認知症の方が食べられないワケ|歴史と最新の食事支援法を解説

現在、日本で最も多いと言われているアルツハイマー型認知症。
その原因疾患であるアルツハイマー病を発見したのがドイツの精神科医 アロイス・アルツハイマーさん。

アルツハイマー病について論文に掲載したのが1911年のことで、100年そこそこの歴史です。

対して、認知症の摂食困難に関する取り組みが始まったのは、さらに遅く1970年代と言われていますが、一説によるとさらに10年以上も後のこととされています。

この記事では、認知症の方の摂食困難に対する取り組みの歴史について、海外の研究なども見ながら解説していきます。

 

 

 

認知症と摂食困難の歴史の始まり

1970年代では、介護の現場で認知症の診断がされていないことが多い時代でした。

認知症の摂食困難に関する最初の取り組みとして行われた研究があります。
その記録には、対象者が認知症であることは書かれていません(おそらく診断があいまいな時代背景のせい)が、その事例内容から、対象者が認知症である可能性が高いようです。

その後の認知症の方の摂食困難をテーマにした文献にもよく引用されていることから、この研究の取り組みは1970年代に始まったと解釈されています。

認知症の方の摂食困難の特徴に関する研究や実態調査が行われた時代

摂食困難に関する研究で、認知症の診断が最初に明記されたのは1980年代のことです。
この最初の研究から以降も数々の研究がなされてきましたが、当初から認知症の方の摂食困難に対する介助についての倫理的課題に着目されていました。

認知症の方の摂食困難の改善は、介助方法に左右されます。
この当時の研究は、今日の食事支援にもつながる重要な研究と言われています。

その後の1985年以降、認知症の方の摂食困難に関する記述研究や実態調査が増えていきます。
年間で10~15件ほどの研究報告が上がるようになり、徐々に摂食困難の特徴が解明されるようになりました。

さらに、認知症の方の嚥下障害や低栄養状態に関する研究も同時に進められていました。

しかし残念ながら、介護の現場においては、認知症の方が自力摂取をするための支援ではなく、食事介助が主流だったそうです。
自力摂取ではなく、いかにうまく介助するかに試行錯誤されていた時代でした。

認知症の重症度別にみた摂食困難の特徴について検討された時代

1990年代に入ると、改めて摂食困難とは何かという定義を明確にした上で、研究が進められるようになりました。
概念を整理することは、認知症の評価スケールを開発する上で重要になるという考えからです。

認知症は進行性なので、画一的なスケールでは限定的な改善しか望めません。
そのために、認知症の重症度別にみた摂食困難の特徴についても調査されるようになり、認知症の方への個別ケアにつながるようにと、記述研究や調査研究が行われた時代です。

しかし、認知症は重症度のみならず、認知症の種類にも着目しなければなりません。
1990年代半ばには、レビー小体型認知症前頭側頭型認知症の国際的な診断基準が確立されましたが、介護の現場にそれが広まるのは、そこからさらに15年ほども後のことでした。

 

尊厳ある食事支援の見直しと介入研究が行われた時代

2000年代に入り、国際会議や学界の場で認知症の当事者が語ったり、そういう方の著書も出版されるようになりました。

これによって、認知症の方の尊厳を重視したケアが見直されるようになりました。

この時代には、摂食困難を持つ認知症の方への食事支援に関する研究も増えていきます。
そこで生まれたのが、「食事介助が食べる力を奪っていた」という結論です。

環境を整えることで認知症の方の食べる力を引き出し、食べる楽しみを重視した支援が取り組まれるようになりました。

2005年には、そして先述の通り、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症の概念も介護現場に浸透するようになっていき、摂食・嚥下障害とその支援方法が普及されていくようになるのです。

 

認知症の原因疾患別に見た食事支援について検討が始まった時代

認知症とは病名ではなく、認知機能障害を中心とした症状群を意味します。

様々な原因疾患があり、脳の障害部位が異なり、症状として現れる摂食困難にも違いがあります。

そこで、認知症の原因疾患別に見た摂食困難の特徴と、食事支援の在り方が検討されるようになりました。
これが2010年代のことで、本当にごく最近ですね。

1990年代に診断基準が確定したレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症による摂食困難は、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症による摂食困難と違う特徴があること、さらには食事支援の方法も違ってくることが分かり始めます。

この頃はまだレビー小体型認知症や前頭側頭型認知症の重症度を踏まえた特徴が明らかになっていません。

2020年代を迎え、どこまで進展があったのか。
今後の研究に期待したいところです。