平成26年度の診療報酬改定で、胃瘻増設の点数の減算などが行われました。
胃瘻増設が減算になったということは、胃瘻増設によって病院側に利益が出ないようにするということ。
つまり、無用な胃瘻造設を防ごうという狙いが見えるね、ということです。
そのきっかけになったのが、認知症高齢者への胃瘻造設の問題です。
認知症高齢者への胃瘻造設
日本ではこれまで、チームケアによる栄養管理が普及し、浸透してきました。
それによって広まったのが、経管栄養による栄養管理です。
それまでは抹消静脈からの点滴を行うのが主流でしたが、実質極めて少量のエネルギーと水分等しか接種できず、かえって低栄養になってしまうことがしばしばあったようです。
低栄養により、感染症や褥瘡などの合併症を引き起こすケースも少なくありませんでした。
その中で、経口摂取が困難になった認知症の方に、経管栄養による栄養サポートを行い、長期間の寝たきりになった事例もまた、多かったんです。
胃瘻による経管栄養では、全身状態を安定させ、感染症のリスクを軽減する効果が期待できます。
それに反して、本人やその家族が望んでいない延命のための処置であるとの批判も上がるようになりました。
この批判は、超高齢社会の進行に伴う医療費の増大、高齢者施設の不足などの問題ともリンクしていきます。
診療報酬改定のねらいとその解釈
平成26年の診療報酬改定で重視されている点は、胃瘻造設後に再び経口摂取が可能になるような対策を行うことにあります。
改定の内容には、
- 胃瘻造設後、他の医療機関へ紹介する際は嚥下訓練を行うこと
- 年間50件を超えて増設を行う施設では、嚥下造影または内視鏡下嚥下機能評価を行うこと
- 経鼻栄養(鼻腔カテーテル)または胃瘻の患者全体の35%が1年以内に経口摂取が可能になるように回復させること
- 専従の言語聴覚士を1名配置し、経口摂取訓練を行うこと
などが求められています。
この改定によって、胃瘻造設を検討する際のハードルがめちゃくちゃ高くなりました。
これはもちろん、認知症の方だけを対象にした話ではありません。
進行性の神経筋疾患(パーキンソン病やALSなど)、重度心身障害児などにとってもハードルの高い話です。
その結果、胃瘻造設後には「胃瘻からのみ」栄養摂取する生活が予測されるケースに対する実施が大幅に減少すると考えられました。
特に認知症の方はたいてい進行性なので、経口摂取が困難であるとして胃瘻造設された後、再び経口摂取が可能となる事例は多くないみたいです。
実質、最近の胃瘻胃瘻造設者はあまり見かけなくなってきましたよね。
ただここで、少し見直してほしい点があります。
この改定では裏を返せば、「経口摂取が可能になる可能性が高いケースでは、減算こそあるものの、胃瘻造設自体になんら制約があるわけではない」ということです。
胃瘻造設後の認知症の方の経口摂取の可能性
認知症の方で、胃瘻造設後に再び経口摂取が可能になるのは、どういったケースなのか?
経口摂取再開が不可能だったケース
認知症で胃瘻造設した方で、経口摂取支援を行っても再開できなかった方では、日常生活自立度がⅣ以上である方が7割近くいたそうです。
また、藤島嚥下障害グレードでは、グレード2~3の方が多かったとのことです。
総じて、全身症状が重く、経口摂取は不可と判断されるケースが非常に多いということです。
経口摂取を再開できたケース
対して経口摂取を再開できたケースとしては、日常生活自立度はなし~Ⅲが7割近く。
嚥下障害グレードはグレード4~5と、比較的軽症であることが窺えます。
こういう方に経口摂取訓練を行うと、最終的に1日2~3食の経口摂取が可能になったケースが多かったようです。
その後の調査でも、胃瘻造設時の日常生活自立度がⅡであった場合、胃瘻造設した方の35%において経口摂取機能が改善しています。
対して、日常生活自立度がⅢ・Ⅳの場合、経口摂取機能が改善したのは、半分の17%しかいませんでした。
経口摂取の可能性
これらの結果から、日常生活自立度や、経口摂取訓練開始時の嚥下機能は、胃瘻造設後の経口摂取の可否を推測するのに重要な指標であると考えられます。
日常生活自立度が維持されていて、楽しみ程度からでも少量の経口摂取が可能なレベルであれば、訓練を続けることで1日1食~3食の経口摂取が可能になると予測できます。
認知症の方では、肺炎などの急性疾患や環境の変化などによって、一時的に経口摂取が困難になることがよくあります。
数日~数週間にわたって経口摂取量が減少していくと、活動性の低下、日常生活動作の低下を助長することになります。
するとさらに経口摂取量は減少していき、悪循環を呈することになるんです。
この悪循環が続くと、全身状態や免疫力にも悪影響があり、肺炎などの感染症のリスクが高くなります。
その結果頻回な入退院を繰り返すようになると、本人はもちろん、家族への負担も大きいです。
そういう多大な負担を回避しながら、QOLを維持した生活を送るためには、病院側が経口摂取が可能になるまで、あるいは経口摂取と胃瘻の併用という考え方について見直す流れが、今や全国に広まっていると思います。
まとめ
無用な胃瘻増設を減らすことがねらいの診療報酬改定ではありますが、「胃瘻が必要ない」というわけではありません。
病状などから、どうしても必要な状況はあります。
ただし、医療上やむを得ないことを、本人や家族が進んで受け入れているとは、必ずしも言えません。
もし経口摂取を再開できる可能性があるとしたら、そういう無念を、どうか汲み取ってあげてください。