認知症の方の中には、食べるペースが異様に早い場合があります。
特に前頭側頭型認知症の方(脱抑制の症状)に多いです。
自分で食べてくれるのはいいのですが、ペースが速すぎると嚥下が間に合わず、窒息に至る可能性があります。
この記事では、食べ物をどんどん口に詰め込んで窒息の危険がある認知症の方の対応方法についてお話します。
原因を見極める際のポイント
もともと早食いの人でも、あるいは前頭側頭型認知症のように脱抑制の症状が強い場合でも、窒息や誤嚥のリスクを見極めることが重要です。
その方に「何を施せば詰め込まなくなるか」を考えるのも大事ですが、詰め込みがあっても安全に食事ができるかどうかの評価も大事です。
前頭側頭型認知症の場合、自力での食事摂取自体には問題がないのですが、初期症状のひとつには、固形食の嚥下に対する口腔期の問題があります。
後期になると嚥下全般が困難になるので、症状の進行度によっては誤嚥のリスクが高まります。
原因に応じた対応
脱抑制のためにペースを制御できない
口いっぱいに詰め込んでしまう原因のひとつに、実行機能障害によって行動をコントロールできない(脱抑制)ために、食べるペースを制御できないことが考えられます。
あるいは、もともと食べるのが速い(一口量が多い、咀嚼が不十分)という生活習慣がある場合でも、詰め込むようなペースで食べることがあります。
認知症の場合、重度になると自力でご飯が食べれない・・・ってイメージはお持ちですか?
正しいと言えば正しいのですが、全ての認知症がそうであるとは限りません。
前頭側頭型認知症の場合だと、進行しても食事は自分で食べられることがほとんどです。
ただ、脱抑制の症状により、過ったことをして周囲の人から指摘されても、悪気もなく配慮や礼節に欠け、場合によっては暴力行為に出ることもあります。
また、前頭側頭型認知症の症状には他に、被影響性の亢進というものがあります。
そのため、相手の言ったことをそのままオウム返しする、相手の行動を真似する、外的刺激に流されやすい傾向がありますので、介助者がどれだけ声掛けしても無駄に終わる場合がありますので、介助者にとってはストレスですよね。
ですが、せっかく自力摂取動作はできるので、それを活かさない手はありません。
具体的には、ペースが速くても詰め込みすぎにならないように、次の手段をとります。
- スプーンや箸を変更する
- 一皿ずつ配膳する
- 食器を小ぶりのものにする
- 水分を含んだ嚥下しやすい食形態
(豆腐、茶わん蒸し、ポタージュスープ、葛湯、とろろ汁、おじや等)
手づかみで食べるような方であれば、それを無理に矯正するのではなく、そのままでもおいしく楽しく食事ができるように工夫します。
サンドイッチやおにぎりなどですね。
ただその場合、嚥下はどうか、詰め込みすぎていないかなどの注意は一層必要です。
ペースが速すぎる場合は、声掛けなどで注意を促すよりも、口に入れる前に相手の手に優しく手を置いて、動作を抑えてあげるのも効果的です。
また、食行動障害があると、大食い、甘いもの・味の濃いものを好むようになるので、肥満や糖尿病などの合併症や、むせ・窒息に注意していきましょう。
その他の要因
実行機能障害以外にも、早食い、食物選択の変化(いつも同じものを食べる)、反社会的な食行動(盗食など)もあります。
認知症の場合、これまでの生活習慣と違った一口量やペースにしてしまうと、本人に紺rンを招く可能性もあります。
まずは、本人の一口量やペースによって誤嚥や窒息を起こさないかどうかを評価します。
その評価項目について解説していきます。
窒息の既往
過去にどのような状況で窒息したか、その時どのような対応をしたのかの情報を把握しておきます。
嚥下機能低下がない方に対しては、機能低下がある方と比べて、食形態や一口量の調整、配膳の工夫、見守り等の対応をあまりしませんよね。
逆にそれが原因で窒息に至る場合があります。
嚥下機能低下がある方で窒息の既往があるとしたら、形のないペースト状の流動食が大量に誤嚥した可能性があります。
むせの有無
むせがある場合は、その原因を探ります。
何を食べてむせたのか。
咳があるなら、弱いか、しっかり咳き込めているか。
原因が特定できるなら、それを改善すれば窒息のリスクはまるっと除去できますね。
むせがない場合は、不顕性誤嚥を起こしている可能性があります。
発熱や痰の増加、失禁、意識低下、あるいはなんとなく元気がなくなった程度のサインでも、肺炎の徴候ですので見逃さないようにしましょう。
肺炎の既往
肺炎を起こした頻度や、いつ罹患したのかを確認します。
肺炎の既往があるなら、それが原因で嚥下機能が低下している可能性があります。
身体所見
嚥下に関わる身体機能を把握します。
観察のポイントは次の通りです。
- 頸部
左右に傾いていないか。
極端な前屈・後屈がないか。
頸部の筋肉に緊張がないか、それは姿勢の改善で解消するか。
唾液を嚥下してもらった際に、喉頭(のど仏)が挙上するか。 - 口唇や頬
口唇や頬は、食べ物を取り込んで食塊を形成する役割を持っています。
認知症によってコミュニケーションをとれなくなってくると、口腔周辺の機能が使われなくなることで、廃用症候群と同様の筋委縮が起こります。
口唇閉鎖ができるか、口腔周辺の筋緊張がないかを確認しましょう。 - 口腔内
口腔内の衛生状態、乾燥、舌の委縮・運動障害、歯や義歯のかみ合わせを観察します。 - 呼吸
誤嚥したとしても、呼吸機能が良好で咳によって誤嚥したものを喀出できれば誤嚥性肺炎の可能性が激減します。
嚥下と呼吸は密接に関連しています。
肩で息をするような努力呼吸がないか、呼吸数やリズム、深さ、胸郭の上下、深呼吸できるか、介助者からの指示によって咳き込めるかどうかを確認しましょう。
先述の通り、前頭側頭型認知症の方は、指示されてもオウム返しする場合があるので、そんな方には言葉より、咳き込む動作をして見せる方が効果的かもしれません。
まとめ
食事のペースが速いこと自体は若く健康な人でも普通にあることですが、健康な人でも窒息することは、なくはないですよね。
そのリスクが、加齢、疾病、種々の機能低下などにより各段に増えてしまいます。
その原因を明確にできれば改善は可能ですので、ぜひこの知識を活用してみてください。