
この機会に、認知症の症状という概念を、少しだけ見直してもらえればと思います。