認知症の方の誤嚥を予防!食事介助のポイントと具体的な対策

高齢者の死因のひとつとして見逃せないものの1つが肺炎です。

肺炎は、総人口で見る死因統計で5位にあります。
2012年には、驚いたことに脳血管性疾患を上回って3位につけています。

総人口と言いましたが、この肺炎による死亡者数の9割以上が、65歳以上の高齢者です。
その内7割程が誤嚥性肺炎によるものと言われています。

高齢であることが肺炎のリスクファクターになっていますが、認知症患者ともなると、一層のリスクがつきまとうことを理解してほしいところです。

誤嚥のもっともわかりやすい症状であるむせ込みについて、十分な対策が必要と言えます。

この記事では、自分で食事してても介助してもむせてしまう認知症の方に食べてもらえるように、原因別の対応方法を紹介していきます。

 

原因を見極める際のポイント

むせ込みやすい方のむせる原因となる状態は次の通りです。

  • 食事中の覚醒状態
  • 食事姿勢
  • 喉に痰が絡んでいる(常時or食事中)
  • 食べ物が口腔内に残っている
  • 一口を何回にも分けて飲み込んでいる
  • むせ込みのタイミング(飲み込む前か後か)
  • 体調
  • 食事に時間がかかりすぎる
  • 食事動作が中断する・注意が向かない

こういう状況を意識して、対策をとるようにしていきます。

原因に応じた対応方法

覚醒状態が悪い

覚醒が不十分のまま飲食すると、嚥下反射が起こりにくくなります。
スムーズな嚥下が行われないということですので、誤嚥のリスクが高まるわけです。

嚥下反射とは、食べ物や飲み物が咽頭を通り過ぎる際に、反射的に咽頭蓋谷(いんとうがいや)が気道を塞ぎ、食道に流れるようにする動きです。

特に、眠気が勝って「食べる」ということを認識できないでいると、食べ物や水分を口腔内にとどめておけず、嚥下反射が起こる前に不意に咽頭に流れこむことがあります。

嚥下反射が起きないということは、気道が塞がれないということなので、誤嚥のリスクが高くなるということです。

事時間ギリギリの離床を避け、食事前に手を洗ったり、きちんと食卓に座るという、僕らにすればごく当たり前の行為を行うことで、「目を覚まして食事をしよう!」という心身の準備を行っているんです。

ベッド上での食事だとしても、手や顔を拭く、声をかけて食事であることを伝えることって、実はすごく大事なことです。
これらの介助を「人としての生活には当たり前のことなんだから」と指導している方、されている方は、まあ間違ってはいないんですが、それは根拠ではないので訂正してくださいね。

また、口腔ケアを食前に行うことも大事です。
僕等にとっても、「食べたら歯磨き」というのは必ずしも正しいわけではありません。
最近テレビで歯科医師が言ってました。

口腔内の乾燥を改善し、肺炎の原因となるばい菌を除去、義歯を正しく装着することで、覚醒を促すだけでなく、誤嚥性肺炎の原因を根こそぎ払ってしまえるというわけです。

水分を口腔内にためておけない

覚醒状態によっても当てはまりますが、舌の運動が不十分の場合、一度口腔内に水分をためてから飲み込むことができず、嚥下反射が起こる前に咽頭に流れ込み、むせ込む原因になります。

こんな時は、介助の際に水分を口腔前庭に流し込んでみてください。

口腔前庭の左右から流し込みます

口腔前庭から入れると、不意に咽頭に流れることはなく、意識的に舌上、咽頭へ送り込む動作をする必要が出てくるので、むせにつながりにくいという利点があります。

もし送り込みがうまくできなくても、口腔前庭にあれば口外に流れ出るので、少なくとも誤嚥のリスクは大分軽減しますね。

特にベッド上で水分を飲んでもらうのはかなり危険ですので、基本的に口腔前庭に入れるようにした方が良いです。

食事形態としては、

  1. 口腔内に入れて認識しやすいこと
  2. 飲み込みやすいこと
  3. 余分な水分を含まないこと

これらに注意してください。

①の工夫のひとつとして、使うスプーンを、冷やして使います。
冷感は覚醒にも良い刺激になりますよ。
お膳の近くに、フィンガーボウルのごとく氷水を置いておき、一口ごとにスプーンをつけるようにしましょう。

