「俺の背中を見て学べ!」はNG? 介護業界の新人指導のあるあると理想的な指導方法

働き始めの頃は、誰もが新人です。

入社したら、どの企業にも試用期間があると思います。最初の2~3ヶ月間は、みっちり指導を受けて一人で業務をこなせるようになるための期間です。
企業によっては、その間給料が低めということがあります。

介護業界も同じです。
給料を低めに設定しているかは事業所によるかと思います。

何にせよ、入り口は誰でも入れる介護ではありますが、いざやってみると、相当な専門知識・技術が必要になります。

さらに言うと、同じ「介護」でも、施設によってやり方が全く違うことがあるので、別のところで経験があったとしても、あまり当てにならない場合も…。

施設側も、「新しい職員さん、〇〇の施設で経験者だって!即戦力だね!」という人が少なくありませんが、それ、やめてほしいですね。

ということで、経験があろうがなかろうが、入社したら最初は基本の業務の流れ、利用者さんの顔・名前と個性、その施設のやり方を知るために、指導を受けなければなりません。

この記事では、経験の有無を問わず、新人の介護職員が指導を受けていく際の注意点についてお話ししていきます。

「施設によってやり方が違う」と言いましたが、それは例えば特養とデイサービスなど、事業そのものの違いだけではありません。
同じ特養でも、ユニット型か従来型かで全然違いますし、職員の考え方によっても大きく変わります。

指導の型について

新人教育において、指導の手法ってのがいくつかあります。
あなたが実際に受けてるかもしれない手法です。

大きく分けると、OJTOff-JTの2つだと思いますので、説明します。

OJTとは

OJT(On the Job Training)とは、職場の上司や先輩が、部下や後輩に対し具体的な仕事を与えて、その仕事を通して、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを意図的計画的継続的に指導し、修得させることによって全体的な業務処理能力や力量を育成する活動である。

©Wikipedia

現任訓練・実地指導などとも言われます。
つまりは、先輩がつきっきりで現場に入ってもらうってことです。
「習うより慣れろ」・・・というか、「習いながら慣れろ」ですね。

OJTの流れ

  1. 新人がその仕事をどれくらい知っているかを確認し、興味を持って続けられるよう、適した役割を与える。
  2. 指導者が作業を実際にやってみせて、流れを確認させる。
  3. 本人にやらせてみる。
  4. わからないことを質問させるなど、フォローアップする。

OJTのメリット

OJTのメリットは、実際に仕事をしながら覚えられるので、座学よりも戦力になるのが早いというところです。
間違ってもその場で修正してもらえるので、ケースバイケースに対応しやすくなります。

また、指導する先輩も、指導の成果がその後の業務効率化につながるので、その指導力を評価されることがあります。

Win-Winの効果があるんですね。

OJTのデメリット

メリットは結構大きいのですが、その分デメリットもあります。ここでは三つ挙げて説明します。

  1. 指導する人の能力によっては、新人の能力を向上するどころか、逆にやる気を削がれてしまう可能性があるということです。
    ベテランだろうが役職に就いていようが、指導者全員が人に教えることがうまいとは限りません。
    自分でやるのと人に教えるのとでは、必要な能力が全然違います。
    なので、指導内容がしっかりマニュアルに沿ったものである必要があります。
  2. 全体的なシステムを学びにくいということです。
    ケースバイケースに強い指導方法なだけあって、その時以外のことを教わる機会がない場合があります。
  3. 忙しくなってしまうと新人が放置されがちであるということです。
    介護業務の1日の流れは、食事・排泄ケア・入浴・臥床と定型的である場合が多いのですが、相手は人間なので、常に定時で業務をこなせるとは限りません
    「利用者さんが転倒して、対応に人手や時間をとられた」ということもよくあるので、その間経験のない新人は、指示があるまで立ち尽くすしかないですよね。
    そもそも定型的な1日の流れすらバタバタするところもあるので、「あとは自分で考えてどうぞ」と、突然指導が終了することもあります。
    それは教育のネグレクトなので、別の先輩か上司に相談してください。

