介護で「さん付け」はなぜ大切?名前を呼ぶ意味と心理効果を解説

介護の仕事を始めるとき、最初の座学とかで、「利用者さんの名前を『さん付け』で呼ぶように」って言われたりしませんか?

もちろん僕もそのように指導されました。

利用者さんの尊厳を守るためにと。

 

意外といるんです。

「おじいちゃん(じいちゃん)」、「おばあちゃん(ばあちゃん)」、「○○ちゃん」とかあだ名で呼ぶ介護職員が。

利用者さんに親近感を感じてもらうためにという理由で。

 

どちらが正しいのかな。

良し悪しは後にして、以前の僕はこずるい性格なので、状況に応じて使い分けてました。

食事や排泄など、業務上の介助を行う時は「さん付け」。
談笑など気を抜いてるところでは「じいちゃん・ばあちゃん」。

 

今だから言えますけど、僕は「ちゃん付け」や「あだ名」をやめて、「さん付け」するべきだと思ってます。

その理由を説明します。

名前を呼ぶことの意味

アメリカの大学で行われた実験のお話です。

学生たちに自己紹介をしてもらった後に、1人ずつ別室へ呼び出し、次の3パターンで会話します。

  1. 名前を呼ぶ
  2. 「名前を忘れちゃったので、もっかい教えてください」と言う
  3. 名前を呼ばない

この会話の後、「クッキー買わない?」と聞いてみると、

①の「名前を呼ばれた」人たちは90%

②の「もっかい教えて」って言われた人たちは60%

③の「名前を呼ばれなかった」人たちは50%

こんな割合で、クッキーを買ったそうです。

 

自分の名前の響き

人間は、自分の名前が会話の中に出てくると、脳が勝手に関心を向けるようにできています。

名前を連呼されているうちに、その相手に対して親近感を覚えるようになるんです。

名前に次いで、コンプレックスに関係していたり、普段意識している内容の言葉にも反応しやすいと言いますね。

体格を気にしている人が「太る」「痩せる」などに敏感になったり、好きなタレントなどの名前が聞こえたり。

 

自分の名前が一番であるのは、名前は生まれてから毎日のように言われ続けてきた言葉の最たるものなので、自分にとって一番心地よい響きであるという説もあります。

逆に、自分の名前が嫌いな人もいるかもしれませんが、それはそれで、自分の名前に敏感にはなりますよね。

①の残りの10%の中には、名前を呼ばれて嫌だった人もいたのかもしれません。

 

肩書にも名前を付けて呼ぶ方がいい

例えば介護施設では、肩書きで「リーダー」とか「施設長」って呼んだりすることがあります。

それよりも、名前とか、肩書きに名前をつけて「佐藤施設長」とかって呼ぶ習慣をつけた方が、その人からの印象が良くなります。

 

アメリカかどっかの国の大統領さんが、自宅近所の方やお手伝いさんなどのこともフランクに名前を呼んで声を掛けてたという話もあります。

実際、かなり支持の厚い大統領だったそうですよ。

 

何気ない挨拶とか、質問する時などでも、名前を付け加えた方が印象が良く、判断を仰ぎたい時なんかはいい返事をもらいやすいそうです。

 

名前を呼ぶことはアイデンティティを認めること

親しい間柄の人からのお願いであれば、その人の要求は断りにくいですよね。

相手の名前を頻繁に呼ぶことで、初対面からでもいち早く友好関係を築き、相手に自分の提案を断りにくくさせる心理テクニックがあります。

ここまでお話しした内容がそのテクニックであり、「社会的報酬」と言います。

 

名前を呼ぶことは、コミュニケーションの場において「あなたの存在を、価値を認めています」=アイデンティティを認めることにつながるんです。

介護の現場で名前を呼ぶ意味

「じいちゃん・ばあちゃん」と呼ぶのはエゴです

親しみをこめて、「じいちゃん・ばあちゃん」という呼び方をする職員がいます。

まあ僕もそうなんで、偉そうに言えないんですけどね(^^;)

まあ事実おじいちゃんおばあちゃんですし、道端で出会ったお年寄りと話すことになったら、「おじいさん・おばあさん」とか呼ぶこともあるかもですね。

気にしないお年寄りは結構います。

 

ただ、職員が勘違いしてはいけないのがここです。

あくまで「その人は気にしてない」だけ!

多分僕も将来気にしないおじいちゃんになるとは思うんですけど、あくまで気にしないってだけで、それでその職員に親近感を感じることはないでしょうね。

 

つまり、親近感を持ってもらうために「じいちゃん・ばあちゃん」って呼ぶことは、その職員さんのエゴでしかないんです。

 

もちろん、「お前に言われたくねーし」って方もいますよね。

そういう人は対話中の空気で、そう呼んじゃだめな人だってのはなんとなくわかると思いますので、誰もそう呼ばないもんです。

 

「あだ名」で呼ぶのは論外

プライベートで他人のお年寄りをおじいさん・おばあさんと呼ぶのがギリセーフゾーンではありますが、そんな場でも「あだ名」で呼ぶことはまずありません。

介護職員であればもっての外です。

僕は年下や後輩にタメ口されてもなんとも思わないタイプですが、よく知らん人にあだ名で呼ばれたら、さすがに

コンペイ
なにこいつ・・・

ってなります。

介護職員にも社会のマナーは必要です。

あだ名で呼ぶのは論外なので、ぜひ止めてくださいね。

 

実の所、下の名前で呼ぶことも、場合によってはアウトになる可能性があります。

ありふれた名字だったり、ユニット内に同じ名字の利用者さんが数名いらっしゃることはよくありますよね。

ある利用者さんに家族さんが数名面会に来られてた時、僕が別の利用者さんに下の名前(さん付け)で声をかけたら、あちらの家族さんが、

「え、下の名前で呼ぶんだ?」

と、こそこそ話していらっしゃいました。

僕の考えすぎかもしれませんが、何気なく下の名前で呼んだことが、その方々には意外なものだったようです。

 

名前はマナーと誠意を持って

人の名前を呼ぶことは、親密なコミュニケーションを図る上で大変重要です。

ですが、その前にマナーと誠意をないがしろにしては、かえって親密な関係を壊す可能性があります。

これもまたありがちなことですが、利用者さん本人にはフランクな声がけをしておいて、面会に来られた家族さんには敬語・名字にさん付けするという不可思議。
さん通り越して様付けすることもありますね。

 

マナーと誠意はあなた自身、ひいてはその施設の品位に関わりますので、普段から意識してみてくださいね。

 

使い分けも時には大事ですけどね