介護現場で起こる窒息を防ぐ!原因と対処法を徹底解説【摂食嚥下障害】

介護の仕事をしていく上で、摂食嚥下障害を抱える利用者さんとは、必ずどこかで関わると思います。

摂食嚥下障害を引き起こす原因は、主に次の4つの合併症です。

  1. 誤嚥性肺炎
  2. 低栄養
  3. 脱水
  4. 窒息

正確には、これらの対応を間違えると、摂食嚥下障害を引き起こす・悪化させることになるんです。

 

この記事では、食事においては命に直結する可能性がある、窒息についてお話しします。

 

窒息とは

呼吸が阻害されることによって血中酸素濃度が低下し、二酸化炭素濃度が上昇して、脳などの内臓組織に機能障害を起こした状態をいいます。

成人の窒息は、餅など、食べものをのどに詰まらせることが最も多く、飲み込む力が弱くなったお年寄りに高率です。また、飲み込む力が十分に発達していない乳児は、ピーナツや飴などを詰まらせることがあります。よちよち歩きの乳幼児は、おもちゃや硬貨など何でも口に入れてしまい、のどに詰まらせることがあります。

窒息の最初の症状はせきこむことですが、完全にのどに物が詰まると声が出なくなります。のどのあたりを両手でかきむしるような動作をすることもあります。いびきのような音を出し、徐々に呼吸が弱くなることもあります。顔が真っ青になったり、けいれんを起こしたり、意識がなくなることもあります。

©日本気管食道科学会ホームページより引用

 

窒息=「のどに食べ物などが詰まってしまうこと」と答えがちですけど、正確かつざっくり言うと、「のどに詰まったことによって呼吸ができなくなり、全身の酸素が足りなくなる状態」です。

酸素を取り込めなくなった瞬間、急性的に酸素不足が進むので、短時間で命に関わる危険性があります。

普通、「息を止めてください」と指示されたら、いっぱいに息を吸ってから止めますよね?
食べ物が詰まる場合、予期せぬ事態なので、息をほとんど吸わない状態から呼吸できなくなる場合があります。

いっぱいに吸えば2分息を止められる人でも、息を吐き切ってから止めたら、数十秒もつかどうかです。

さらに、詰まったことによる動揺から、心臓の鼓動が速くなります。
心臓が速く動くってことは、それだけ酸素の巡りも早くなる、つまり消費が早くなるということなので、感じる息苦しさは比じゃありません。

 

窒息の症状

順序的には↓のようになります。

  1. 顔を真っ赤にして咳込む
  2. 顔色が悪くなる(チアノーゼ)
  3. 呼吸が苦しそうになる
  4. 痰がらみの咳
  5. 声が出ない
  6. 咽頭部の違和感を訴える(チョークサイン)
  7. 意識消失
  8. 呼吸停止

口唇にチアノーゼが出てる場合は、窒息ではなかったとしても、誤嚥している可能性はありますので、注意しましょう。

チョークサインとは世界共通で、のどに何かが詰まって苦しくなると、無意識に自分の首を抑える状態です。

窒息を起こすと、肩が上下するような努力呼吸になって、血圧と心拍数が急上昇
次第に呼吸数が減っていって、やがて呼吸停止に至ります。

呼吸停止に至ると、すぐに異物を取り出して人工呼吸を行わないと、5分前後で心停止におちいります。

 

窒息の原因

摂食嚥下機能が低下している方においては、↓のことが原因として挙げられます。

  • 摂食嚥下機能に対して不適切な食形態・食品を提供している
  • 摂食嚥下機能に合わない摂食用具・動作・姿勢
  • 不適切な食事介助のペース
  • 不適切な内服
  • 口腔機能が不良(歯・義歯の状態など)

不適切な食形態・食品とは、嚥下が弱いのに付着性が高い(ベタベタする)お粥だとか、一口量が大きすぎるなどです。
摂食用具(スプーン)のヘッドが大きいと、一口量も多くなるので不向きであると言えます。

食事介助(あるいは自力摂取においても)、ペースが速すぎると、一口目の食べ物を飲み込む前に二口目を口に入れることになり、結果的に一口量としてキャパオーバーしたり、嚥下動作を行わないままのどに食べ物が入り込む可能性があって、誤嚥や窒息の原因になります。
ペースが遅いと、認知症状によっては、食事中であることを忘れてしまって、食事への集中力が途切れてしまいます。
食事への集中は、安全な嚥下動作を行うに欠かせない要素です。

お気づきかもしれませんが、↑に挙げた原因は全て、介護者の対応によってリスクを減らすことができるものと言えます。

『食べ物』
 ロールパン、もち、だんご、海苔巻き、寿司、バナナ、リンゴ、バームクーヘン、ごはん、ミキサー粥、水分の少ない刻み食

『異物』
義歯(外れやすい・部分義歯)、ティッシュ、薬の袋

『痰』
口内の乾燥、汚染や口から食べてない人に出やすい痰が気道に付着する

『薬』
錠剤、カプセル、混合薬

窒息時の対処方法

窒息状態にある人を見つけたら、とにもかくにも、まずは落ち着きましょう

冷静に何をするべきか判断しないと、救える命も救えません。

そして、一人で対処しようとしないで、大声や内線などで応援を呼びましょう

その上で行うべき対処方法を解説しますね。

口から異物を掻き出す

口に指を突っ込んで、口内に残った食べ物や異物を掻き出します
窒息の原因物まで掻き出そうとしないでください。
余計奥に押し込んでしまうかもしれないので。

口に指を入れられると、反射的に口を閉じようとする場合があります。
噛まれないように注意しましょう。
危ない時は、介護用品の指ガードか、それに近い大きさのものを噛ませてから指を入れるといいです。

