食事介助しても口を開けてくれない認知症の方の対応方法

介護の現場で最も大変なことのひとつに、食事があります。

認知症の方の場合、なかなか食事が進まないことってありませんか?

この記事では、食事介助しても口をあけてくれない認知症の方に食べてもらえるように、原因別の対応方法を紹介していきます。

 

口を開けてくれない原因を見極めるポイント

  • 目を閉じていることが多く、覚醒レベルが低い
  • 声をかけても目を開けない、返答がない
  • 吸引や口腔ケアの介助が必要な状態
  • 顔や口唇に触れると、口をギュッと閉じる、または表情が険しくなる
  • 義歯が入っていない、合わない
  • 口腔内が乾燥していたり、舌苔や喀痰、血液が付着しているなど、汚れがひどい
  • 食事動作を誘導しても、緊張が強く、動作が止まる
  • 食事動作を介助しようとすると、嫌がったり、反応がない

これらの状況から、5つの原因が考えられます。

  1. 目が覚めていない、食事を認識していない
  2. 口腔内が不快な状態であるため、食べようとしない
  3. 口腔・口唇への刺激に過度に緊張する
  4. 普段の食事環境と違う、食べるペースが合わない
  5. 食べたいものがない

これらひとつでも原因としてあると、なかなか口を開けてくれないようになります。

以下に紹介する対応方法を試してもらえれば、スムーズな食事摂取が可能になると思いますので、参考にしてみてください。

原因別 対応方法

先ほどあげた5つの原因、それぞれの対応方法を解説していきます。

①目が覚めていない、食事を認識していない

たいていの場合、食事をする時は

  • 手を洗う
  • 食卓へ移動する
  • 「いただきます」と言う
  • 水や味噌汁などを飲んで口を潤わせる

という一連の習慣があると思います。
この習慣は、食事をするために心身の準備をしている状態です。

認知症の方にとっても、この習慣をなぞることは重要です。
目を覚まして、「これから食事だぞ」ということを認識することにつながります。

ベッド上で介助が必要な方でも、声掛けやベッドアップ、おしぼりで手を拭くなどの行為が刺激となり、心身が食べる準備を始めるわけです。

その上で、食事前に口唇を優しく潤して口腔ケアを行うことで、口腔機能が活性化します
その際は、口腔内は潤す程度で十分なので、利用者さんが不快に思うまでやらないようにしましょう。
水やお茶ゼリーなどを一口摂取してもらうのも良いですね。

また、食事前に少し会話をすることで覚醒を促すこともできます。
世間話ひとつとっても重要な意味があるので、積極的に話をしてほしいと思います。
特に、家族との(オンライン)面会の時間と食事の時間を合わせるのもひとつの手です。

朝ごはんの食べが悪く、昼・夕ごはんの食べがいい人なんかは、ばっちり覚醒状態の問題でしょうね。
食事時間を10~20分遅らせるだけでも食べやすくなることがあるので、試してみてください。

口腔内が不快な状態であるため、食べようとしない

最後の口腔ケアから時間が経っていたり、口腔ケアが不十分で口腔内が汚れていると、どんな食べ物もおいしく食べる事はできません。
特に高齢者は唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾燥しやすい状態にあります。

口腔ケアによる唾液の分泌を促し、口腔内の湿潤させることで清潔を保ちやすい環境になります。
食事前に会話することで、覚醒を促すのはもちろん、発言により唾液も分泌されますので、大変重要です。

安静時唾液:食べたり飲んだりなどの刺激がない時に自然と分泌される唾液
刺激唾液:食事や味覚などの刺激に対して分泌される唾液
また、義歯をつけていない状態での食事や、むやみに入れ歯安定剤を使用して不快なものになっている場合も、食べようとしないことがあります。
義歯を洗浄して、用法・用量を守って入れ歯安定剤を使用し、義歯を安定させましょう。
ちなみに、寝る時は義歯を外すのが普通かなと思います。
しかし、義歯を安定させるには、実は24時間常時装着が基本で、外すのは洗浄の時だけで良いとされています。
寝てる間に外れて誤飲・窒息するのが心配という声もありますが、それは義歯が合っていないためなので、調整しましょう。
(施設入所者や要介護度が重い方などは、すぐ歯茎が痩せるなどして合わなくなるので、状況に応じて対応した方がよさそうですね)

