「摂食嚥下障害を改善する」ということは、点滴や胃瘻・鼻腔カテーテルなどの経管栄養ではなく、「食べ物を口から食べられるようにする」ということです。
「口から食べる」ことを経口摂取、
「経管栄養の方が口から食べれるようになる」ことを経口移行といいます。
以前は、病院、施設、在宅などで経管栄養の方が、それはもうたくさんいらっしゃいました。
もちろん経口摂取は基本的に禁止です。
経口摂取できたとしても、食べ物がペースト状だったり、刻み食だったり、嚥下に配慮した食べ物ではありますが、見た目も味もなんだかわからないようなものを食べ続けなきゃならないってことが多いんです。
本人や家族さんが経口摂取を望んだとしても、医療側も介護側も知識・技術不足で、希望が踏みにじられる思いをした人はたくさんいたと思います。
経口摂取って、生命維持のための栄養補給はもちろんですが、美味しいものを食べる幸せや、家族・友達と団らんするなどの楽しみを得ることで、生きる活力の源になるものなんです。
某雷の呼吸の人も、「ご飯はみんなで食べた方がおいしいんだぞ」って言ってました。
人生の価値の感じ方は人それぞれですが、少なくとも僕は、年を取って機能低下して動けなくなっても、美味しいものだけ食べて余生を謳歌したいと思ってます。
この記事では、経口摂取の意義について、僕の経験談を交えながらお話しします。
人としての幸福感・満足感
食べる事ってのは、生命活動(身体を動かしたり、思考すること)や心身の健康維持・成長の源であって、まさに生存本能のひとつと言えます。
原始の時代から、人は生存本能の赴くまま、食べるために獲物を追いかけまわしていました。
ただし、生存本能に根差した食事っていうのは、とにかく栄養補給です。
味は求めていません。
たまたま美味しかったらラッキーってことですかね?
「美味しいものを食べる」「みんなで楽しく食べる」っていうのは、人が文明を持つようになってからの高等な欲求なんです。
動物的な生存本能を根本にして、社会的かつ情緒的な感情を食事に見出したわけですね。
生きる喜びってやつです。
現代を生きる僕たちにとって、この感情は人としての幸福感・満足感を得るのに欠かせないものになっています。
食べる事の意義
経口摂取することの意義について、簡単にまとめてみますね。
身体的側面
- 生命維持に必要なエネルギーを得る
- 口内の自浄作用(咀嚼などによって唾液が分泌される)
- 口周囲の筋・関節の機能低下予防や向上
- 呼吸運動の改善
- 脳や感覚への刺激
- 随意運動(自分の意思で身体を動かすこと)を得る
- 食べる動作において、目・手・口・呼吸などの協調運動を得る
- 体力増強や精神面の改善
- 疾病や身体機能の改善
逆に言うと、食べることひとつにこれだけの機能が関わっているってことですね。
心理・社会的側面
- 生存本能に基づく行動から社会的な活動への発展
- コミュニケーションの幅が広がる
- 美味しいものを食べる楽しみ(満足感や充実感)を得る
- 精神活動の活性化
- QOLの向上
- 生活意欲の向上
美味しいものを食べるのと、体にいいものを食べるのでは満足感の質が違うと思います。
どちらが良い悪いではないですよ。
まずいものを摂ってでも健康を保ちたい人はいますから。
ただ、90~100歳くらいまで元気に長生きしている方々はみんな、好きなものばっかり食べてます。
「そば」と「から揚げ」しか食べない100歳近いおじいちゃんってテレビで見たことあるなあ(^^;
好きなものを食べられることは…
少なくとも、好きなものってのは本人にとって美味しいものである場合が多いので、美味しいものを食べることが、生命エネルギーを得るのはもちろん、ストレスなど健康の邪魔になるものを解消しているのかもしれません。
専門家によると、生命維持にのみ着目すると、肉さえあれば人は生きていけるそうです。
そういや高脂肪ダイエットって聞いたことあるな。
我慢してまで健康食ばっかり食べるのは、逆効果かもですね。
糖尿病の人は治療上、カロリーと糖質のコントロールを受けます。
施設に入居している糖尿病の方々が、食べたくても職員に「ダメですよー」言われて落ち込んだり怒ったりしているのをよく見ますね。
一方で、あえて過度なコントロールを行わず、食べたい時に食べてもらっているっていうスタンスの施設が実際にありました。
そこでは、糖尿病の方が甘いものを食べたところで、特に不調を起こすでもなければ、そんなすぐ亡くなるってこともないそうです。
何より、甘いものを食べてる顔のなんと幸せそうなことか。
さすがに長ぐついっぱいの甘いものを一度に食べさせてるわけではないでしょうが、少なくとも、甘いものが本当に好きだから糖尿病になったわけですからね。
そりゃあ幸せですよね。
食べる事は生きる事
生存本能とお話しした通り、人は生きるために食べています。
生命を維持するために。
それ以上に、社会的な生き物になった僕たちは、食べるためにも生きているんです。
より幸せに生きるために。
断食で健康になるとか、糖質制限ダイエットとか、現代は「食べないことを正当化」する傾向にあります。
生きるために食べてるのに、矛盾した考えだと思いません?
ダイエットにしても、健康的に痩せてる人と不健康に痩せてる人の差は一目瞭然で、健康かつスタイルのいい人は、例外なくいいものをがっつり食べてます。
生存本能に加え、社会的・情緒的に豊かな人生を生きるには、美味しいものをよく食べて、食べた分を遊ぶエネルギーに変えることです。
遊ぶってのは運動するってことで、日がな一日ゲームするってことじゃないですよ!
・・・っていうのも昔の話ですね。
今はゲームで遊びながら、十分な運動をすることができますから。
リングフィットとか、けっこうガチの運動もできますし、ミニゲームなんかでさらっとでもできるのでおすすめです。
ガチの運動はともかくとして、これはお年寄りにも言える事です。
好きなものを食べて美味しいと感じることは、余生を謳歌する上で欠かすことはできないです。
とは言えもちろん、それが全てではありません。
でも、僕らが関わるお年寄りには、自分だけでは余生の謳歌すらもできない方がいるってことは、介護の仕事をしていれば、わかっていただけますよね。
口から食べることの幸せと、その実現方法をどんどん発信していきます。
1人でも多くの方を幸せにする手助けになれば嬉しいです。