摂食嚥下と脳機能の関係性をわかりやすく解説します

リンクの内容は、口から食べる事のメカニズムをよく理解すれば、食べることが出来ずにいる方のQOLを向上することにつながるというお話しです。

これは本当に大事なことです。
この記事では、その内容についてもう少し深掘りしていきます。

 

食べることと脳機能の関係

食べることというのは、大脳辺緑系や視床下部などで、空腹感や満腹感、自律神経系統、水分調節機能などによってプログラミングされた行為です。

これが大脳皮質において、味覚・嗅覚・触覚などの感覚系や手・口の運動刺激系によって、一連の食べる行為を調整しています。
大脳皮質は他にも記憶・理解・判断などを調整している、どえらい働き者です。

 

 

まあ小難しくてよくわかんないっすね(;´Д`)

 

日常的な食生活では、まずしっかり起きている(意識が覚醒している)ことと、食べ物があるぞっていう認識ができることが、まず大事です。

で、目の前に食べ物があると、視覚や嗅覚などが刺激されて唾液が分泌されます。

その刺激が脳全体に行き渡ることで食欲がわき、どう食べてやろうかという判断をしながら、食べる行為(摂食行為)へと連動していきます。

 

食べることと脳の関係は、ざっくり言うとこんな感じです。

さらに細かく掘り下げてみますね。

 

覚醒・記憶

口やその周囲には感覚神経がびっしりありまして、身体の他の部位と比べると、その敏感さは、手の指先に次いでトップクラスの実力。

なので、口から神経を通して、脳にたくさんの情報が送られます。

視覚・聴覚・味覚の情報は、視床を通って大脳皮質の感覚野へ、さらに脳幹に伝わっていきます。
この脳幹にある網様体賦活系(もうようたいふかつけい)っていうのは、はっきり目覚めている状態を保つように機能しています。

つまり、口から食べることによって、口腔周囲の皮膚や粘膜から、情報が脳全体に伝わって、覚醒状態を維持します。

なおかつ、注意力や記憶力まで保持してくれるっていうメリットがあるんです。

逆に言うと、口から食べることを止めると、覚醒・注意力・記憶力が低下するってことになります。

であれば、口から食べない手はありませんよね。

 

認知機能

食事っていうのは、家族との団らんや友達との付き合いなど、社会性に富んだ、脳活動に基づく生活行為です。

摂食動作においても、手を動かすことで大脳にある前頭前野に重要な働きかけをすると言われています。

食べるっていう行為は、自分が食べ物にどのように対応するかという判断をして、その指令を脳が伝達することで、人間らしい食生活を送っています。

人間性を形作るもののひとつが認知機能です。
手や口から豊富な刺激を受けることで、高次な認知機能の維持・向上を図ることができるんです。

 

感覚刺激と味と食欲

好きな食べ物を食べる時は、視覚・嗅覚・味覚(特殊感覚)が刺激されて、舌や軟口蓋にある味蕾細胞を活性化します。

「美味しいもの」や「好きな食べ物」によって、「食べたい」っていう食欲が生じます。
一方で、「美味しくないもの」「嫌いな食べ物」に対しては嚥下反射が起こりにくく、食欲も生じにくいです。

「好きな食べ物は誤嚥しにくい」説がありますけど、一応は理にかなっているんですね。

 

実際、ある絶飲食対応の看取りの方に対して、介護職員が最後においしいものを食べさせてあげたいと、ソーダアイスを食べさせたんですって。

その方、パンを自分で食べれるくらいまで回復したそうです。

過信はするべきではありませんが、「美味しいものを口から食べる」って、ただ嚥下がしやすいだけではないんですね。

 

「おいしい」という感覚は、脳を通して咀嚼や飲み込みなどの動作を円滑にしてくれます。
「おいしい」を繰り返すことが記憶の想起につながるので、それが一度は失われた口から食べるという行為をまた得ることができるんです。

何度もお話ししている通り、手を使って食べるという動作もまた食べる行為の再獲得へのきっかけになります。

 

小難しい話ですが、「味」というものは分子レベルで水に溶けて口全体に広がるものなので、唾液によって口内が潤っていることはとても重要です。

普段の口腔ケアが不十分で口内が乾燥していたり、汚れがこびりついたりしていると味覚まで届きにくいので、せっかくの好きな食べ物も味を感じられなくなります。

口腔ケアによる清潔と、唾液分泌を促すことは、食べるためには欠かせないケアなんです。

咀嚼

咀嚼することによって唾液が分泌されます。

先ほどお話しした通り、噛んで細かくなった食べ物(食塊)が唾液と混ざり合うことで、口内に味が広がります。
かつ、消化・吸収を助け、殺菌・免疫作用まで備えています。

よだれ、なめたらいけませんよ!

 

細かく言うと、唾液の効果は他にもまだまだあります。

  • 唇・舌の動きを滑らかにして、発声・発語を促進
  • 口臭予防
  • 口内の湿潤による粘膜の保護
  • 体が脱水状態にあれば、分泌量を調整して脱水の進行を防ぐ
  • 食べ物の滑りを良くして、食道までの送り込みをしやすくする
  • 体温調節
  • 体内の不要物・有毒物質の排泄(痰など)

これらの効果を得るためにも、咀嚼することはとっても大事です。

よく、嚥下障害のある方に対して、噛まなくてもいいようにと刻み食とか、ペースト状にしたものを提供する施設があります。

適切に状態の評価がなされていれば、食べるという行為を再獲得していく過程で、段階的にそういう食事形態で提供することもあり得ますが、それがスタンダードになってしまっては、いつまでたっても嚥下障害は改善しません。

 

ちなみに、「噛まなくてもいいように刻み食」っていうのはマジで論外です。

噛んで唾液と混ざって食塊になるから円滑な飲み込みができるのであって、刻み食を噛まないまま飲み込もうとしたら、食物残渣(しょくもつざんさ)という細かいカスが口や喉の周りに残って、後から気管に入り込む危険が高いんです。

ペースト状ならいいかと言うと、絶対にいいとは言えません。
これはまた別の機会にお話しします。