摂食嚥下障害と誤嚥性肺炎・窒息について解説します

誤嚥性肺炎と窒息

介護の仕事をしていて、こと食事って分野になると、この誤嚥性肺炎窒息を聞くことは多いと思います。

食事に関するアクシデントとしては、2大巨頭のイメージでしょうかね。

 

誤嚥と窒息の違い

誤嚥と窒息の違いはご存知ですか?
念のため説明しておきますね。

誤嚥とは

誤嚥とは、文字通り「誤って嚥下する」ことです。

普通、食べ物を口に入れてからの流れっていうのは、

  1. 口に入れる
  2. 咀嚼(そしゃく)する ※噛むこと
  3. 舌を使って食べ物を喉に送り込む
  4. 喉から食道、胃へ送られる

という一連のプロセスをとってます。

このうち、③から④に移るところで、間違って食べ物が食道ではなく気管に入り込んでしまうことを誤嚥と言います。

胃からの逆流物が気管に入っちゃうこともありますね。

 

窒息とは

窒息とは、食べ物などが飲み込めずに喉で詰まり、気管を塞いで呼吸ができなくなる状態です。

発生するタイミングは誤嚥とほぼ同じです。
詰まらすのは食べ物とも限りません。
スーパーボールなど、咀嚼もできないようものだと間違って口に入れてしまうと危ないですね。

物が喉に詰まる原因としては、

  • 食べ物の形が大きすぎる
  • ベタベタとか、ねっとりしている

「正月にもちを喉に詰まらす」って昔ながらのパワーワードだと思いますが、もちみたいにベタベタしてるものを、大きいまま飲み込もうとすると、喉の回りにベタっとくっついて飲み込めず、窒息するというわけです。

 

誤嚥性肺炎の原因は食べ物ではない

誤嚥性肺炎について勘違いしがちなのが、「食べ物を誤嚥することで誤嚥性肺炎になる」ってことです。

 

誤嚥性肺炎とは、肺に入り込んだバイ菌によって炎症を起こしたものなんです。

食べ物のせいだと言われるのは、「食べ物を誤嚥した後に肺炎が起こる場合が多いから」なわけですが、これ正しくは、口内にもともとあったバイ菌などが、口に入れた食べ物に付着して、それが肺に入ることでバイ菌が悪さするからです。
正常に飲み込んで胃に入ってしまえば、バイ菌は排泄されるので概ね問題ないんですけどね。

つまり、誤嚥性肺炎は食べ物を食べなくても起こり得ます。

繰り返しますが、食べ物を食べて誤嚥性肺炎を起こす理由は、口内のバイ菌が食べ物と一緒に肺に入ってしまうためです。

食べ物以外の発生要因として、例えば唾液。

唾液むせってありますよね?
僕もよくやります。

バイ菌をたんまり含んだ唾液が肺に入ることで、誤嚥性肺炎が起こるんです。

口内のバイ菌を少しでも排除することでこのリスクは大分軽減されます。

だから、口腔ケアってすごーく大事なんですよ。

 

命の危険

厚生労働省で毎年、人口動態統計ってのを公表してます。
ざっくり言うと、出生率や死亡率をまとめて、人口の推移をみるものです。

そのうち、65歳以上の死亡率を死因別にざっと順位分けすると、次のようになります。

1位悪性新生物(ガン)
2位心疾患
3位脳血管疾患
4位肺炎
5位老衰

年齢別に見ると、100歳くらいにもなると老衰が1位になります。
性別で見ると男性は肺炎が3位です。
数年前は全体で肺炎が3位だったこともあります。

この肺炎の多くは肺炎球菌によるものなんですが、これが80歳以上になると、誤嚥性肺炎による死亡率が急上昇します。
これでも何年か前と比べれば大分減った方なんですけど、一時期は、肺炎でなくなった高齢者のうち、90%以上が誤嚥性肺炎によるものだったそうです。

 

イメージ的には窒息の方が命に直結しそうに思えますが、この統計で窒息は「不慮の事故」のひとつとして扱われてて、「不慮の事故」はたいてい6~7位。
窒息は全体で見ると0.6%だそうです。

