前頭側頭型認知症は、前頭側頭葉変性症により発症する認知症です。
つまり、大脳の前頭葉と側頭葉を中心に萎縮していく疾患の1つとされています。
前頭側頭葉変性症は若年の発症が多く、進行性です。
主な症状としては
- 性格変化
- 社会性の喪失
- 会話が困難
- 注意・判断・実行機能などの能力低下など
一方で、見当識、目的動作、視空間認知、記憶は保たれている場合が多いです。
この他に代表的な症状として、過食や食行動変化の出現が挙げられます。
これについてはアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症によるものより頻度が高いです。
過食は暴食・異食などに発展し、誤嚥・窒息リスクを伴うと言われています。
この記事では、前頭側頭型認知症による食行動障害についての考え方についてお話しします。
対応の要点
前頭側頭型認知症は若年発症であることもあってか、会話が困難になってからも知覚や運動機能、視空間認知機能、記憶が保たれていることが多いと先述しました。
歩行など日常生活行動がある程度可能という事になります。
この点で、アルツハイマー型認知症と大きく違いますね。
ただし、可能とは言いましたが、日常生活行動自体は、常同行動などのように、発症前のものと変化が起こります。
その進行経過において、
- 動的な様相(過食・多動など)
- 静的な様相(無為・無動など)
のバランスが変化していきます。
常同行動は多くのケースで、自発性の低下や無関心の前に見られる症状です。
多くのというか、ほぼ全部ですね。
順を追う症状進行
常同行動はほぼ全部のケースにおいて、無関心などの前に見られます。
食行動変化についても、進行に順番が見られることが多いんです。
- 食欲亢進・嗜好の変化
- 食習慣変化
- 常同的食行動
(特定の食品や料理に固執する)
といった順で見られていきます。
これらが進行するとむせや嚥下障害が見られるようになると言われています。
さらには自発性の低下が進み、無為に過ごす時間が増え、食事いてても嚥下せずいつまでも咀嚼をしたりするようになります。
お昼の食事を夕食まで噛み続けるなどもあるそうです。
これも常同行動の一種です。
さらに進行すると、口腔内の食べ物を咽頭へ送り込むことができなくなったり、嚥下反射が遅れて誤嚥・窒息のリスクを爆上げします。
症状進行の結末
常同行動による食行動変化によって、嗜好の変化、食習慣変化が起こると、体重増加や糖尿病増悪のリスクがあります。
(日本では食文化の関係からか、体重増加はアメリカなどと比べ少ないようです)
目に付くものをどんどん食べてしまう過食。
急いで口に運ぶ詰め込み食べ。
繰り返すようですが、これらは誤嚥・窒息のリスクを爆上げするものです。
ただ、若年者の場合は詰め込み食べはしても嚥下機能が高いケースもあり、自身のリスクはそこまで高くないとも言えます。
社会性の喪失と食行動
前頭側頭型認知症の症状が進行する中で現れるのが、盗食です。
隣の人が食べている最中の食事や残飯、準備中の料理などをヒョイっと食べてしまうことを盗食と言います。
盗食とは言いますが、本人に一切の悪気はありません。
ふと目に付いた食べ物を盗み食いする場合、普通(?)なら次のような思考を辿ります。
- 「あ、食べ物だ」
- 「まだ作ってるところだな・・・」
(または「〇〇さんの分だな」) - 「怒られるかもしれないけど、お腹空いたし、食べちゃおっ!」
これが、社会性の喪失が見られる場合、このようになります。
- 「あ、食べ物だ」
- 「食べよう」
見つけた食べ物が、「他の誰かのものかもしれない」などの思考がすっぽりなくなり、食べ物発見⇒食事開始と至極単純になってしまいます。
ジャイアンの言う「お前の物は俺の物」という思考は、「お前の物」と認識している以上、脳機能的に言うと正常であると言えますね。
さらに進行していくと、調理前の食材や手に届く食べ物以外の物を手あたり次第食べてしまう異食が出現します。
「〇〇さん石鹸たべちゃった!」みたいなアクシデントって結構ありますよね。
異食には2種類あります。
- 食べるつもりで口に入れた異食
- 口に入れていたら結果的に飲み込んじゃった異食
①は、食べ物と勘違いして・・・という解釈で良いです。
②は、そもそも食べ物と認識していないのに、とりあえず口に入れちゃったということです。
乳幼児のそれに近いでしょうかね。
これ、周りのものを整理すれば大丈夫というケースが多いんですけど、たまに折れた歯を飲み込むケースもあります。
部分義歯を飲み込んでしまったケースも。
この場合、窒息や誤嚥だけでなく、消化管障害、衛生面の問題などへも配慮が必要になります。
自発性の低下
進行して自発性の低下が目立ってくると、食べ物を延々と咀嚼し続け、口腔内にため込んでしまうことが起こります。
こういう「飲み込まずに噛み続ける」状態は、咀嚼運動や嚥下機能の問題ではありません。
自発性の低下や、口腔期の協調運動低下による症状と考えられます。
これがさらに進行していくと、
- 介助しても口を開かない
- 口腔内に食べ物が入っていても口を閉じない、咀嚼しない
- 口が動かない
など、無動の影響を受けた症状が見られるようになります。
歩く時、足の動きと手の振りが左右逆に連動しているのも協調運動です。
「腕を速く振ると足が速くなる」なんて言いますが、これは協調運動を利用しているんですね。
転じて、口腔期の協調運動とは、口腔周囲筋と舌の動きなどの連動を指しており、これらがうまくかみ合うことでスムーズな嚥下につながるというわけです。
効果が薄いのにやりがちなケア
異食や盗食があった時、とりあえずやることは、声掛けですよね。
それは、介護士としては正解です。
ですが、前頭側頭型認知症による食行動障害においては、正解とは言い切れません。
この時、本人の会話能力も障害されている場合が多いです。
そんな人に「なんで食べ物じゃないのに食べたの?」とか異食の理由を聞き出そうとしても、言語面の将棋によりうまく返答できませんし、説得も効果的ではありません。
この場合の適切なケア・対応を導き出すには、普段の関わりと観察的なアセスメントが必要とされています。
まとめ
この記事では、前頭側頭型認知症による食行動の概要的なことをお話ししました。
実際の対応方法については、またの機会にまとめたいと思います。