↓記事の内容では、摂食嚥下障害の原因・症状について、5期モデルにおいてどのような症状などがあるか、合併症にはどのような弊害があるかという内容をお話ししています。
今回は、摂食嚥下障害の原因について深掘りしていきたいと思います。
摂食嚥下障害の悪化の要因
摂食嚥下障害を悪化させる要因は、次の通りです。
- 複数の疾病や合併症
- 廃用症候群
- 不適切な食形態や内容
- 高次脳機能障害や認知症
- 治療・薬の副作用
- 加齢
- 不適切な環境
摂食嚥下障害を改善していくためには、こういった要因をしっかりフォーカスして、ケアの方法を考えていく必要があります。
それぞれについて解説していきいますね。
複数の疾病や合併症
摂食嚥下障害を悪化させる要因として、高血圧、心疾患、糖尿病などが挙げられます。
さらには、内臓疾患・骨関節疾患なども、低栄養や呼吸困難、運動機能の低下を引き起こすので、安全に食べることが出来なくなる可能性が高くなります。
特に、年を取れば取るほど複数の疾病にかかりやすくなります。
合併症もそうです。
なので、既往歴をしっかり確認した上での複合的な評価を視野に入れておかないと、適切なケアにつながりません。
廃用症候群
急性期治療などでは、よくカテーテル類を留置して安静を保ちます。
これは、治療上やむを得ない対処です。
やむを得ないのですが、やっぱり身体各部の機能低下による廃用症候群を引き起こしやすいので、それを予防する対策も並行して行わないとなりません。
繰り返しますが、カテーテル類(尿カテーテル、静脈栄養、経腸栄養、人工呼吸器、気管切開など)が留置されている状態では、機能低下を引き起こす可能性が高いです。
例えば、
- 臥床していることによる心肺機能や身体機能低下(筋委縮や関節拘縮)
- 目が覚め切ってないため脳機能低下
- 意欲の低下
- 資格や聴覚での情報処理機能低下
- 脳機能低下に伴う認知機能低下
- 口を動かす機会が減ることによる唾液分泌低下・口腔乾燥や、構音機能低下
- カテーテルに対する違和感・ストレス
などが生じやすいんです。
これら廃用症候群の予防を視野に入れたケアやリハビリを、可能な限り早い段階で行わなければ、摂食嚥下機能は悪化する一方です。
実際、誤嚥性肺炎患者の治療開始後の経口摂取を、①3日目から始めたケースと、②4日目から始めたケースを比較したところ、その後の死亡率に開きがあったそうです。
①の方が、予後が良かったんですね。
つまり、なるべくはやく経口摂取を開始した方が予後が良いということになります。
長期の臥床には、
- いつも同じ風景(視空間の制限)
- 手足を自由に動かせない(カテーテル抜去やベッドからの転落防止のための身体拘束)
- 話ができない
- 口から食べられない
- 排尿の感覚がわからない
など、機能低下のリスクファクターがゴロゴロしてます。
子どももそうですが、お年寄りは環境に適応する能力が低くなっているので、これらによる過度なストレスの影響が、健康面に現れやすいんです。
機能低下が更なる機能低下を呼び、二次的な合併症を引き起こす悪循環におちいります。
入院から施設に帰ってきた利用者さんって、廃用症候群起こしかけ(または起こしてる)場合が多くないです?