②の例としては、離水しにくい性状のゼリーなどを厚さ3~4mm程度のスライス状にして食べてもらうことです。
スライスじゃなく山状にすると、大きすぎて飲み込めない可能性がありますし、転がって誤嚥する可能性もあります。
スプーンもTスプーン程度の大きさが良いかと思います。
これはゼリーに限ったことではなく、ご飯やおかずの一口量を配慮しなければならないということなので、注意してください。

離水とは、ゼリーのゼラチン等が溶けて液体化することです。
気温や放置時間により離水しやすさが変わりますので、配慮が必要です。
近年では離水しにくい性質のゼリーが主流になってきましたので、確認しておきましょう。ついでですが、食事介助していて、お粥がどんどんシャバシャバになるってことはありませんか?
以前は、お粥の味付けや、スプーンについたおかずの塩分のせいだって思われていましたが、これは間違いです。
これは、食べている間にスプーンに継いだ唾液に含まれるアミラーゼという成分が、お粥に含まれるデンプンを分解することで水っぽくなる、というのが正解。
なので、①で先述した「一口ごとにスプーンを氷水につける」という工夫は、冷やす以外にもスプーンの唾液を洗い落すという2重のメリットがあるんです。

③については、②で話した通り、離水しにくい工夫をすることが重要です。
また、細かいところではありますが、スプーンを氷水につけた時に、スプーンにその水分が残っています。
それをそのまま口に持っていくと、そのわずかな水分が余分になって誤嚥につながる可能性もあるので、氷水にスプーンをつけたら、水気を切るようにしましょう。

①~③によって、口腔内の留まりやすく、安全に飲み込める可能性がグンと上がります。

咽頭へ送り込む力が不足している

声がけ

食事への意識が散漫している場合、「よし飲み込もう」という力が働きにくい場合があります。
よく噛んでしっかり飲み込むという意識を削がれないような環境作りは、目に見えにくい大きな効果を生みます。
介助している時に「噛んでね」「飲み込んでね」という風な声掛けをしたことがある介護士さんはたくさんいらっしゃると思いますが、それ、めちゃくちゃナイスです。

ただし、本人のペースを崩すように急かすのはやめましょうね。

姿勢

もうひとつ重要なのが、姿勢です。
姿勢が悪い、円背があるために顎が上がっている状態(頸部伸展位または後屈位)の場合、食道の入り口が狭まり、逆に気道の入り口が広がります。
救命救急の気道確保のイメージです。
「食事介助するときは立ったままじゃなく座って」と教わった人は多いと思いますが、これは介助者の顔を方を向いて顎を上げてしまわないようにするためでもあります。

食事時の適切な顎の角度は、顎と鎖骨の間に指が4本入る程度の角度(頸部前屈位)です。
頸部伸展位の逆で、気道の入り口が狭まり食道の入り口が広がります。

また、リクライニングが必要な利用者さんの場合は、状態に合わせた適切な角度があるので確認しましょう。

  • 自力摂取が可能な方:45~60度
  • 自力摂取できない方:30~45度

リクライニングがどの角度でも、頸部前屈位は徹底してください。
クッションなどを活用しながら、苦痛の無いよう圧を分散させたり、全身に程よい緊張が伝わるように足底をつかせる工夫も重要です。

食事形態

先述したスプーンを冷やすことや、スライス状のゼリーを噛まずに飲み込むことは良い訓練になります。
この形状で咀嚼すると、逆に口の中でバラバラになって、小さい粒を誤嚥することもあるので注意です。

また、あんかけなどは咀嚼による食塊形成を容易にするため、送り込みがスムーズになります。

嚥下反射が起きにくい

嚥下反射に何らかの障害がある場合、本人が意識してもなかなか飲み込めないとか、嚥下反射が起こった時にタイミングよく食道の入り口が開かず、むせ込んでしまうことがあります。

