認知症に特効薬はない。
認知症の家族の介護をしている人、介護の仕事をしている人には、もはや言われるまでもない常識です。
現在処方されている認知症薬のイメージは、認知症の進行を遅らせるにとどまっていると思います。
でも、病院にまで行った本人・家族からすれば、「薬を飲めば治る」という期待を持つのが当然ですよね。
介護職員にしても、「夜間せん妄がひどくて仕事にならない!」などの状況で、薬に頼りたくなることはよくあります。
この記事では、認知症薬に期待できる効果はあるのか、本当に効果的な治療とは何なのかについてお話しします。
SNSでの出来事
あるケアマネさんが、SNSでこんな相談を挙げていました。
悩んだんですが、「変わらないかもしれません」と答えました。
みなさんはどうお考えですか?
これに対しては、かなり否定意見が飛び交いました。
(否定と言っても、炎上って程ではなかったようですが)
否定派の意見としては、
- 選択肢が広がるから、まずは診断を受けさせるべき
- 薬をもらって状況が良くなる人だっている
- ケアマネの独断でそんなことを言うべきではない
- 入所するのに認知症の診断が必要な施設もある
といったところです。
ちなみに肯定派の意見は、「難しいですよねー」くらいな感じです。
一見、このケアマネさんが間違っているような気がしてきますが、いかがでしょうか?
否定派を否定するわけでもありませんが、よくよく見ると、このケアマネさんの地域では、精神科受診によって状況が改善したケースをほとんど見たことがないようでした。
見分が狭いと言われればそれまでですが、この辺に関しては僕は共感です。
受診したことで得る選択肢とは?
リスパダールなどの抗精神病薬によって大人しくなった方はたくさん見てきましたが、認知症状が改善したケースを僕は見たことがありません。
(病状が一過性だった方を除きますが)
選択肢が広がること自体は否定しませんが、SNSの件でそうコメントした方々の言う選択肢とは、一体何を指すのでしょう?
認知症薬か抗精神病薬、好きな方を選べる?
そもそも薬をもらうか選べる?
精神科のデイケアに行くか、認知症対応型デイサービスに行くか選べる?
グループホームなどの施設に入れるか選べる?
確かに、つらい思いをしている家族はこれらの選択肢で解決できることもあります。
そんな家族が望むのであれば、それを支援するのもまた、ケアマネの役割です。
ただね、根本解決にはならないことをホイホイ勧めたくはないと思うんです。
ていうか、これらのうち、本人がどれを望んでるって?って話ですよ。
なにも利用者ファーストしてくださいって言う気はさらさらないんですけど、「選択肢を選べる」なんてお題目を並べようってんなら、利用者のことも考えてくださいよって話ですよ。
もちろん本人の希望だっていうなら、なんら問題ありませんけどね。
安易に認知症薬を求めるリスク
薬に焦点を当てて考えてみます。
認知症薬の効果対象
意外と知られていないことですが、現在処方される認知症薬で、効果があるとされているのはアルツハイマー型認知症(一部レビー小体型認知症も)だけです。
当然、MRI等の頭部画像検査や血液検査といったちゃんとした検査によって、他の認知症の可能性を排除した上で処方されなければなりません。
認知症の総患者数において、アルツハイマー型認知症は最も多い60%以上です。
残りの約40%が別の認知症ということになりますが、そちらへの薬の効果はほとんどないということになります。
かつ、認知症の原因疾患は全部で70以上あると言われています。
例えば、甲状腺機能低下によっても認知症状が発症します。
これは、採血によって甲状腺の機能を評価し、低下が確認されれば、それを内服で補うことで認知症状も軽快すると言われています。
しかし、認知症薬を処方されている人の中で、甲状腺機能の評価を受けていた人はわずか33%でした。
つまり、残りの約70%の人も甲状腺機能低下が原因だった可能性があるということです。
十分な認知症診断を受けないまま認知症薬を処方されているという現実が見受けられました。
認知症の進行を抑制・・・しない?
日本の認知症薬それぞれの添付文書には、確かに「認知症症状の進行抑制」と書いてあります。
一方で、「認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」とも書いてあるんです。
どういうことでしょうね?
成績というのは、治験の結果のことです。
認知症薬の薬を処方する際、内服の効果を縦軸(改善効果)と横軸(内服期間)で表すグラフを見せて説明することがあります。
(「認知症薬 効果 グラフ」と検索すれば画像がいっぱいヒットしますので、そちらを参照してください)
そのグラフを見ると、「効果あるじゃん!」って感じが確かにするんですが、これはちょっとしたからくりがあります。
まず縦軸の改善効果について、内服するのとしないのでは大きく差があるように見えるのですが、実際には70点満点のテストで3点程度の改善効果らしいです。
詐欺じゃねえか。
横軸に内服期間についても、治験の評価機関はたったの半年です。
詐欺じゃねえか。
内服し始めて間もないうちは、目に見えて改善効果を実感し、もしかすると進行が遅くなったように見えるかもしれません。
しかし、それはぬか喜びでしかないのかもしれないんですよ。
というわけで、認知症薬の処方には事前の徹底した検査と、内服開始後の定期的な評価が必要になるわけです。
効果がないとわかっていても何となく内服を続けたらダメってことは、それぞれの添付文書に明記してあります。
フランスではついに、「効果ないよ」と断言して、認知症薬を保険適用が除外したそうです。
甲状腺機能の例を見るように、認知症っていまだに誤診が多かったりするので、受診する側にもそれなりに覚悟が必要だというのが現状です。
効果と副作用の相互関係が謎
認知症薬の副作用はなかなかに多いです。
消化器症状、不整脈、めまい、転倒などありますが、中には不安焦燥の悪化(不穏)、徘徊などと書かれていることもあります。
意味なくないすか?
記憶障害をなんとかしようとして不穏になるとか、別の問題に置き換わっただけじゃないですか。
もちろん副作用が必ず出るとは限りませんが、記憶障害だって治るわけじゃなくて、あくまで進行抑制しかしてくれないんですよ。
割に合わない。
中には、ひとつの認知症薬によって出た副作用の不安を解消するために、別の認知症薬を内服しているケースもあったそうです。
薬より効果があるもの
認知症の改善を望むなら、多剤投与(認知症薬以外もです)をまずは見直すべきです。
3剤以上服用している人は認知症リスクが高いとも言われます。
3剤以上って、ほとんどの方が処方されているような・・・
となると、もともと処方薬が多い方に、さらに認知症薬を処方するということは、リスクを上げる一方だということになります。
ある医師が認知症状が安定しているケースについて、このようにまとめていました。
- 生活習慣病の経過が良い
- 制限がない限り、15分程度の適度な運動をしている
- 人との交流の機会がある
- 内服は少量適切で落ち着いている
薬に頼らない(非薬物療法)の方が、薬を飲んでいるよりも認知症の悪化が少ないという事実があるそうです。
逆に言うと、薬に頼っている人は、結果的に悪化の一途をたどっているということです。
①~③は薬の処方に限らず、少なくとも介護サービスを利用するなどして行えている方は多いでしょう。
では、それに加えて薬を最低限にまで減らすことが出来れば、少なくとも悪化を助長する要因を減らすことができるということではないでしょうか。
まとめ
認知症薬にすがりたい方は、本当にたくさんいると思います。
これだけ話してきた僕でも、どうしようもないと感じれば受診を、薬を勧めます。
仮に認知症薬を飲んで効果を実感できたとしても、それは半年経たずして減退していくことでしょう。
認知症の根本治療はできないのが現実ではありますが、真なる薬とは減薬にあるということを、介護に携わる僕たちが知っておくべきなんだと思います。