病院が治療のみに専念してしまうとそういう事態になりやすいので、しわ寄せは施設(在宅なら家族さん)に来ます。
本来なら、急性期治療の段階から、最低でも入院前の状態維持を目標とした廃用症候群の予防対策が絶対に必要なんです。
病院側にそれをなかなか言えない介護職の立場の悪さはどうにかしたいとこですけどね(-_-;)
不適切な食形態や内容
治療後の食事再開において、どの形態・内容を選択するかは重要です。
摂食嚥下機能に応じた固さ、べたつきの有無、ばらばらにならないか、どんな成分が含まれているかなどの安全性を把握して、なおかつその人の好みにあった食べ物・味に気を付けなければなりません。
美味しいもの・好きなものを食べることと摂食嚥下の関わりについては、他記事でもお話ししています。
これを踏まえて、段階的にステップアップしていく必要があります。
摂食嚥下機能に応じて活用できる技術があるので紹介しますね。
交互嚥下
交互嚥下とは、固形の食べ物と、水やゼリーのように飲み込みやすいものを交互にとる食事の仕方です。
口内や喉などに残った食べ物を、滑りいい物が押し流すというスンポーです。
僕らでも、食べ物が喉に詰まりかけたりしたら水などを飲みますよね。
それと同じことです。
嚥下機能が低下している場合、水だと誤嚥する可能性もあるので、機能に応じてゼリーを活用することが多いです。
複数回嚥下
摂食嚥下機能が低下している人は、一口大の食べ物もうまく飲み込み切れない場合があります。
咀嚼が不十分とか、飲み込む力が弱いなどが原因です。
口に中途半端に食べ物が残っている状態で次の一口が入ってくると、誤嚥のリスクが高まる可能性があるんです。
そこで、一口に対して2~3回飲み込みを促すよう声掛けします。
それで口内の食べ物がなくなったのを確認できても、咽頭付近に残っている可能性があるので、交互嚥下を併用すると、リスクを軽減できます。
また、食形態についての知識も活用できるようにしましょう。
とろみについて
むせの多い人は、水分にとろみをつけるのがスタンダードになっています。
でもこれ、とろみをつけすぎるのは逆効果なんです。
とろみが強いとベタベタします。
ベタベタのことを「粘性」と言いますが、粘性が高いってことは、口や咽頭などの粘膜に対する付着性も高いっていうことなので、食べ物が残留するのと同じ感じになっちゃいます。
むしろベタベタな分、食べ物よりたちが悪いです。
窒息もあり得ます。
それで言うと、もったりしたお粥も考えもんですね。
理想は、液体の量に対して1%のとろみです。
1%とは、100~150ccの水に対して小さじ1/2杯ってとこです。
これを基準に、嚥下機能に合わせて調整していきます。
ただ、ジュースや乳製品とかだととろみが出るまで時間がかかるので、「あれ?全然とろみつかねー」って言って追いとろみしちゃいがちなんですが、時間が経てば必ずとろみはつくので、注意してください。
1%のとろみでむせこみが多い場合は、とろみを増やすよりもゼリーから始めた方がいいですよ。
ただし、ゼラチンゼリーは室温に長時間置かれると水っぽくなる(離水)ので注意です。
とろみも時間が経ちすぎると粘性がどんどん高まりますから、とろみをつけてからは放置しないようにしましょう。
ミキサー食
ミキサー食は、一見滑らかで良さそうに見えるんですが、食材によっては水分が多すぎたり、繊維が多いと付着性が高くなるので、かえってリスキーな場合があります。
ミキサー食自体がダメってんじゃなくて、付着性に注意した食材選びをしましょうってことです。
あと見た目もあれです、物によっては吐物みたいになるので、調理する人の腕が問われますね。
粥と唾液
お粥類は、食べ続けていると、スプーンに付いた唾液が混ざって離水します。
お粥に含まれるデンプンと、唾液中のアミラーゼという成分が化学反応を起こすためだそうです。
すると、要はお茶漬け状態になるということなんですが、液体と固体を一緒に嚥下することを混合嚥下と言います。
混合嚥下っていうのは、僕らは難なく食べられるので意識しにくいものの、実は結構難易度の高い嚥下機能なんです。