こういうことに即対処できるよう、グローブは各所に置いておくといいですね。

背部叩打(はいぶこうだ)法

前かがみにさせて、背中を叩いて吐き出させる方法を、背部叩打法と言います。

手のひらは「パー」の形ではなく、おわん状にしましょう。
叩く衝撃はそのままに、皮膚への痛みは軽減できます

ベッド上の場合は、うつぶせにして頭をベッド脇に出し、頭が体より低くなるような体制にします。

僕も実際やったことがあるんですが、自分が片膝立ちして、立てた太ももの上に相手のお腹が乗るような姿勢にして背中を叩く方法があります。
背面叩打法変法と言うとか言わないとか。
古武術の技みたいな名前でかっこいいですが、憧れちゃだめですよっ(*’ω’*)

 

僕が実際体験したケースで、その人が履いていたおむつのポリマーを引きちぎり、食べて喉に詰まらせた方がいます。
その時車いす座ってて、円背だったので普通にやったら効果薄そうだと思って(確証はありませんが)、とっさに変法で対処し事なきを得ました。

この時は、ポリマーが尿で膨らんだ状態で食べてしまったことで窒息に至り、対処も早く出来たので大丈夫でしたが、膨らんでない状態で食べてたら、気づかず時間が経ってから胃でパンパンになってたかもしれません。

ハイムリッヒ法

ハイムリッヒ法とは、お腹に圧をかけて横隔膜を押し上げて、気道を塞いでいるものを除去する方法です。
水鉄砲で水が飛び出るのと似た原理ですね。

腹部突き上げ法とも言います。

  1. 相手を後ろから抱えます
  2. 相手のお腹のやや上(みぞおち)で手を拳にしてスタンバイ
  3. 腕に力を入れて、みぞおちを手前上方に素早く突き上げる

お年寄りの場合、骨が弱いので肋骨やっちゃいがちですが、命には代えられませんので、背部叩打法でダメならやりましょう。

吸引

ここまでやって異物を除去できない場合とか、先ほどお話ししたポリマーのように、異物の残りがあってうまく取れない場合は、太めのチューブを使って吸引します。

やるのはやはり看護師が望ましいですが、施設などの場合は夜中で看護師が常駐していなくて急を要する場合、喀痰吸引できる介護職員が対応しましょう。

 

昔は、餅をのどに詰まらせたら掃除機で吸い取れって言いました。

これはかえって危険です。

吸引力が強すぎて、口腔内の粘膜などを傷つける可能性があります。

観察

対処を行い、ひとまず呼吸や意識が戻ったら、パルスオキシメーターで酸素濃度を確認しながら、異物の残りや発生した痰を吸引して、状態を観察しましょう。

もちろん、主治医への報告は必須です。

 

窒息の予防策

摂食嚥下機能が低下している場合に起こる窒息は、その状態に留意した対策をとることでリスクヘッジすることができます

【観察事項】

  • 口に食べ物を大量に詰め込んでいる
  • 咀嚼の回数が少ない・噛む力が不十分
  • 歯がない・義歯装着不良
  • 口頭での指示が通りにくい
  • 食事形態が合ってない

 

【観察事項に応じた対策】

  • ティースプーンやKスプーンなど、ヘッドの小さいスプーンを使用
  • 小分け用の皿を用意し、少量ずつ盛る
  • 窒息しやすい食べ物を出さない(上記参照)
  • 歯の治療・義歯調整
  • 咳嗽(がいそう=うがい)訓練
  • 空腹感を減らす工夫

自力摂取の際の動作指示も重要です。
かっこむような食べ方をしないよう、手を添えて一口一口を一定の落ち着いたペースで食べてもらえるように手伝いましょう

 

Kスプーンは、摂食嚥下機能が低下している方への介助に適したスプーンです。

柄が長いことで、介助だけでなく、自力摂取してもらうのに腕をしっかり動かせないなどの方にも、適切な姿勢を確保しやすいのでおすすめです。

摂食嚥下機能がやや高く、一口の量を増やせた方は、ヘッドが大きめのKプラススプーンを使いましょう。

 

最後に

窒息の発生率は、誤嚥性肺炎と比べても大分少ないです。

しかし、何度も話したように、誤嚥性肺炎以上に命に直結しやすい事故なので、その予防・発生時の対応について熟知しておく必要があります。

命というとプレッシャーに感じるかもしれませんが、対応が頭に入っているのといないとでは、いざという時の冷静さに大きく影響します。

イメージトレーニングだけでも全然違いますので、この記事を参考にしてもらえたら嬉しいです。