この場合は、嚥下反射のタイミングをうまく調整するという意味で、トロミ剤を使用しましょう。

しかし、目分量でトロミ剤を混ぜた時にやりがちな、「気づいたらもったりしてた」状態になると、ベタつきが酷くて、口腔内や咽頭にくっつきやすく、誤嚥や窒息の原因になります。

トロミ剤はいろんな種類があり、それぞれ分量とトロミがつくまでの時間が違うので、あなたの施設で使っている種類の特性を把握するために、自分で試飲するようにしてください。

種類があるので確実ではありませんが、目安としては「水100ml」に対し「トロミ剤1.5g以上」入れると、「気づいたらもったりしてた」状態になっちゃいます。
1.5gは、およそ大さじ一杯くらいです。

医師・看護師が行う水飲みテストなどで、本人に適した分量が見えてきますので、多職種連携していきましょう。

加齢や低栄養などによる筋力低下

加齢とともに、身体機能は低下していきます。
それは腕力や脚力に限らず、咳嗽力(正常な反応としてのむせなど、咳込む力のこと)や呼吸機能、嚥下機能なども低下してきます。

咳嗽力が低下すると、喀痰を吐き出すことも困難になり、食べにくくなることはもちろん、痰が固まって、痰による誤嚥や窒息も起こり得ます。
食べ物でむせ込んだ場合でも、それを咳で喀出できないため、誤嚥のリスクが一層高まるわけです。

対策ですが、少なくとも加齢を防ぐ術はありません。
ですが加齢による影響を極力抑えることはできます。

低栄養状態を避ける

まず低栄養にしないことが大切です。
筋力は栄養がないと減少する一方ですからね。

食欲がない時は食事の時間をずらしたり、1日2食にして間食を工夫するなどの方法があります。
施設入所者の場合は配膳の回数や時間は決められているので、個別に時間を合わせることはなかなかできないのが歯がゆいところですが、ここはトライ&エラーでいろんな方法を試していきたいですね。

寝食分離

寝食分離とは、寝る場所(ベッド)と食事する場所を分けましょうという考え方です。
「ご飯は食卓で」ってことですね。

「普通の生活では、ベッドでご飯は食べません」という教えは無視してください。
それはその人の「普通」なので。

なぜ寝食分離をしなければいけないのか。
それは、「座位をとる」ということが、高齢者にとって程よい筋トレと適切な環境設定になっているからです。

横になって寝る状態とは、重力に抗わず、全身を休息させるための姿勢です。
なので、全身の筋肉をほとんど使っていないと言えます。
肺も潰れた状態になるので、呼吸もやや浅くなります。

対して座位は、重力に抵抗し、体幹の筋力を活用することで保たれる姿勢です。
子どもの頃に習うお行儀のよい食事姿勢は、背筋を伸ばし、肘をつかない状態ですよね。
僕等はもうそれを普通に行ってるのでわかりにくいですが、その姿勢保持にはそこそこの筋力を使っているんです。
背もたれに寄りかかった状態でも、重力に抵抗することで筋肉に負荷がかかっています。
リクライニング45度程度でも、それをやる意味は大いにあります。

高齢でベッドで過ごすことが多い方に腹筋だのスクワットだのやらせるのは難しいかもしれませんが、無理ない範囲で離床を勧めていくことは重要なことです。

まとめ

今回は、むせてしまう方への対応方法を紹介しました。

むせ込みなく食べるにこしたことはありません。
ですが、むせ込みが全て悪い物であるという考えは改めてください。

咳嗽力について先述しましたが、むせ込むという反応は、誤嚥しかかっている異物(食べ物・水分)が肺に入ってしまわないように追い出そうとする、正常な防衛反応なんです。

むせ込みなく食べているということは、「安全に食べれている」か、「むせてないのに誤嚥している(不顕性誤嚥)」のどちらかである可能性があるんです。
後者の方が少ないことは確かですが。

そこは日ごろの体調観察によって判明することがあります。
適切な食事提供を心掛け、「むせ込みがない=安全に食べれている」という状況を作れるよう頑張ってください!