ショートステイを巡る【家族やケアマネの気持ち】と【施設介護職員の気持ち】

僕は、特養介護士を経てケアマネージャーになりました。

その経験の中で少し考えさせられたのが、ショートステイを巡る考え方の違いです。

僕の経験の範疇に起こった偶然か、はたまた介護業界全体に起こり得る必然かはわかりませんが、このことについて少し考えてみたいと思います。

 

ショートステイを利用する家族とケアマネの気持ち

厚生労働省で規定する短期入所生活介護(ショートステイ)運営規定には次のような一文が明記されています。

第1条
短期入所生活介護事業(以下「事業」という。)の適正な運営を確保するために人員及び管理運営に関する事項を定め、要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排泄、食事等の介護その他日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図ることを目的とする。

注目してほしいのは最後の方です。

「利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図ることを目的とする。」

もちろん、方針の上では利用者本位=最優先ということになってはいますが、そればっかり優先すると、日本の介護問題は悪化する一方でしょうね。

なので名目上は、「利用者の心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図る」としているわけです。

家族の気持ち

ショートステイを利用してほしい家族の気持ちはどのようなものでしょう?

ショートステイを利用する理由としては、おおむね次の3つです。

  1. 介護者の不調・入院、突然の訃報などのやむを得ない事情
  2. 施設入所を見越した練習
  3. 介護の身体的・精神的負担が大きい

②は稀ですけどね。
①の介護者の不調・入院については、介護負担が原因である可能性もありますね。

というわけで、一番の理由は③であると言っていいでしょう。

最近の居宅の訪問系サービスは夜間のフォローも充実していますが、地方なんかはそうでもありません。
緊急対応ぐらいはあるとしても、夜間の訪問は基本的にない地域もあります。

認知症や身体機能がいずれかでも重度である場合、家族は深夜・早朝の対応を迫られる可能性があります。
毎日デイサービスを入れても、夜安心して眠れなければ大した負担軽減にはなりません。
(あくまで家族の心理としてです。実質の負担軽減には間違いなくなってます。)

要介護者を抱える家族は、藁にもすがる思いでショートステイを利用している場合が多いんです。

ケアマネの気持ち

【ケアマネは、利用者本人や家族の御用聞きであってはならない。】

という教えを更新研修などで教え込まれます。
当然意向確認はするものの、それを踏まえて必要なサービスを提案するのが、ケアマネ本来の役割です。
使ってみよっかな」くらいの感覚で利用につなげるのは、やはりよろしくないです。

中には、「介護保険料払ってんだから、好きに利用する権利がある」と主張する方もいます。
一見否定しにくい意見ですが、保険という認識が少しずれてますね。

まあ保険の認識は置いといて、誰もが好きなようにサービスを利用する・・・というのには問題があります。

ショートステイに限った話ではありませんが、どの施設にも、利用者数の定員があります。
定員があるということは、利用希望が増えればその分、競争率が高くなるということです。
そうなると、本当に困ってて利用したい人が利用できない場合が出てくるので、そういう事態は避けたいところです。
ケアマネも代わりの施設探しに追われる羽目になりますしね。

なんにせよ、本当に困っている家族であれば、どうにかショートステイ利用につなげたいのがケアマネの心情です。

本当にショートステイが必要か否かは、ケアマネのアセスメントにかかってますので、適切なアセスメントができるようにしておきましょうね。

 

ショートステイ対応する施設介護職員の気持ち

では、現場で奮闘する介護職員の目線で考えてみましょう。

問題として挙げるのは、重度の認知症などで、対応が困難なケースがショートステイを利用した場合です。

まあもちろん、意識の高い人(キラキラ介護士とまではいかなくても)なんかは、どんな方でもやる気出してくれるんですけど、全ての職員にその意識を求めるのは、無理な話です。

困難ケースが利用した時に介護職員がもらした一言

暴言・暴力、せん妄や徘徊、介護拒否、セクハラ、もともと性格がきついなど、濃いめの利用者さんはなかなか多いものです。

ショートステイだけじゃなく長期入所でもそうですが、1人の利用者さんの存在で業務効率が一変することはざらにあります。

僕が以前特養の介護士だった頃、世間では「経営・管理職側は現場の意見に耳を傾けるべき」という風潮が徐々に広まってきていました。
それ自体は僕も賛同するところなんですが、僕の周りではむしろ現場の意見が強くなりすぎて、管理職側が対応に困る傾向にあったと思います。

そんな中、ショートステイユニット職員から時々聞こえてきたのが、

また大変な人ばっかり寄越して!
という愚痴。(口調とアイコンの表情が一致してないですがご勘弁)
まあ冗談半分に言ってるうちは良いんですが(良くないか?)、それを施設の相談員に直接愚痴って(ショートステイ受入業務は相談員の仕事です)、相談員をタジタジさせることがざらにあったんです。

愚痴と離職が増えると起こる「辞められたら困る」マインド

「被雇用者は給料をもらっている以上、業務に関わるたいていのことには従う」

・・・という考え方って、雇用条件としてある程度必要だとは思いますが、昨今では古い考え方のようです。
こと介護業界においては慢性的な人材不足が問題としてあるので、従来の雇用者・被雇用者の関係は通用しにくいんですよね。

辞められたら困りますから。

前にニュースに見たんですが、管理職側の傲慢に堪え切れず現場職員が一斉退職し、施設長が連日一人で夜勤をこなして利用者さんを死なせたという施設がありました。

介護職員が足りなくなれば、利用者さんだけでなく、残った職員にしわ寄せがくるので、管理職側は現場職員と慎重に関わっていかなければならないわけです。

結果として、ショートステイ受け入れの門が狭くなります。
定員の話ではなく、介護困難度の話です。

両者の気持ちがわかると強く出にくい

  • 転倒リスクがある
  • 食事介助に時間がかかる
  • 他者の部屋に入ったり、施設を出ようとする可能性がある

こういった利用者さんのショートステイを、僕も何度施設側から断られたかわかりません。
本来、施設側は正当な理由(利用人数や医療行為等)がなければ受け入れ拒否してはならないという規定がありますが、一部の施設では独自のルールを掲げて、手がかからない利用者さんを選り好んでいることがあるんです。

困難ケースを受け入れて辞める辞める詐欺に合ってはたまりませんのでね。

今でこそ僕はケアマネ目線で現場を見ておりますが、現場の辛さもとくと味わっているので、困難ケースを依頼する時は足が震えます。
断られたらどうしよう・・・ってね。

もちろん、一番困るのは介護職員ではないので、そこは食い下がるべきなんでしょうけどね。

 

介護業界で皆がWin-Winの関係には、そうそうなれないのかもしれません。