確かに、窒息状態が続けばその場で命を落とすこともありますが、処置が間に合えばすぐにでも回復できるものです。

誤嚥性肺炎は、誤嚥してから少々時間を置いて発症するので、誤嚥した時の反応が薄い時が多い(不顕性誤嚥)高齢者では、誤嚥したことにすら気づかない場合があります。

誤嚥性肺炎になったら

誤嚥性肺炎の医療的なアプローチについて、近年では、少しずつ対処の仕方が変わってきました。

過去と現在の対処がどんなものであったのか、比較して説明しますね。

過去の対処方法

誤嚥性肺炎と診断されると、まずはこういう対応をとります。

  • 絶食
  • 長期安静

水分すら口からは摂らせてもらえません。
点滴のみか、鼻腔からの経管栄養ということも。

まあ僕は医療の知識はほとんどないんで、イメージ的にはなんとなく理解した気でいました。
「食べたり飲んだりして肺に入っちゃったんだから、そりゃ食べちゃダメってなるかぁ」って。
「それに熱も出て体力も急激に消耗するから、安静にはしなきゃならんよなあ」と。

 

しかし、「誤嚥性肺炎になったら絶食・長期安静」ということに、医学的なエビデンスは一切ないそうです。

実際、誤嚥性肺炎による入院して、①3日後から食事開始、②4日後から食事開始した場合の、その後の死亡率を見てみると、②の人の方が死亡率が高かったんです。
たった1日の違いで差が生まれるので、これらの対応は間違っていたということがわかります。

未だにこの対処方法をとっている病院もあるみたいですけどね。

 

現在の対処方法

もちろん、入院した日にいきなり「じゃあお夕飯食べましょうね」とはなりません。

ですが、食事を再開するために適切な評価を行うことで、次の日には食事ができる可能性があります。
最初は、飲み込みしやすいよう、ゼリーだったり、加工された嚥下食になりますけどね。

また、体調を見ながらではありますが、安静の状態もなるべく短くしようというスタンスになっています。

他の病気などで手術しても、昔と違い、翌日にでもリハビリを開始することがあります。
退院も早いです。

長期の安静はサルコペニアを誘発し、それが廃用症候群につながります。
そうなると、安静を解除する機会がずるずる先延ばしになっちゃうんですね。

寝食分離」と言って、食事をする時はベッドから出ましょうというのが、医療・介護業界ではもはや当たり前です。

サルコペニアとは、加齢や運動量の低下などによって全身の筋肉量と筋力が減って、身体能力が低下した状態です。
「加齢性筋肉減弱現象」とも呼ばれています。
ギリシャ語が語源で、「筋肉の喪失」という意味。
サルコペニアを避けるために重要視されているのが、フレイル予防なのです

 

フレイルと認知症予防

早期の対応が大事

誤嚥性肺炎に限らず、著しい状態低下においては、早期の対応が重要です。

その対応とは、絶食することでも、寝心地のいいベッドを用意することでもありません。

適切な評価を行って、評価に基づいてなるべく早くリハビリを行うことです。

 

サルコペニアによって全身の筋肉が弱くなりますが、それは食べることも一緒なんですよ。

口も喉も筋肉で動いています。
食べる事を止めてしまうと、食べる事に関連する筋肉も弱くなります。
嚥下障害の原因のひとつです。

安静にして全身の筋肉が弱くなると、認知症の引き金にもなりますし、認知症もまた嚥下障害の原因のひとつです。

昔はこの間違った対応が当たり前だったので、嚥下障害ひいては経管栄養を増産する温床になっていました。

 

経管栄養で何年も口から食べていない方でも、やり方ひとつでまた、口から食べる幸せを取り戻すことができます。

僕自身、胃瘻で何年も無表情のまま生きてきた利用者さんが、口から食べた途端に笑顔になったという現場をいくつも見てきました。

それは今も全国で広がってきています。

これから、摂食嚥下障害を改善するためのノウハウを発信していきますので、もしそんな方の介護に携わっているのであれば、その人を笑顔にする助けになってほしいと思います。