摂食嚥下障害とは、食べることについて、何らかの行動が障害された状態のことを言います。
食事することは、生命の維持とかだけの問題ではなくて、生活や社会活動の中でも大きな意義があります。
この記事では、摂食嚥下障害の原因や症状について詳しくお話ししたいと思います。
摂食嚥下障害の原因
実のところ、摂食嚥下障害の原因はめっちゃいっぱいあります。
大きく分けると、身体的(器質的・機能的)な問題と、心理的・社会的な問題があるんです。
ざっくり言うと、次の通りです。
【器質的・機能的原因】
- 脳疾患
- 肺疾患
- 神経障害
- 認知症
- 知的障害
- 神経疾患(パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症など)
- 末梢神経炎(ギラン・バレー症候群など)
- 舌炎など
- 口腔・咽頭・後頭部の腫瘍や異物
- 頸髄損傷など
- 食道炎や潰瘍など
- 薬の副作用
- 放射線治療の副作用
【心理的・社会的原因】
- 神経性食思不振症・拒食
- 気分障害
- 神経症
- うつ状態
- ストレスなど
ざっくりでも覚えきれませんが、これらが食べる機能を低下させる要因になります。
何かの合併症だったりもしますね。
合併症を併発しやすい要因としては。
- もともと複数の疾患がある
- 加齢
- 薬の関係
- 廃用症候群
- 対人関係などによるストレスなど
が挙げられます。
5期モデルごとに出現する症状
5期モデルについては↓の記事でご確認ください。
先行期
主な症状と状態
認知機能低下
- 食べ物をみても反応しない・気づかない
- 食べ方がわからない
- 箸やスプーンなどの使い方や動作がぎこちない
- 落ち着きがない、集中できない
- 飲み込まないうちからどんどん食べ物を口に運んで、むせる、詰まる、噴き出す
- 食事に時間がかかる
- 食べ物が残っているのに気づかない
- 食べ物以外を食べる(異食)
麻痺・失調・筋力低下・可動域制限
- 器、箸、スプーンなどが使いにくい
- 器から食べ物をすくって、口にいれるまでの動作が難しい
- 失調・筋力低下・可動域制限などによる動作制限
不安定な姿勢
- 頭、体幹、骨盤、上肢・下肢などの姿勢が良くない
- テーブルや椅子が本人に合ってない
関連疾病・障害
- 意識障害
- 高次脳機能障害
- 認知症
- 骨関節疾患
- 神経疾患
- 失調
- 廃用症候群(拘縮や筋力低下)
- 上肢の運動麻痺
- 関節可動域制限
準備期
主な症状と状態
顔面や口唇の麻痺・感覚障害
- 口を開けるのが困難
- 口唇閉鎖ができない
- 唾液が多い
- 食べ物をよくこぼす(特に麻痺側)
- 頬を膨らませたり、すぼめるのが困難
- 麻痺側の口内に食べ物が残る
- 麻痺側の口唇周囲に食べ物が付いているのに気づかない
- マ行・パ行の発音がうまくできない
舌の麻痺や感覚障害
- 舌の位置が偏っている、萎縮している
- 舌の動きが悪い(前後・左右・上下・回旋)
- 味覚が鈍い
- 咀嚼が弱い
- 唾液が少ない
- 食塊が作られない
歯・口腔疾患や口内の環境不良
- 咀嚼困難・咀嚼時の痛み
- 唾液分泌の低下
- 口内の乾燥
- 味覚低下
- 虫歯
- 歯が1本もない(無歯顎)
- 義歯がうまく入っていない
- かみ合わせが悪い
- 舌苔がある
関連疾病・障害
- 顔面神経麻痺
- 舌下神経麻痺
- 三叉神経障害
- 運動失調
- 歯・口腔周囲疾患
- 義歯装着・かみ合わせ不良
- 高次脳機能障害
- 廃用症候群
口腔期
主な疾病と状態
食べ物の送り込みが不良
- ずっと咀嚼している
- 麻痺側の頬に食べ物が残る
- 舌の動きが悪い
- 疲労感
- 食欲低下
構音障害・呂律困難
- ラ・タ・カなどの発音が不良
- 言葉が聞き取りにくい
関連疾病・障害
- 顔面神経麻痺
- 舌下神経麻痺
- 三叉神経障害
- 運動失調
- 歯・口腔周囲疾患
- 高次脳機能障害
- 廃用症候群
咽頭期
主な症状と状態
嚥下反射の低下・遅延
