介護の現場で最も大変なことのひとつに、食事があります。
認知症の方の場合、なかなか食事が進まないことってありませんか?
この記事では、じっとしたまま食事に手をつけてくれない認知症の方に食べてもらえるように、原因別の対応方法を紹介していきます。
食事前の準備状況を確認しよう!
まずは、食事に手をつけてくれない原因を探らなくてはなりません。
ですが最低限の準備をしておかないと、適切に原因を見極めることは難しいです。
そのために、まずは次の通り、食事前の準備が整っているかを確認してください。
食べるための体の準備は整っているか?
- 食事前に排泄を済ませているか
- 疲れていたり、睡眠と覚醒のリズムが乱れていないか
- 発熱などの体調不良、痛みはないか
食べることに集中を維持できる環境が整っているか?
- 食べたいと思える食べ物が提供されているか
- 食卓に食べ物以外の物が置かれていないか
- その環境に、気になる刺激(物音、動く物や人の行き来、においなど)はないか
食べやすい姿勢や場であるか?
- 姿勢は崩れていないか
- 食卓と体の距離、食卓や椅子の高さは適切か
- 座る位置や食事場所は適切か?
これらを確認した上で、利用者さんの前に食事を置いた時、じっとして食べないようであれば、次のように対応します。
認知症が軽度~中等度の場合
- 声掛け
- 食べ物を視線に近づける
- 食べない理由を尋ね、可能なら解決する
これで食べ始めたら、食べ続ける限りは一旦離れて大丈夫です。
食べない理由が体調不良なら、無理に勧めず、落ち着くまでソファに座ったりするのもひとつの手です。
認知症が重度の場合
- 自分から食べ始めるのを待つ
- 声掛け(言語的に)・ジェスチャーなど(非言語的に)で食べる事を勧める
- 利用者さんが箸またはスプーンを手に持つまでを介助
- 箸またはスプーンを持った利用者さんの手にあなたの手を添え、食べ物をすくう動作を介助
- すくった食べ物を口まで運ぶ動作を介助
- 利用者さんに箸・スプーンを持ってもらったまま、あなたが別のスプーンで介助
この手順で少しずつ介助の手を増やしていきます。
③~⑤で本人の拒否があれば、目の前の食べ物をとりあえず一品だけにしてみるか、⑥に飛んで好きな食べ物を一口介助すると、自分から食べ始める可能性があります。
症状別の対応方法
認知症の症状別の対応について詳しく解説していきます。
覚醒状態や体調が悪く、ぼんやりしている場合
朝起きてまだ眠いままだと、朝ごはんがなかなか進みませんよね。
すっきり覚醒していることは、食べるための前提条件です。
認知症の方は、睡眠・覚醒リズムが乱れやすい傾向にあるので、
- 日光や照明などの光環境
- 他者との交流など同調因子(周囲の環境・状況に体を合わせていくことです)
を活用して、睡眠・覚醒リズムを整えていきます。
また、高齢であることも相まって体力が低下している場合は、1日の活動と休息のバランスも見直していきましょう。
他にも、毎日の服薬が覚醒状況に影響している可能性も十分にあるので、処方されている薬を確認してください。
また、いつもと違って元気がない・食欲がないという状況の裏に、何らかの疾患や苦痛が潜んでいることがあります。
特に高齢者の場合、典型的な症状が見られない(不顕性)ことが多いです。
何となくでも「いつもと違う」と感じたら、
- 体温や血圧等の測定
- 他の症状の観察
を行って、疾患の早期発見・治療、苦痛がある場合は除去・緩和に努めましょう。
失認により、食べ物を食べ物として認識できない場合
覚醒はしていても食事に手をつけない場合、目の前の食べ物を「食べ物」と認識していない可能性があります。
「それ見ても何であるかがわからない」のが失認です。
この場合は五感への情報刺激を強化することで解決できる可能性があります。
- 味覚
介助などで一口食べてもらい、「おいしい」と感じることで食べ物であることを認識してもらう - 嗅覚
ラーメンやカレーなど、おいしそうなにおいが強い食べ物を用意する - 視覚
白米を盛るのに白以外の茶碗など、見た目のコントラストをつける
色どりや盛り方でおいしそうだと感じさせるよう工夫する - 聴覚
グツグツ・ジュージューなど調理の音、近くで麺をすする音などを聞かせる - 触覚
なじみの食器を手に取ることで、「イコール食事」という記憶を紐づける
失行により、どのように食べればいいのかわからない場合
生まれてから今までに身に付けた生活動作がうまく行えなくなることを失行といいます。
僕等の食事スタイルは基本的に、
- 利き手に箸・スプーン
- もう一方の手に食器
というのがほとんどですので、そういう食べる構えがつくられると、スイッチが入ったように食べ始める可能性があります。
あとは、動作を一度アシストするだけで食べ進む場合もありますね。
また、認知症が重度になって、箸やスプーンがうまく使えない方もいると思います。
その場合はおにぎりやサンドイッチなど、手づかみで食べられるものを用意すると、目・手・口の協調運動によって食べやすくなる可能性があります。
実はむせにくくなるという効果も期待できるんです。
品数が多くて混乱している場合
品数が多いと選べない(選択的注意障害)場合は、次のように配膳方法を工夫します。
- コース料理方式
一品ずつ提供する - ワンプレート方式
1つの大皿に主食と副食を盛りつけたり、丼料理にする(丼は食べやすいように大きすぎないもの) - 弁当箱の活用
仕切りのある弁当箱を使うと、食べ物を選びやすくなる
箸やスプーンを見つけられない場合
視力の低下や視空間認知障害(視力は問題ないのに見つけられない)により、箸やスプーンを見つけられない場合があります。
- トレイやテーブル・テーブルクロスと箸などの色が似ている
- 箸などの置き場所が悪い
という原因が考えられますので、箸などが目立つ色のセッティング、見つけやすい置き場所を検討しましょう。
あなから利用者さんに手渡すのももちろんアリです。
食欲がない場合
食欲がない原因として、
- 合併症の発症
- 薬物の副作用
- 空腹ではない
- 便秘
- ストレスや不安な状態
- 嫌いな食べ物が提供されている
などが考えられます。
原因がわかったら、それぞれ対応しましょう。
レビー小体型認知症の方だと、症状の変動があるため食べれる時と食べれない時があります。
なので、1週間~1ヶ月~数か月単位で食事摂取状況を観察しておいた方がいいです。
まとめ
「食べない」ことには必ず理由があります。
声を荒立てて食事を勧めるのではなく、原因を特定し、それを解決するよう努めてください。
また、終末期に至った場合、どうしても次第に食べられなくなっていきます。
終末期に限った話ではありませんが、介護する側としては、全量摂取にこだわらず、満足のいく食事提供を心掛けてください。