口腔・口唇への刺激に過度に緊張する

例えば僕たちなら、「介助を受ける」と意識すれば、触れられることに対してある程度は警戒を解くと思います。
しかし認知症の方は、触れられるなどの刺激に対してとても敏感です。
不快な刺激に対しては特に緊張が強くなり、口をギュッと閉じてしまいがちになります。

食事介助をする際に、前触れもなく口に食べ物を触れさせるのは不快に感じる可能性があるので気をつけてください。

いきなりたべさせようとするのではなく、以下の手順で進めていきましょう。

  1. 声掛け・会話
  2. 二の腕の肘に近い辺りに、手のひらで優しく触れる
  3. 食事であることを伝え、おしぼりなどで手を拭く(または手を洗う)
  4. 傾きなど姿勢の崩れがあれば整える
  5. 口腔ケアや、水分・お茶ゼリーなどを少量含むなどして口唇・口腔内を湿らせる
  6. 唾液腺のマッサージをする
    (指示が通じるなら嚥下体操などやると良いです)

基本的には、全ての手順で「〇〇しますよ」等の声掛けは忘れないでください。

これらを行うことで、食べ物を口に運んだ時の刺激を緩和できるので、強く緊張せずに済みます。
1日ないし1回のケアでは改善しないこともあるので、毎日根気強くケアしていってください。

普段の食事環境と違う、食べるペースが合わない

誰しも、食事にはそれぞれの習慣があります。
食事動作は幼少期から成長していく中で習得した動作です

よく自転車の乗り方を「体で覚えている」と言ったりしますが、食事動作も同じです。
長年培われた動作によって、自分で食事を摂ってきました。

なので、介助してもらうにも、できるだけ本人の食べる動作を再現することで、食事への認識を強め、自力摂取動作の再獲得にもつながるわけです。

特に認知症の方などは、新しい環境や不慣れなことへの対応が難しくなっている場合が多いので、「介助される」ということ自体に不快感を感じている可能性があります。
なので、自力摂取動作を再現することに意味があるんです。

介助の流れとしては、

  1. 食べ物を見て認識してもらう
  2. 食器を手に取って本人に近づけて持つよう介助する
  3. 箸やスプーンを持ってもらい、その手を介助して食べ物をすくう
  4. 口に運ぶ動作を介助する
  5. 咀嚼しているうちに、次の食べ物をすくってゆっくり口に近づけていく
  6. 近づけていきながら、嚥下するのを確認して次の一口を口に運ぶ

これは一般的な食べる動作の介助ですが、このサイクルの再現が重要です。

嚥下機能が低下している方は飲み込みに時間がかかります。
嚥下を確認しないうちに次の一口を口につけさせたり、「早く食べて!」と声掛けしていると、口を開けないばかりか、本人が焦って嚥下しようとして誤嚥につながる可能性があります。

本人のペースを守って介助するようにしてください。

食べたいものがない

あなたは今、何を食べたいですか?

好きな食べ物はもちろんですが、その時々で食べたいものって変わりますよね。
いつぞやのケンタッキーのCMでこんなフレーズがありました。

あ、今チキンの口になってる

好きな食べ物、美味しいことを知っている食べ物を見たり、想起したりすると、なんだか口がその食べ物を欲する時がありますよね。
まさに、「ケンタッキーのCMみたらフライドチキン食べたくなった」みたいな感じです。

普段から主訴がないような方に「今食べたいもの」を聞き取るのも難しいので、その場合は本人の好きなものを1品用意しておき、それをまず食べてもらうと、他の品も進みやすくなります。
家族の声があるとうまくいくことも多いので、可能であれば協力してもらいましょう。

逆に、いつもの食事の時間でも「今は食べたくない」時もあります。
食事前の環境を整え、義歯も調整し、口腔ケアをしても食べない場合は、もしかするとその時なのかもしれません。
少し時間を置いてから声をかけると、すんなり食べることもあります。

また、食事は「1日3食」が一般常識かと思いますが、1日2食で長年生活してきた人は案外多いです。
世間の常識がその人の常識とは限りませんので、そういうバックグラウンドは把握していた方が良いですよ。

まとめ

とにもかくにも、「ごはんの時間だ」とか「おいしそう、食べたいな」と思わせられれば、食事はスムーズに進みやすくなります。

そのためには、食前の準備、介助手順の確認はとっても重要なので、時々再確認してみてくださいね。