- 飲み込みが遅い
- むせ・咳き込み
- 液体が一気に咽頭に入り込む
- 嚥下反射の喪失
喉頭挙上・咽頭の蠕動運動不良
- 1口を数回に分けて飲み込む
- のど仏が上下しない
- 喘鳴・湿性嗄声など
- 咽頭に残留感がある・残留している
鼻咽腔への流入
- 鼻水・飲食物が鼻から出てくる
- 鼻声、嗄声
構音障害
- カ行・ガ行が聞き取りにくい
関連疾病・障害
- 舌咽神経障害
- 迷走神経障害
- 運動失調
- 高次脳機能障害
- 廃用症候群
- 球麻痺・仮性球麻痺
- 腫瘍
- リンパ節転移
- 動脈瘤による圧迫
食道期
主な症状と状態
食べ物の逆流
- 嚥下後の飲食物逆流
- 臥床することなどによる逆流
- 喉や食道につかえる
- しゃっくり(吃逆〈きつぎゃく〉)
- 嘔吐
頸部の保持が困難・筋緊張
- 首の動きが悪い
- 首・肩こり
- 顎が上がって気道確保状態
- うつむきすぎて喉が狭まってる状態
関連疾病・障害
- 舌咽神経障害
- 迷走神経障害
- 運動失調
- 廃用症候群
- 胃腸障害
- 腫瘍(主に食道がん)
- 動脈瘤による圧迫
- 胃食道ポリープ
- アカラシア
どの段階でどんな症状等が出ているかの指標にしてもらえれば。
列挙した疾病等は一部です。
細かくはもっとあるので、確実にその疾病等に該当させるのは難しいと思います。
大事なのはどんな症状が出ているかなので、悪しからず。
その症状について適切に評価をすることで、適切なケア方法が見いだせますので、おおまかにでも覚えておくといいと思いますよ。
合併症と弊害
摂食嚥下障害の合併症には主に、
- 誤嚥性(嚥下性)肺炎
- 低栄養
- 脱水
- 窒息
があります。
これらが怖くて、絶飲食にして点滴や経管栄養に走りがちで、十分な栄養や水分を口から摂れなくなります。
そうして経口摂取じゃない状態が長く続くと、食べる楽しみがなくなるだけじゃなく、起きる必要までなくなっちゃうので廃用症候群を招きますね。
廃用症候群によって、筋・骨格の形が変わったり、褥瘡になることもあります。
さらに、認知機能低下、口周囲や嚥下機能、咳反射(むせ)の低下を引き起こして、余計に口から食べられなくなるっていう悪循環におちいります。
確かに、気管に入りかけたってことなので危ないと言えば危ないです。
でも、そもそも咳反射っていうのは、異物が肺に入り込むのを防ぐための防衛反応なんですよ。
機能低下しているお年寄りにおいては、「むせない」=「安全」とは限らないんです。
治療のためにやむを得ず・・・という状況は確かにあると思います。
でも、使わない器官の機能低下を放置し続けることで、心身全体の機能低下まで引き起こすんです。
そうなると、本人にとっても不幸な余生であるばかりか、医療や介護の手間や困難な場面が増えることになるので、誰も得しません。
治療のための一定期間は仕方ないとして、大事なのは、いかに早期に機能回復に移行するかということです。
よほどの高熱などの不調がなければ、早期の離床対応。
観察・評価を繰り返しながら、早期の経口摂取再開。
これらを目指して、早期のカテーテル離脱を図るようなケアを行う必要があります。
医療・介護のチームケアが欠かせませんね。
注意点
早期のケアは大変に重要なんですが、だからといって、経口摂取にばかりこだわりすぎるのも、リスクが伴います。
合併症や食欲低下によって、一時的に低栄養や脱水を起こしている場合などは、無理に経口摂取だけ行おうとせずに、経管栄養でまずは栄養状態を最低限良好にしてからのケアを検討するべきです。
低栄養では、活動性が低下するだけでなくて、脳血管障害、褥瘡、感染症などが起こりやすくなります。
脱水も同様で、認知機能の低下の可能性もあるんです。
このような場合によっては、経口摂取と経管栄養をうまく組み合わせていった方が、かえって機能維持・回復がスムーズになるので、段階的にケアの目標設定を設けていくといいですね。
今回はここまでにして、次回、合併症などについてさらに深掘りしていこうと思います。