つまるところ、Wikipediaにある通り、OJTは意図的・計画的・継続的のうちどれが欠けてもいけないということです。

Off-JTとは

実際に現場に入るOJTと対をなすのが、Off-JT(OFF the Job Training)です。
教育訓練とも言われます。

主に座学による指導で、研修や講義を受けるなどによって、必要な知識を得るというものです。

OJTと比べると少し軽視されがちですが、Off-JTを積極的に行っている企業も多いようです。

Off-JTのメリット

Off-JTのメリットは、全体的な業務について必要なことを学べるということです。

OJTの場合、指導者によってはあまり理論的な説明を受けられない場合があります。
特に忙しい状況であれば、説明がそもそもないまま終わってしまうことも。

Off-JTでは、そういったことも言語化して説明を受けられるわけです。

介護の仕事は意外とデスクワークを伴うことが多いので、そういうのはOff-JTの方が覚えやすいと思います。

さらに言うと、Off-JTは言語化している情報なので、OJT以上にしっかりマニュアル化されているため、指導者の能力に依存することなく指導を受けられます

Off-JTのデメリット

Off-JTのデメリットは、小難しく言うと、即効性や実践性が期待できないという点です。

基本の知識をちゃんと形式的に学べる反面、それをすぐ実践する機会がないと、もう忘れてしまう場合がほとんど。
人間ってそういうものです。

また、現場はすぐにでも人手が欲しいのに、現場を離れて座学に時間を割かなければなりません。
1~2時間はとられるものと思っていいでしょう。

外部での研修などの場合、費用が掛かります。
こういうコストはばかにならないものです。

座学でマニュアルだけ学んでも、人を相手にする以上、それだけで現場は回りません。

あくまで、仕事をする上での基盤を作るというつもりでOff-JTを受けた方がいいでしょう。

OJTとOff-JTの抱き合わせが大事

メリット・デメリットを確認すると見えてきますが、OJTもOff-JTも、互いにないものを持っているという特徴があります。
それぞれ、「体で覚える」と「頭で覚える」といったところでしょうか。

どちらかを受ければいいというものではなく、Off-JTで基本を学んだ上で、OJTにより実践力と応用力を学ぶなど、抱き合わせ指導が大切です

そこをベースに、指導を受ける側の能力を見極めてどちらに重点を置いて指導してもらえるかが、優れた企業の新人教育だと思います。

こんな指導者はNG!

介護業界の指導には、いろいろなあるあるがあります。

これから働く方は参考にしてください。

1.「俺の背中を見て学べ!」型

OJTにおいては、「まず指導者がやってみせる」という工程があります。
もちろんそれは必要な工程です。

しかし中には、やるところだけやってみせて、「じゃあ、あとはやってみて覚えてね!」と、それはもうさわやかに言い放つ方がいらっしゃることがあります。

このような「俺の背中を見て学べ」型の先輩は、根拠を知らないか、言語化できないのか、または自分の技術や指導の仕方に酔っているのでしょう。

少なくとも、「これはどういう意味ですか?」などと質問して、わかりやすく答えてくれるようでなければ、指導者としては不適切です。

あるいは、教える前に「まずはやってみろ」と言う人もいるかもしれません。
それも多くの場合は、自分に酔っている人です。

見て覚えるという方法は、指導される側にとって、その指導者以上の人材にはなりにくいやり方です。

ただ真似をしているだけでは、上達も出世も決してできません。

2.「誰にでも教え方が一緒」型

当たり前のことですが、一口に「新人」と言っても、それぞれに適した指導方法があります。

例えば、説明書を先にしっかり読んでおきたいタイプの人であれば、まずは詳しくレクチャーを受けた方が現場では動きやすいでしょう。
Off-JTもあるとありがたいですが、OJTから始まったとしても、なるべく「そのようにやる根拠」を教えてもらえたらありがたいと思います。

しかし、誰もがみんな同じタイプではなく、座学よりもまずは現場に出たいという人もいます。
これは、体験していないことの説明を受けても頭に入ってきにくいというタイプかもしれません。

前者の場合は「本番に備える」、後者の場合は「実体験から学ぶ」といったところでしょうか。
どちらが悪いというわけではありません。

これは個性なので、それぞれに適した指導方法ができる指導者でなければ、新人を育てることはできません。

指導が始まる前に、例えば「実践からと講義から、どっちがいい?」と聞いて、答えた通りに指導を始めてくれる人は指導力が高いと言えるでしょう。
さらには、その指導に慣れてきたところで、これまでと逆の指導方法を試してくれる人だと、もっと良いですね。

番外編:注意すべき施設の指導

ここまで、新人指導には同じ先輩がつき、マンツーマンで指導することを前提にお話ししました。
しかし、入居施設などのようにシフト制の場合、常に同じ人がつくシフトを組むことが難しい上、お風呂介助などでユニットを抜けなければならないこともあります。

そうなると、やむを得ずその日によって別の職員が指導者になる場合があります。
この場合の問題点は、指導者の数だけ指導内容が違う可能性があるということです。

「教える側によって言っていることが違う」という言葉をよく耳にします。
教育マニュアルを完備し、それを全職員が徹底できるのであればさして問題ありませんが、ベテランだって個性と能力差がありますので、やはり完全統一とはいきません。

個性と能力差はそうそう埋められるものではありませんが、だからと言ってこの指導方針を良しとしている施設は、あまり好ましいとは言えません。

最後に

私が施設介護士をしていた頃、新人や実習生が来た時に、必ず言っていたことがあります。

もしかすると、指導者によって言うことが違うかもしれません。
いろいろな人のいろいろなやり方を見て、どれが一番その利用者さんのためになるのか、どれが一番効率的か、あるいは、それ以上のやり方があるか、自分なりに考えてみてください。

真似するだけでも、現場だけでも座学だけでも、成長するには足りません。

指導者が悪いと新人は伸びません。

しかし、自分が成長できない・出世できない理由を指導者(や周り)のせいにしていては、指導者の良し悪しに関係なく、そのような人の将来はたかが知れています。

反面教師のように、悪い指導者から学ぶこともあります。

逆に、良い指導者に当たったら、良いところをどんどん吸収して、自分なりのより良いものに昇華できるようになれば、もしかするとその指導者を飛び越えて出世することもあるかもしれません。

大切なのはマインドです。

一緒に頑張りましょう!