消化器系の外科手術などの後って3分粥とか5分粥が提供されやすいそうなんですが、摂食嚥下機能が低下している方には相当リスキーです。
お粥類を食べる際は、離水を防げるように、一口ごとにスプーンの唾液を洗い落とすようにしましょう。
フィンガーボールよろしく、適当なコップなどに、スプーンを洗う用の水を入れておくと、いちいち洗面所まで行く必要がないのでおすすめです。
※洗う用の水は氷水をおすすめします。理由は別の機会に。
高次脳機能障害・認知症
高次脳機能障害や認知症の方は、自分の機能などを正しく認識して訴えることができないので、低栄養や脱水、誤嚥、窒息を起こしやすいと言えます。
症状で言うと、
- 覚醒が不十分で、食べ物を見ても反応しない、口を開けない
- 食べ方が分からない
- 食事に集中できない
- 飲み込んでないのに次々食べ物を口に入れる、口にため込んでいる
などです。
さらに、麻痺や感覚障害があったりします。
その人の摂食嚥下のどの段階でどのような状態にあるかを適切に評価して、丁寧にアプローチしていく必要があります。
治療・薬の副作用
お年寄りは複数の疾病を持っていることが多いので、その分薬の種類も多いです。
服用にしても、錠剤か粉剤かは嚥下機能の影響をもろに受けます。
また、いくつかの病院で受診されている場合、同じないし似た効能の薬を重複していることもざらです。
合わない薬、不要な薬を多量に服用することで、食欲低下や胃腸障害を起こす可能性も視野に入れておかなければなりません。
また、口内が乾燥していると、薬が口内や咽頭にくっつきやすいんです。
水で流しきれずに残っちゃうと、そこに細菌が繁殖して、感染症の原因になります。
急性期治療後でまだ食事が開始されていない場合は要注意です。
食事してない状態で薬だけ飲むってことは、その分口内が乾燥している可能性が高いってことですから。
食べてない時でも、口腔ケアは必須です。
加齢
摂食嚥下機能は加齢の影響もモロに受けます。
年を取ると、口も渇きやすいし水分は摂りたがらないし、むせやすいし食事に時間がかかるってことが起こりやすいんです。
場合によっては重い病気や合併症にかかったり、病気やケガの回復が遅かったり、認知機能の低下や意欲低下などなど、加齢ってだけでこんだけのリスクがあります。
お年寄りって、不顕性(ふけんせい)って言って、病気になっても症状が出にくい傾向があります。
なので、気づいたころにはすでに重篤ってこともあり得るんです。
誤嚥もまた不顕性な場合もあるので、いつの間にか肺炎って多いんですよ。
なので、評価やアプローチによって、いかに誤嚥リスクを軽減できるがが勝負です。
不適切な環境
食事をするのに適切な環境には、物理的なものと人的なものがあります。
物理的環境
- 椅子(車いす)
- テーブル
- 箸などの用具
- 姿勢を保つためのクッションや枕など
加えて、高次脳機能障害や認知症がある方の場合、ベッドや椅子の位置関係、視界に何があるかも重要になります。
例えば、注意障害がある場合、テレビなどが視界に入ると、そっちを見入って食事に集中できなくなります。
他の人が通り過ぎるだけでも集中が削がれることもよくあるんです。
人的環境
人的環境とは、看護・介護職員など関係者に、ちゃんとした知識や技術が備わっているか、適切な評価やアプローチができているかということです。
- 姿勢を保つためのポジショニングが不適切
- 立ったままなど、相手の目線より高い位置からの介助(顎が挙上するなど)
- スプーンの使い方
- ペース
- 一口の量
- 食べながら話しかけて喋らせようとするなど
これらは全部誤嚥のリスクであり、不適切な介助です。
自分でうまく食べられないという方はもちろん、自力摂取に対してもしかるべきケアの方法があります。
まとめ
こうしてみると、摂食嚥下障害が悪化する原因を探っていくと、本人の器質的要因だけではないことがわかってます。
普段の介護方法などを見直すことで、状態が改善することもあるかもしれません。
「自分のこんな対応が悪化の原因になっている」ということを意識して、改善に取り組んでいただけたらありがたいです。